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文字の一般性

文字で考えることによって, 文字を入れ替えただけの同じ論証はくりかえさなくてもよいことになる.

例えば $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ があり, 角の対辺の長さが $a, b, c$ であるとする. 各辺の長さと角の大きさの間に余弦定理 が成り立つことを証明しようとする. まず,一つの$\angle A$ について $a^2=b^2+c^2-2bc \cos A$ が成り立つことが示せたとする. すると,他の $b^2=c^2+a^2-2ca \cos B$ なども必然的に成り立つ.

なぜだろうか. 証明の過程ですべての文字について $A\to B,\ B \to C,\ C \to A$ の置き換えをすれば,それに対応して対辺の長さも $b \to c,\ c \to a,\ a\to b$に置き換わる. したがって, $a^2=b^2+c^2-2bc \cos A$ を示したのとまったく同じ論証の過程を経て $b^2=c^2+a^2-2ca \cos B$ が示される.

いくつかの文字を含む条件から ある結論を引き出したとする. すると,文字を規則正しく置きかえた結論は 「同様に示される」. 「同様に示される」ことを活用して証明を簡略化できる. これも文字という考え方のもつ大きな力である. この考え方はすでに例題(2.1)の 解答3において用いている.

$-abc+a^2+ab+b^2+2=0$および同様に得られる2式
$-abc+b^2+bc+c^2+2=0$ $-abc+c^2+ca+a^2+2=0$
この論述でも三文字を $a\to b,\ b \to c,\ c \to a$と順に入れ替えた結論については 「同様に」ということで済ませている.


例題 2.4       [03年京大]

四面体OABCは次の2つの条件

をみたしている.このとき,この四面体は正四面体であることを示せ.


考え方     どの文字についても対称性がある. つまり,どの頂点に関しても同じ条件である. このような場合一つの頂点$\mathrm{O}$を始点にとって示せたなら 同じ論証はくりかえさなくても,文字を置きかえて得られる結論は, 「同様に」とすることで,くりかえさなくてもよい.

解答    

$\overrightarrow{\mathrm{OA}}
=\overrightarrow{\mathstrut a}$, $\overrightarrow{\mathrm{OB}}=\overrightarrow{\mathstrut b}$, $\overrightarrow{\mathrm{OC}}
=\overrightarrow{\mathstrut c}$ とおくと, 条件(i)より

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathstrut a}\cdot\left(\overrightarrow{\mat...
...ightarrow{\mathstrut b}-\overrightarrow{\mathstrut a}\right)=0
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad \overrightarrow{\mathstrut a}\cdot\overrightarrow{\m...
...strut c}\cdot\overrightarrow{\mathstrut a}
\quad\cdots\maru{1}
\end{displaymath}

また, 条件(ii)より

\begin{displaymath}
\triangle{\rm OAB}=\triangle{\rm OBC}=\triangle{\rm OCA}
\end{displaymath}

なので

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{2}
\sqrt{\left\vert\overrightarrow{\mathstrut a}\r...
...rrow{\mathstrut c}\cdot\overrightarrow{\mathstrut a}\right)^2}
\end{displaymath}

となる.ここで$\maru{1}$を適用すると

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{\mathstrut a}\right\vert^2\left\ve...
...ght\vert^2\left\vert\overrightarrow{\mathstrut a}\right\vert^2
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad
\left\vert\overrightarrow{\mathstrut a}\right\vert=...
...right\vert=
\left\vert\overrightarrow{\mathstrut c}\right\vert
\end{displaymath}

すなわち

\begin{displaymath}
{\rm OA}={\rm OB}={\rm OC}
\end{displaymath}

条件(i)は三組の対辺が互いに直交することなので, 四点 $\mathrm{O},\ \mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}$に関して対称である. したがって$\mathrm{O}$の代わりに$\mathrm{A}$$\mathrm{B}$を始点にとることで,

\begin{eqnarray*}
&&{\rm AB}={\rm AC}={\rm AO}\\
&&{\rm BC}={\rm BO}={\rm BA}
\end{eqnarray*}

を得る.つまり

\begin{displaymath}
{\rm OA}={\rm OB}={\rm OC}={\rm AB}={\rm BC}={\rm CA}
\end{displaymath}

したがって, 四面体OABCは正四面体である. □



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