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推論とは必要条件による限定

$A$ならば$B$である. このとき,結論$B$$A$が成立するための必要条件である. このように推論を重ねていくことは, 必要条件によって範囲を限定していくことに他ならない. 「必要条件で絞る」というと何か特殊な方法のようだが,そうではない. 「必要条件」とはもともと「絞って限定する」ものなのだ.

例題 1.6       [大阪市大過去問]

$n$ を整数とする.「方程式 $x^2-y^2=n$ が整数解 $(x,\ y)$ をもつ」 ためには, $n$ が奇数または4の倍数であることが,必要かつ十分条件であることを示せ.


解答     整数解をもつとする.それを $(x,y)=(x_0,\ y_0)$ とする.すると,

\begin{displaymath}
{x_0}^2-{y_0}^2=(x_0+y_0)(x_0-y_0)=n
\end{displaymath}

となる. $x_0+y_0=x_0-y_0+2y_0$なので, $x_0+y_0$$x_0-y_0$ の偶数,奇数は一致する. だから,$x_0+y_0$が奇数なら $n$ は奇数.$x_0+y_0$が偶数なら $n$ は4の倍数. つまり必要条件であることがわかる.

これは整数解をもつような $n$ が「奇数または4の倍数」に絞られたのだ. $n$$2 \times 奇数$ ではあり得ないことがわかったのだ.

逆に,

$n=2k+1$ のときは

\begin{displaymath}
(k+1)^2-k^2=2k+1
\end{displaymath}

なのでたしかに $(x,y)=(k+1,\ k)$という整数解がある.

$n=4k$ のときは

\begin{displaymath}
(k+1)^2-(k-1)^2=4k
\end{displaymath}

なのでたしかに $(x,y)=(k+1,\ k-1)$という整数解がある. よって条件「奇数または4の倍数」は十分条件でもある.□


例題 1.7       [84東京工大]

$a,\ b$を正の整数とする.

(1)
$c=a+b,\ d=a^2-ab+b^2$とおくとき,不等式

\begin{displaymath}
1<\dfrac{c^2}{d}\le 4
\end{displaymath}

が成り立つことを示せ.
(2)
$a^3+b^3$が素数の整数乗になる$a,\ b$をすべて求めよ.


必要条件で絞る方法を用いる整数問題の典型だ. どのような必要条件を用いるか.それが小問でヒントとして与えられている. そこで用いられているのは実数条件だ. 実数条件だけでも素数が二つに限定されるのだ.

解答    

(1)     $d=\left(a-\dfrac{b}{2}\right)^2+\dfrac{3b^2}{4}>0$であるから,

\begin{displaymath}
d<c^2\le 4d
\end{displaymath}

を示せばよい.

\begin{eqnarray*}
c^2-d&=&a^2+2ab+b^2-(a^2-ab+b^2)=3ab>0\\
4d-c^2&=&4(a^2-ab+b^2)-(a^2+2ab+b^2)\\
&=&3(a-b)^2\ge 0
\end{eqnarray*}

より成立する.

(2)     $a^3+b^3$が素数のべきになったとしてそれを

\begin{displaymath}
a^3+b^3=p^n
\end{displaymath}

とおく. 一方, $a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)=cd$であるから $c=p^k,\ d=p^{n-k}$とおける. ここで, $c\ge 2,\ d\ge 1$なので,$k$の範囲は$1\le k\le n$である. ゆえに(1)から

\begin{displaymath}
1<p^{3k-n}\le 4
\end{displaymath}

したがって次の三通りのいずれかである.

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
p=2,\ 3k-n=1\\
p=2,\ 3k-n=2\\
p=3,\ 3k-n=1
\end{array} \end{displaymath}


$p=2,\ 3k-n=1$のとき.$n=3k-1$である. したがって $a+b=2^k,\ a^2-ab+b^2=2^{2k-1}$となる. このとき

\begin{displaymath}
(a+b)^2-(a^2-ab+b^2)=2^{2k}-2^{2k-1}=2^{2k-1}
\end{displaymath}

であるから,$3ab=2^{2k-1}$.このような$k$は存在しない.
$p=2,\ 3k-n=2$のとき.$n=3k-2$である. したがって $a+b=2^k,\ a^2-ab+b^2=2^{2k-2}$となる. このとき

\begin{displaymath}
(a+b)^2-(a^2-ab+b^2)=2^{2k}-2^{2k-2}=3\cdot 2^{2k-2}
\end{displaymath}

であるから, $3ab=3\cdot 2^{2k-2}$$a$$b$

\begin{displaymath}
a+b=2^k,\ ab=2^{2k-2}
\end{displaymath}

を満たせばよい. $t^2-2^k t+2^{2k-2}=(t-2^{k-1})^2$より

\begin{displaymath}
(a,\ b)=(2^{k-1},\ 2^{k-1}),\ (k\ge 1)
\end{displaymath}


$p=3,\ 3k-n=1$のとき.$n=3k-1$である. したがって $a+b=3^k,\ a^2-ab+b^2=3^{2k-1}$となる. このとき

\begin{displaymath}
(a+b)^2-(a^2-ab+b^2)=3^{2k}-3^{2k-1}=2\cdot 3^{2k-1}
\end{displaymath}

であるから, $3ab=2\cdot 3^{2k-1}$$a$$b$

\begin{displaymath}
a+b=3^k,\ ab=2\cdot 3^{2k-2}
\end{displaymath}

を満たせばよい. より

\begin{displaymath}
(a,\ b)=(2\cdot 3^{k-1},\ 3^{k-1}),\ (3^{k-1},\ 2\cdot 3^{k-1}) (k\ge 1)
\end{displaymath}

以上から

\begin{displaymath}
(a,\ b)=(2^{k-1},\ 2^{k-1}),\
(2\cdot 3^{k-1},\ 3^{k-1}),\ (3^{k-1},\ 2\cdot 3^{k-1}) (k\ge 1)
\end{displaymath}

となる.□



例題 1.8       [01京大理系]

整数 $n$ に対し

\begin{displaymath}
f(n)=\dfrac{n(n-1)}{2}
\end{displaymath}

とおき,

\begin{displaymath}
a_n=i^{f(n)}
\end{displaymath}

と定める.ただし, $i$ は虚数単位を表す.このとき,

\begin{displaymath}
a_{n+k}=a_n
\end{displaymath}

が任意の整数 $n$ に対して成り立つような正の整数 $k$ をすべて求めよ.


考え方     この問題はどうだろうか. 「どこから手をつけていいかわかりにくい」という声が聞こえる. そのときは $a_{n+k}=a_n$ を同値変形で解きほぐすのだ. まず$f(n)$は連続二数の積なので必ず整数になる.$i$

\begin{displaymath}
\cdots,\ i^{-2}=-1,\ i^{-1}=-i,\ i^0=1,\ i^1=i,\ i^2=-1,\ i^3=-i,\ i^4=1,\ \cdots
\end{displaymath}

と,べき指数が4の倍数のときにかぎり1になる. この辺りは前提として必要だ.そして, 同値変形を活用して問題を解きほぐすのだ.

解答    

\begin{eqnarray*}
a_{n+k}=a_n&\iff&i^{f(n+k)}=i^{f(n)}\\
&\iff&i^{f(n+k)-f(n)}=...
...倍数\\
&\iff&\dfrac{(n+k)(n+k-1)}{2}-\dfrac{n(n-1)}{2}が4の倍数
\end{eqnarray*}

となる.

※ こうなればもう複素数を離れて,整数の問題になった.

\begin{displaymath}
\dfrac{(n+k)(n+k-1)}{2}-\dfrac{n(n-1)}{2}
=\dfrac{k(k+2n-1)}{2}=4l\ (l\ 整数)
\end{displaymath}

つまり, 任意の整数 $n$ に対してつねに $k(k+2n-1)=8l\ (l\ 整数)$となればよい.

$n=0$ のとき $k^2-k=k(k-1)=8l$. $k$$k-1$ は奇数偶数が逆なので, 整数 $m$ を用いて$k=8m$$k=8m+1$ と書けることが必要.

$n=1$ のとき $k^2+k=k(k+1)=8l$$k$$k+1$ は奇数偶数が逆なので$k=8m$$k=8m-1$と書けることが必要 . 両方成立するのは $k=8m$ .つまり $k=8m$が必要.

逆に $k=8m$なら$k^2+(2n-1)k$は8の倍数になる.

\begin{displaymath}
∴ \quad k=8m\ (\ m\ は正の整数)
\end{displaymath}


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