例題 1.15 [00北見工業大学]
次の定理と証明について,以下の問いに答えよ.
定理 素数は無限に存在する.
証明 定理が成立しないとすると,素数は有限個である.
それらの素数を
とする.
このとき,
を考えると,
は
のどれでも割り切れない. したがって, を素数の積として表したとき,
この積に現れる素数は
のいずれとも異なる.
これは矛盾である. したがって定理が証明された.
解答
は小さい方から 番目の素数なので
は
より大きい. の次に大きいのが なので
証明がこのようにできる以上, その証明の前提となる条件がなければならない. を「素数は無数にある」という命題として この問題を「 ならば 」の形にするとき には何が来るのだろう. としてはこの場合「『素数』を1とそれ自身の他に約数のない数と定める」 という定義命題がとれる.つまりこの証明のなかには素数の定義が前提として入っている.
この証明は本質的にはユークリッドによってなされた. ユークリッドは『原論』のなかで, 素数の個数が三個であるとして矛盾が起こるという形で議論した. ユークリッドは歴史に残る人のなかで,はじめて背理法を用いた人である.
次の命題も, その証明は背理法の典型であるが,背理法の立て方はいくつかある.
が無理数であることを示せ.
解答1
が無理数でない,つまり有理数とする.
とおく.ここで分数を約分し と は互いに素であるとする.
解答2
が無理数でない,つまり有理数とする.
とおく.
解答3
が無理数でない,つまり有理数とする.
とおく.
「 は無理数である」という命題は「 ならば 」という形はしていない. のところは少なくとも, 無理数の定義,整数,有理数の定義と性質が入っていなければならない. が,それは当然の前提として命題中には書かれていない. したがって,有理数のどのような性質との矛盾を導くのかによって,いくつかの解法がある.
例題 1.17 [大阪市大]
次の各問に答えよ
解答
(1)
が有理数と仮定し,既約分数
とおく.これから
(2)
は3次方程式
なら となる. (1)をで用いると は無理数なので,矛盾である.
ならも成り立ち,を消去して. は実数なので となり,が有理数であることと矛盾した.
したがって は有理数を係数とする2次方程式の解にならないことが示された. □
次の例題もまたいろんな証明法がある.
例題 1.18 [名大類題]
を実数とする.関数 の絶対値の 最大値を とする.
解答1
(1)
背理法で示す.
とする. つまり, のすべての
に対して,
が成り立つとする.
特に
であるから
(2) のとき のすべての に対して, が成り立つ.
または
の少なくとも一方が成り立つと,
(1)と同様に
となる.
これは,
に反する.
よって
解答2
(1)
とする.
つまり, のすべての
に対して,
が成り立つとする.
特に
であるから
よって, が示された.
(2)
という関数を既知であれば次のような論証が可能である.
解答3
(1) とおく. これを用いて, として矛盾を示す.
は で最小値
をとり,
である.
であるから
(2) (1)より になるのが のときだから .
つまり . □