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不等式の証明[04明治大]

問題     

$x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$を実数,$n$を自然数とする.このとき

\begin{displaymath}
n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2\ge 0
\end{displaymath}

が成立することを示せ.


方針

1.
数学的帰納法.
2.
直接の変形.
3.
コーシー・シュワルツの不等式.
4.
$y=x^2$という下に凸な関数を用いる.

解1

任意の実数 $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$と,自然数$n$に対し,不等式

\begin{displaymath}
n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2\ge 0
\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

が成立することを数学的帰納法で示す.

$n=1$のとき.

$\maru{1}$

\begin{displaymath}
x_1^2-(x_1)^2=0
\end{displaymath}

となり,成立.

$n=m$のとき命題が成立するとする.

$n=m+1$のとき.

\begin{eqnarray*}
&&(m+1)\sum_{k=1}^{m+1}{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^{m+1}x_k\right...
...\sum_{k=1}^mx_k\right)^2
+\sum_{k=1}^m\left(x_k-x_{m+1}\right)^2
\end{eqnarray*}

数学的帰納法の仮定から

\begin{displaymath}
m\sum_{k=1}^m{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^mx_k\right)^2\ge 0
\end{displaymath}

なので,$n=m+1$のときも$\maru{1}$は成立する.

かつ$\maru{1}$での等号成立が

\begin{displaymath}
x_1=x_2=\cdots=x_n
\end{displaymath}

のときであることも示された. □

解2

直接示す.

\begin{eqnarray*}
&&
n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2\\
&=&
...
...}x_ix_j\right\}\\
&=&(n-1)\sum_{k=1}^n{x_k}^2-2\sum_{i<j}x_ix_j
\end{eqnarray*}

$\displaystyle \sum_{i<j}x_ix_j$では,どの文字もちょうど$n-1$回ずつ現れる. したがって

\begin{displaymath}
(n-1)\sum_{k=1}^n{x_k}^2-2\sum_{i<j}x_ix_j=
\sum_{i<j}\left({x_i}^2-2x_ix_j+{x_j}^2\right)
\end{displaymath}

である.つまり

\begin{displaymath}
n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2
=\sum_{i<j}\left(x_i-x_j\right)^2\ge 0
\end{displaymath}

等号成立は

\begin{displaymath}
x_1=x_2=\cdots=x_n
\end{displaymath}

のとき. □

解3

$t$を実数の変数にとり,2次式$f(t)$

\begin{displaymath}
f(t)=(t-x_1)^2+(t-x_2)^2+\cdots+(t-x_n)^2
\end{displaymath}

とおく.

\begin{displaymath}
f(t)=nt^2-2(x_1+x_2+\cdots+x_n)t+({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2)
\end{displaymath}

である.任意の実数値$t$に対して$f(t)\ge 0$であるから,その判別式$D$$D\le 0$である.

\begin{displaymath}
D/4=(x_1+x_2+\cdots+x_n)^2-n({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2)\le 0
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2\ge 0
\end{displaymath}

が示された.等号成立は$D=0$,つまり$f(t)=0$となる実数$t$が存在するときである. よって

\begin{displaymath}
(t-x_1)^2=(t-x_2)^2=\cdots=(t-x_n)^2=0
\end{displaymath}

となる実数$t$が存在するときである.これは

\begin{displaymath}
t-x_1=t-x_2=\cdots=t-x_n=0
\end{displaymath}

となる実数$t$が存在するときである.つまり 等号成立は

\begin{displaymath}
x_1=x_2=\cdots=x_n
\end{displaymath}

のとき. □

解4

$s+t=1$である正の数と,実数$p,\ q$に関して

\begin{displaymath}
sp^2+tq^2\ge (sp+tq)^2
\end{displaymath}

実際,

\begin{eqnarray*}
&&sp^2+tq^2-(sp+tq)^2\\
&=&s(1-s)p^2-2stpq+t(1-t)q^2\\
&=&st(p^2-2pq+q^2)=st(p-q)^2
\quad \cdots\maru{1}
\end{eqnarray*}

である.ここで等号成立は$p=q$のときである.また

\begin{eqnarray*}
&&n\sum_{k=1}^n{x_k}^2-\left(\sum_{k=1}^nx_k\right)^2\ge 0\\
...
...+{x_n}^2}{n}\ge
\left(\dfrac{x_1+x_2+\cdots+x_n}{n} \right)^2\\
\end{eqnarray*}

そこで,この不等式の成立と 等号成立が $x_1=x_2=\cdots=x_n$のときであることを, $n$についての数学的帰納法で示す.

$n=1$のときは ${x_1}^2=(x_1)^2$で成立する.

$n=k$で成立するとする.$n=k+1$のとき

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_k}^2+{x_{k+1}}^2}{k+1}\\
&...
...ght)^2\\
&=&\left(\dfrac{x_1+x_2+\cdots+x_{k+1}}{k+1} \right)^2
\end{eqnarray*}

等号成立は $x_1=x_2=\cdots=x_k$かつ $\dfrac{x_1+x_2+\cdots+x_k}{k}=x_{k+1}$,つまり $x_1=x_2=\cdots=x_{k+1}$のときである. よって$n=k+1$のときも成立し,すべての$n$で成立した. □


吟味
この問題の不等式は,コーシー・シュワルツの不等式と,凸関数の不等式の両方の性質をもつ不等式である.それぞれの方向に一般化することができる.


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