【思想(しそう)】
自覚された生きかた。自覚されたものの見方。
◆われわれ人間は、協同して働き生きる生命であり、その協同の労働を言葉によって実現する生命である。協同の労働は家族より広い人間の関係を生み出す。このように自然な家族を超えた集団の成立は、逆に集団における個別の人間の果たすべき役割ということに対する自覚を促す。「私はこのような人間だ」と自覚し、そのような人間としての自己を実現していくことが人生である。これが人間である。このときわれわれは自己の生き方とものの見方をまとまりあるものとして自覚する。「私はこうする」「私はこう見る」ということが起こる。さらにここから人生を目的意識的に生きることをする。これが人間の思想である。つまり、「自分はこのような人間としてこのように考えこのように生きるのだ」という、その内容がその人間の思想である。
思想は、人間が人間として生きるとき、必ずある。
言葉としての「思想」はもとは「心に浮かんだ考え」のことであった。人を思想をもって生きる生命としてつかみ、その内容を「思想」として言い表すこと自体は、人間が発見された近代の産物である。
▼心に浮かんだ考え。 ◇『地蔵菩薩霊験記』一〇・一「仏心者大慈悲心是也とあれば、彼方に善心ぞ悪心ぞと思想なきなり」 ◇『遠羅天釜』白隠「精錬刻苦し、思想尽き情念止むに似たりといえども」 ◇『悪魔』国木田独歩「此時、私の心に雷(いなづま)のように閃いてきた思想があった」
▼自覚された生きかた。自覚されたものの見方。 ◇あの人には思想がある、危険な思想、思想を弾圧する。 ◇『珊瑚集』永井荷風「軍国政府為に海外近世思想の侵入せんことを悲しみ」 ◇『鮫』金子光晴「もはや、人々の思想には、ピクリン酸、ニトロ・グリセリンの危うさはなく」