◆人の体の一部。肩から別れた部分全体も言い、手首から先を言うこともある。ものを作り道具を使う人のもっとも基本的な営みをになう器官。またものを指し示すはたらきもする。 同様の役割をする動物の器官。あるいはものの形状や機能が人間の手と同様なとき、それも手という。 さらにこれが一般化され、方法、やり方、方向も意味する。
※古形「た」はタミル語<toi>由来。
▼体の一部としての手。 ◇『日本書紀』継体七年九月・歌謡「妹が堤(テ)を我に枕(ま)かしめ」 ◇『竹取物語』「からうじて思ひ起して、弓矢をとり立てんとすれども、手に力もなくなりて、萎えかかりたり」 ◇『源氏物語』夕顔「手をたたき給へば」
▽形態や機能が手に類似しているもの。 ◇「朝顔の手」 ◇「取手(とって)」「引手」「釣手」「急須(きゅうす)の手」「手のついた鍋」 ◇『枕草子』四九「南遣戸のそばの、几帳のてのさし出でたるにさはりて」
▽動く状態になったものの先の部分。 「火の手」
▼さまざまな行為をすることを、手を動かすことに代表あるいは象徴して用いる。 ▽作業すること。 ◇『万葉集』八八六「うち日さす 宮へ上るとたらちしや 母が手離れ 常知らぬ 国の奥処(おくか)を百重(ももへ)山 越えて過ぎ行き いつしかも」 ◇「手を出す」「手につかない」「手にかける」「手をとめる」 ▽作業する労力。 ◇「手を貸す」「手がすく」「手が足らぬ」「手がやける(かかる)」 ▽作業する能力。 ◇「手に負えぬ」「手にあまる」 ▽人との関係。 ◇「手をつける」「手を切る」
▼もつこと。所有すること。 ▽もつ者をさしていう。 ◇「手に入れる」「手に渡る」「手に落ちる」 ▽勝負事で、使える可能な方法。 ◇「手が悪い」「手が見える」 ◇『膝栗毛』四「サアしまった。時にお手はなんじゃいな」 ▽部将の配下、軍勢をいう。 ◇「手の者」 ◇『平家物語』四「故左馬頭義朝が手に候ひて」
▼ことなす方法やわざを言う。 ▽武芸などのわざ、術など。 ◇「相撲の手」 ◇『源氏物語』帚木「たなばたのてにもおとるまじく」 ▽書の術。書風。書かれた文字。筆跡。 ◇「女性の手」 ◇『枕草子』二三「てのあしさよさ、歌のをりにあはざらんも知らじ」 ▽琴、笛、鼓など、音曲のわざ。調子、譜。 ◇「三味線の手」 ◇『宇津保物語』俊蔭「ただ琴をのみひく、<略>ひとつの手のこさず習ひとりつ」 ▽能楽、舞踊などでの、きまった舞い方。舞の型。 『風姿花伝』一「舞をも手を定めて、大事にして稽古すべし」 ▽ことなすための手段。てだて。方法。 ◇『源氏物語』竹河「あはれとて手をゆるせかし生死(いきしに)を君にまかする我が身とならば」 ◇「その手に乗るな」
▼ある方面,方向、種類。 ◇「山の手」「上手」 ◇「このての品物」
▼接頭または接尾のについて「手」にかかわる意を添える。 ▽機械ではなく人手をかけて作ったもの。 ◇「手織」「手料理」「手製」「手加減」「手打ち」「手造り」 ▽持ち運び、取り扱いに適する小型のものであることを表す。 ◇「手箱」「手文庫」「手斧」「手帳」 ▽その方向、方面にあることを示す。 ◇「左手」「行手(ゆくて)」「上(かみ)手」「下(しも)手」「裏手」 ▽ある基準に関して、それと同じ種類に属していることを表す。品種、品質。 ◇「おくて」「高麗手(こうらいで)」「厚手」「薄手」「古手」 ▽動作の主を表す。 ◇「射手」「嫁のもらい手」「やり手」 ▽形容詞、形容動詞について、作業の内容、難易などを表す。 ◇「手痛い」「手ごわい」「手厚い」「手短」「手広い」 ▽「手の」「手による動作である」などの意味を強調する。 ◇「たなごころ」「手折(たお)る」「手向(たむけ)る」
【熟語】
「手が上が(あが)る」技量が上達する。腕前があがる。
「手が空(あ・す)く」仕事が一段落してひまになる。
「手が要(い)る」人手を要する。
「手が掛(か)かる」手数がいる。世話がやける。
「手が利(き)く」わざが巧みである。器用である。
「手が切れる」関係がなくなる。
「手がこむ」細工・技巧などが緻密である。
「手が下(さ)がる」腕前がにぶる。
「手が付(つ)かない」他の事が気になってその事に集中できない。
「手が付けられない」処置のしようがない。
「手が出(で)ない」施す手立てがない。
「手が届(とど)く」できることの内にある。。
「手がない」働き手がない。どうしようもない。
「手が入(はい・い)る」他人の作業が加わる。
「手が離(はな)れる」一段落してしなくてもよくなる。幼児が成長して身の回りの世話が楽になる。
「手が早(はや)い」処理が敏速である。すぐ、なぐるなどの暴力をふるう。
「手が塞(ふさ)がる」作業中で他のことができない。
「手が見(み)える」相手の方法が見える。
「手が焼(や)ける」世話がかかる。
「手が良(よ)い」うまい方法であること。
「手が悪(わる)い」やり方がよくない。たちが悪い。
「手取り足取り」行き届いた世話をするさま。丁寧に教える様子。
「手に汗を握る」緊張したり興奮している様子。
「手に余(あま)る」自分の力では及ばない。
「手に入(い)る」自分のものとなる。
「手に負えない」自分の力ではどうにもならない。
「手に落(お)ちる」その所有となる。その支配下にはいる。
「手に掛(か)かる」処分される。
「手に掛(か)ける」自分で行う。心のままに行う。自分の手で殺す。
「手に付(つ)かない」他に心が奪われて、身がはいらない。
「手に乗(の)る」術中に陥る。欺かれる。
「手の物(もの)」自由にできること。熟練して得意とするわざ。
「手の者(もの)」配下のもの。てした。
「手八丁(はっちょう)口八丁」手先も口先も達者であること。
「手も足も=出ない[=出せない]」方法がない。
「手もなく」たやすく。
「手を打(う)つ」必要な手段を講じる。一策を用いる。「手を打っておく」
「手を貸(か)す」手助けをする。助力する。
「手を借(か)りる」手伝ってもらう。助力してもらう。
「手を染(そ)める」しはじめる。事業などに関係する。「相場に手を染める」
「手を尽(つ)くす」あらゆる手段・方法をつくす。
「手を焼(や)く」もてあます。
「手を煩(わずら)わす」人に世話をかける。やっかいをかける。