next up previous 次: 推論とは必要条件による限定 上: 必要と十分 前: 必要と十分

必要条件で絞り十分性を確認する

「変数が一定の定義域を動くときつねに何かが成り立つための定数に関する条件を求める」問題で,
  1. その条件(例えば $x \ge y \ge 0$) 特別な場合(例えば $1,\ 1$ など )でいったん条件を求める.
  2. その求まった条件がすべての $x$$y$ で成り立つ 十分条件でもあることを示す.
とすることが有効なときがある.この方法を「必要条件で絞る」という.

整数問題などでは, 条件を満たすすべての整数や整数の組を求める問題では, 何らかの必要条件で範囲を絞ることが出来れば, その範囲にある整数は有限個となり, 後は一つ一つ調べるという方法が基本である.


例題 1.4  

$x \ge y \ge 0$ をみたすすべての $x,\ y$ に対して $ax+by \ge 0$ が成り立つために,定数 $a,\ b$ がみたすべき条件を求めよ.


考え方     一定の条件を満たすすべての $x$$y$ に対してつねに成立する条件を求めよ ということだが,すべてで成立するものを直接さがすのは困難なときがある.

そのときどうするか.いくつかの特別な $x$$y$ の値で試してみるだろう. 条件を決めるべき定数は $a$$b$ の二つなのだから,二組の $x$$y$ の値 で試せばある程度のことはわかる.

それから逆にその条件の下でつねに成立することを示せばよい.それが次の解答だ.

解答     $x=1,\ y=0$ のとき

\begin{displaymath}
ax+by=a\ge0
\end{displaymath}

$x=1,\ y=1$ のとき

\begin{displaymath}
a+b\ge 0
\end{displaymath}

逆に $a+b\ge0$ かつ $a\ge0$ とする.

\begin{displaymath}
ax+by=a(x-y)+(a+b)y
\end{displaymath}

$x-y\ge0,\ y\ge0$ より

\begin{displaymath}
ax+by\ge0
\end{displaymath}

以上から, 求める条件は

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
a+b\ge0\\
a\ge0
\end{array}\right.
\end{displaymath}

である. □


  


例題 1.5       [99京大後期文系]

3次関数 $y=x^3+kx$ のグラフを考える. 連立不等式 $\left\{\begin{array}{l}
y>-x\\
y<-1
\end{array}\right.$ が表す領域を $A$ とする. $A$ のどの点からも上の3次関数のグラフに接線が3本引けるための, $k$ についての必要十分条件を求めよ.


考え方     これは京大らしい出題形式である. つまり問題を二つの段階に分割しなければならない. まず,3次関数 $y=x^3+kx$ のグラフに3本の接線が引けるような $xy$平面上の領域を確定しなければならない.

その上で,領域$A$がそこに含まれるための$k$に関する条件を求める. そのときに,必要条件で絞り,それが十分条件でもあることを示すのである.

解答     $C:y=x^3+kx$とする. $xy$平面上の点$(p,\ q)$から$C$へ3本の接線が引けるために, $p,\ q$が満たすべき条件を求める. 点$(p,\ q)$から$C$への接線の接点の$x$座標を$t$とする. $y'=3x^2+k$から,$C$$x=t$上の点における接線は

\begin{displaymath}
y=(3t^2+k)(x-t)+t^3+kt=(3t^2+k)x-2t^3\quad\cdots\maru1
\end{displaymath}

である.@が点$(p,\ q)$を通るので

\begin{displaymath}
2t^3-(3t^2+k)p+q=0\quad\cdots\maru2
\end{displaymath}

このような$t$が3個存在すればよい. Aの左辺を $f(t)$ とおく. $f(t)=0$が相異なる3個の実数解をもてばよい. $f'(t)=6t^2-6tp=6t(t-p)$であるから条件は

\begin{displaymath}
f(0)f(p)=(q-kp)(q-p^3-kp)<0
\end{displaymath}

である.これを満たす点$(p,\ q)$の集合を$B$とする.

\begin{displaymath}
B=\left\{(x,\ y)\vert kx<y<x^3+kx\quad または\quad kx>y>x^3+kx \right\}
\end{displaymath}

となる.

求めるべき$k$の条件は$A\subset B$となることである. 領域 $A$が第4象限にあるので,$A$の点の$x$座標は正である. $x$が正のとき$kx<x^3+kx$なので, $B$のうち$x$座標が正の領域は

\begin{displaymath}
kx<y<x^3+kx\quad\cdots\maru3
\end{displaymath}
である. 3で定まる領域を $B_+$ とする. $A\subset B_+$となる$k$の条件を求める. 点$(1,\ -1)$は,領域$A$の境界上の点であるので, 点$(1,\ -1)$が領域

\begin{displaymath}
kx\le y\le x^3+kx
\end{displaymath}
を満たすことが必要である. したがって

\begin{displaymath}
-2\le k\le-1\quad\cdots\maru4
\end{displaymath}

が必要である.

$k$$\maru{4}$を満たすとき$C$が極小になる$x$の値は $y'=3x^2+k=0,\ x>0$より $x=\sqrt{-\dfrac{k}{3}}$であるが,$\maru{4}$なので,

\begin{displaymath}
0<\sqrt{\dfrac{1}{3}}\le \sqrt{-\dfrac{k}{3}}\le \sqrt{\dfrac{2}{3}}<1
\end{displaymath}

となる.つまり$x\ge 1$において$y=x^3+kx$は単調に増加する. この結果$x\ge 1$ において

\begin{displaymath}
-1<x^3+kx
\end{displaymath}

となり,$A$$y<x^3+kx$に含まれる. また$\maru4$のとき$A$$y>kx$に含まれることも明らかである. よって領域 $A$の点は条件$\maru{3}$を満たし,$A$は領域 $B_+$ に含まれる. つまり,条件$\maru4$は十分条件であることが示された.

求める必要十分条件は$\maru{4}$である. □


next up previous 次: 推論とは必要条件による限定 上: 必要と十分 前: 必要と十分
Aozora Gakuen