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ひと

【ひと(人)】[hito]←[fito]

■「ひと[hito]」の「ひ[fi]」は「ひ(霊)[fi]」の[fi]とおなじく生命力そのものを示し、「と[to]」は「と(処)」、つまり「そと(外)[soto]」の[to]と同じく場所を意味する。「生命力のとどまるところ」としての「人」が、日本語が人間をつかんだ原初の形である。

生物学上は、脊椎動物門哺乳綱霊長目ヒト科に分類される。現生人類はすべて一属一種、すなわちホモ‐サピエンスであり、生物学上はこれを「ひと」という。 協同労働と言葉を獲得することによって、考えることが可能になった霊長類を人という。近代にいたり,労働し言語をもつ生命として人が「人間」として再発見された。

※古代万葉仮名では「ひ(日)」の[i]と「ひ(火)」の[i]は甲乙違い別の音であった。『大和言葉を忘れた日本人』(長戸宏、明石書店、2002年刊)では「大和言葉『ひと』は『火の使用』と関係します。つまり、『ひと』は『ひ』を『と(=つなぐもの)』という意味になるでしょう」と述べている。しかし、これは、万葉仮名の時代にあった区別がそれよりも古い弥生期やあるいは縄文期には無かったということを実証しない限り、単なる思いつきになってしまう。この書はいろいろと示唆に富むものであるが、この点は是非再検討してほしい。

▼動物に対するものとしての人。

◇『古事記』「一つ松比登(ヒト)にありせば太刀佩けましを衣きせましを」 ◇『万葉集』八九二「わくらばに人とはあるを、人並みに吾も作るを」 ◇『紫式部日記』「人はなほこころばへこそかたきものなめれなど」 ◇『枕草子』「鸚鵡(あうむ)いとあはれなり、人のいふらんことをまねぶらんよ」

▼一人前の人格をもつものとしての「ひと」。

▽具体的な人を表す場合。 ◇『其面影』二葉亭四迷「人に由って大違ひ!全然別の人のやうに成るンですもの」 ◇『徒然草』八十「人ごとに我身にうとき事をのみぞ好める」

▽抽象的に人というもの一般を表す場合。 ◇人の意見をしっかりと聞け。 ◇『万葉集』八九二「あれをおきて人はあらじと誇ろへど」 ◇『源氏物語』夕顔「下が下と、人の思すてしすまひなれど」 ◇『徒然草』一四二「いかがして人を恵むべきとならば」 ◇人となり。 ◇人にすぐれた腕前。 ◇『ある日の対話』島崎藤村「あんな美しいものを作曲するには、人を得なくては」

▽人間の品格。人柄。人品など人としての内容そのものを意味する。 ◇『源氏物語』帚木「人もたちまさり、心ばせまことにゆゑありと見えぬべく」 ◇人がよい。人が悪い。人でなし。 ◇『枕草子』一一九「烏帽子のさまなどぞ、少し人わろき」 ◇『枕草子』二八「おほかた、人の家のをとこ主ならでは」 ◇『多情多恨』尾崎紅葉「君は然云ふ不実な人物(ヒト)とは思はんだった」

▼人を一般的に示す。漠然と示す ◇『伊勢物語』四八「うまのはなむけせんとて人を待ちけるに」 ◇『古今集』四〇七「わたの原八十島かけて漕ぎいでぬと人にはつげよあまの釣舟」 ◇『万葉集』五六二「暇なく人の眉根を徒に掻かしめつつも逢はぬ妹かも」 ◇『源氏物語』薄雲「いたづらなる野辺の虫をも棲ませて、人に御覧ぜさせむと思ひたまふるを」 ◇うちの人、人を使う ◇『平凡』二葉亭四迷「人を入れて別話を持出したから」



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