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不等式と凸関数[99京大後期理系]

問題     

$\alpha,\ \beta,\ \gamma$ $\alpha>0,\ \beta>0,\ \gamma>0$, $\alpha+\beta+\gamma=\pi$ を満たすものとする.このとき, $\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma$ の最大値を求めよ.


方針

1.
$\alpha+\beta+\gamma=\pi$という関係式があるから $\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma=\sin \alpha \sin \beta \sin(\alpha+\beta)$ となる.

2変数の関数の最大最小を求めるのは1文字を固定して考える. まず $f(\alpha)=\sin \alpha \sin \beta \sin(\alpha+\beta)$とおいて, $\alpha$ の関数として 最大を $\beta$ の入った形で求め,それから $\beta$ を動かせばよい.

2.
$\alpha>0,\ \beta>0,\ \gamma>0$, $\alpha+\beta+\gamma=\pi$となれば, この三つの角は三角形の内角だ.三角形で考えることはできないか. $\sin$が出てくるので正弦定理を考える. 三角形の3辺を $a,\ b,\ c$ ,外接円の半径を $R$ とすると

\begin{displaymath}
a=2R\sin\alpha,\ b=2R\sin\beta,\ c=2R\sin\gamma
\end{displaymath}

すると,

\begin{displaymath}
\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma
=\dfrac{a}{2R}\cdot\dfr...
...n \gamma
=\dfrac{1}{2R^2}\cdot\dfrac{1}{2}\cdot ab\sin\gamma
\end{displaymath}

問題は角度のみに関することなので $R=1$ としても一般性を失わない.
3.
第三の解だ.『数学対話』「凸多角形と凸関数」にある. 関数の凸性を用いるものである. ここにそれを再録しよう.

解1
$\gamma$を消去し,$\beta$を固定して考える.

$\alpha+\beta+\gamma=\pi$$\gamma>0$より $\alpha+\beta<\pi$, つまり $0<\alpha<\pi-\beta$, この範囲の $\alpha$ に対して

\begin{displaymath}
f(\alpha)=\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma=\sin \alpha \sin \beta \sin(\alpha+\beta)
\end{displaymath}

とおく. $\sin \alpha \sin(\alpha+\beta)=\dfrac{1}{2}\{\cos \beta-\cos(2\alpha+\beta)\}$なので

\begin{displaymath}
f(\alpha)=\sin\beta\{\cos \beta-\cos(2\alpha+\beta)\}
\end{displaymath}

ここで $\alpha<2\alpha+\beta<\pi+\alpha$かつ$\sin\beta>0$だから $f(\alpha)$ が最大になるのは $\cos(2\alpha+\beta)=-1$のとき. つまり $2\alpha+\beta=\pi$ のとき. このとき最大値は $\dfrac{1}{2}\sin\beta(\cos \beta+1)$である.

\begin{eqnarray*}
\sin\beta(\cos \beta+1)&=&\sqrt{\sin^2\beta(\cos \beta+1)^2}
=...
...eta)(\cos \beta+1)^2}\\
&=&\sqrt{(1-\cos\beta)(\cos \beta+1)^3}
\end{eqnarray*}

$\beta$ の変域は $0<\beta<\pi$ である. $t=\cos\beta$ とし,

\begin{displaymath}
g(t)=(1-t)(t+1)^3\ \ (-1<t<1)
\end{displaymath}

とおく.

\begin{displaymath}
g'(t)=2(1-2t)(t+1)^2
\end{displaymath}

より $t=\dfrac{1}{2}$ で最大になる. $t=\cos\beta=\dfrac{1}{2}$より, $\beta=\dfrac{\pi}{3}$. このとき $\alpha=\gamma=\dfrac{\pi}{3}$ である.


\begin{displaymath}
∴ \quad 求める最大値
= \left(\sin \dfrac{\pi}{3} \right)^3
= \left(\dfrac{\sqrt{3}}{2} \right)^3=\dfrac{3\sqrt{3}}{8}
\end{displaymath}  □


解2
$\alpha>0,\ \beta>0,\ \gamma>0$, $\alpha+\beta+\gamma=\pi$より,この3角を内角とする 三角形が存在する. $\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma$の最大値を求めるためには, 三角形の外接円の半径を1としてよい.三つの角の対辺の長さを $a,\ b,\ c$ とすると 正弦定理より

\begin{displaymath}
a=2\sin\alpha,\ b=2\sin\beta,\ c=2\sin\gamma
\end{displaymath}

すると,

\begin{displaymath}
\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma
=\dfrac{a}{2}\cdot\dfrac{...
...ot\sin \gamma
=\dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{1}{2}\cdot ab\sin\gamma
\end{displaymath}
したがって求める最大値は,半径1の円に内接する三角形の面積の最大値の $\dfrac{1}{2}$ になる. 最大値を求めるために,外心から一つの辺への垂線$\mathrm{OH}$の足の長さを $t$ とおく. 動くものはもう一つこの垂線を下ろした辺に対する頂点$\mathrm{P}$である. $t$ を固定する.この頂点が $\mathrm{P},\ \mathrm{O},\ \mathrm{H}$の3点が1直線上に来るとき 三角形の面積は最大になる.

底辺の長さが$2\sqrt{1-x^2}$で高さが $t+1$ なので面積は

\begin{displaymath}
S(t)=\sqrt{(1-t^2)(1+t)^2}=\sqrt{(1-t)(1+t)^3}
\end{displaymath}

となる. 結局,解1と同じ式になり, $t=\dfrac{1}{2}$のとき最大で,最大値は $\dfrac{3\sqrt{3}}{8}$

このとき三角形は正三角形である.□


解3

$0<x<\pi$ に対し

\begin{displaymath}
f(x)=\log(\sin x)
\end{displaymath}
とおく.

\begin{displaymath}
f'(x)= \dfrac{\cos x}{\sin x},\ f''(x)=-\dfrac{1}{\sin^2 x}<0
\end{displaymath}
 

よって,曲線 $y=f(x)$ は上に凸である.

したがって,3点 $\mathrm{A}(\alpha,\ f(\alpha))$ $\mathrm{B}(\beta,\ f(\beta))$ $\mathrm{C}(\gamma,\ f(\gamma))$ でつくる $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ は領域 $y\le f(x)$ にある.


\begin{displaymath}
\mathrm{G} \left(\dfrac{\alpha+\beta+\gamma}{3},\
\dfrac{f(\alpha)+f(\beta)+f(\gamma)}{3} \right)
\end{displaymath}

とおくと $\mathrm{G}$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の重心であり, $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ の内部にある.

したがって $\mathrm{G}$ も領域 $y\le f(x)$ にある.つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{f(\alpha)+f(\beta)+f(\gamma)}{3} \le f \left(\dfrac{\alpha+\beta+\gamma}{3}\right)
=f \left(\dfrac{\pi}{3} \right)
\end{displaymath}

が成り立つ.

\begin{displaymath}
∴ \quad \dfrac{1}{3}\log(\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma)
\le \log \left(\sin\dfrac{\pi}{3}\right)
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma\le \left(\dfrac{\sqrt{3}}{2} \right)^3
=\dfrac{3\sqrt{3}}{8}
\end{displaymath}

ここで $\mathrm{G}$$y=f(x)$ 上に来るのは3点が一致するときのみ. つまり等号成立は $\alpha=\beta=\gamma$ のときのみ. つまり $\sin \alpha \sin \beta \sin \gamma$ $\alpha=\beta=\gamma=\dfrac{\pi}{3}$ の とき最大値は $\dfrac{3\sqrt{3}}{8}$ をとる.


吟味
さてこの三つの解法を比較検討してみよう. 2変数の関数の最大値は.まず1変数を固定し順次最大値を定めていけ, という考え方は一般的だ. こういう場面でそれが思い起こせるようにしたい.

第1の解法で $\alpha$ の関数として考えるということがはっきりしていれば, 数学III範囲になるが

\begin{displaymath}
f(\alpha)=\sin \alpha \sin \beta \sin(\alpha+\beta)
\end{displaymath}

を直接微分してもできる.

\begin{eqnarray*}
f'(\alpha)&=&\cos \alpha \sin \beta \sin(\alpha+\beta)+
\sin \...
...\sin \beta \cos(\alpha+\beta)\\
&=&\sin\beta\sin(2\alpha+\beta)
\end{eqnarray*}

したがって $2\alpha+\beta=\pi$となる $\alpha$ で極大かつ最大になることが判る. $\beta$ を動かすときもそのまま微分してもよい.ぜひ確認してほしいが, これは別解というほどのこともない.

それに対して第2の解法は三角形の面積に還元するうまい方法だ. しかしこれを $n$ 個の変数の場合に一般化することは難しい. 第3の方法は,$n$ 個の変数の場合に一般化できる. 『数学対話』「凸多角形と凸関数」にある.

$n$ 個の $\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_n$ はすべて正で $\alpha_1+\alpha_2+\cdots+ \alpha_n=\pi$ のとき

\begin{displaymath}
\sin \alpha_1 \sin \alpha_2 \cdots \sin \alpha_n \le \left(\sin\dfrac{\pi}{n} \right)^n
\end{displaymath}

がいえるか. と考えて,これを解決したものだ.

これを解2の方法でやるのは難しい.解1の方法なら,順次最大になる位置を決めていけば不可能ではないが,複雜になる.


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