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恒等式

まず恒等式とは何か.それを理解するためには「等号」を知らねばならない.

次の三つの等号はそれぞれ意味が異なる.

  1. $x^2-3x+2=0$
  2. $x^2-3x+2=(x-1)(x-2)$
  3. $y=x^2-3x+2$
自分でその違いが説明できるだろうか.

  1. の等式は$x$に特定の値を代入したときのみ成立し「方程式」といわれる.
  2. の等式は$x$に任意の値を代入したとき成立し「恒等式」といわれる.
  3. の等式は $y$$x^2-3x+2$で定まる $x$ の関数であること, あるいは $x^2-3x+2$$y$ と置いたことを意味している.また, $x$$y$ の等式と見れば一定の $(x,\ y)$ の値に対してのみ成立する 一種の方程式(不定方程式)でもある.

このように等号はいろんな意味があるので, 常に意識して等号の意味を考えなければならない. そこで,恒等式を特徴づける基本性質を示そう.


定理 1
$A(x),B(x)$ が高々$n$次の $x$ についての整式であるとき, 次の三つの命題は同値である. またこのとき,等式 $A(x)=B(x)$恒等式 であるという.

(i)
$A(x)$$B(x)$ は同一の式である.つまり, 次数が等しくかつ同じ次数の項の係数が等しい.
(ii)
任意の$x$の値に対して$A(x),B(x)$ は同一の値をとる.
(iii)
等式$A(x)=B(x)$が異なる$n+1$個の$x$の値に対して成り立つ.

証明

  1. $(\mathrm{i}) \Rightarrow (\mathrm{ii})$:明白である.
  2. $(\mathrm{ii}) \Rightarrow (\mathrm{iii})$:明白である.
  3. $(\mathrm{iii}) \Rightarrow (\mathrm{i})$ $H(x)=A(x)-B(x)$$n$ 次以下の整式である. $a_i(1 \le i \le n+1)$ の相異なる $a_i$ に対して, $H(a_i)=0$ であるから,因数定理より,

    \begin{displaymath}
H(x)=(x-a_1)(x-a_2) \cdots (x-a_{n+1})Q(x)
\end{displaymath}

    と因数分解される. もし $Q(x) \ne 0$ なら,左辺の次数は $n$ 以下であり, 右辺の次数は $n+1$ 以上となる. よって矛盾が起こる.従って $H(x)=0$ .つまり $A(x)=B(x)$ である.
このとき $(\mathrm{ii}) \Rightarrow (\mathrm{iii})$ $(\mathrm{iii}) \Rightarrow (\mathrm{i})$より $(\mathrm{ii}) \Rightarrow (\mathrm{i})$. ゆえに$(\mathrm{i})$$(\mathrm{ii})$は同値.他も同様.

ゆえに三つの条件は互いに他の二つの必要十分条件になっていることが示された. □


これをおさえて次の例題を考えよう. 問題を読んだら少し自分で考えてみてほしい.


例題 1.1       [法政大過去問]

$P(x)$ を三次以下の整式とする.恒等的に $P(x+1)+P(x-1)=2P(x)$ が成立すれば, 任意の $\alpha$ に対しても恒等的に $P(x+\alpha)+P(x-\alpha)=2P(x)$ が成立することを示せ.


考え方     この問題を普通は次のように$x$の整式の問題として解く. しかしまた$\alpha$に関する整式と見ることもできる.

解答1     $P(x)=ax^3+bx^2+cx+d$ とおく.

\begin{eqnarray*}
&&P(x+1)+P(x-1)\\
&=&a(x+1)^3+b(x+1)^2+c(x+1)+d +a(x-1)^3+b(x...
...ax^3+2bx^2+(6a+2c)x+(2b+2d)\\
&=&2P(x)\\
&=&2ax^3+2bx^2+2cx+2d
\end{eqnarray*}

これが恒等式になるので,

\begin{displaymath}6a+2c=2c\ ,\ 2b+2d=2d \end{displaymath}

より $a=0$$b=0$ .つまり $P(x)=cx+d$ . このとき

\begin{displaymath}
P(x+\alpha)+P(x-\alpha)=2cx+2d=2P(x)
\end{displaymath}

より成立.□


ここで少し観点を変え,$\alpha$の式と見てみよう.

解答2

\begin{displaymath}
P(x+\alpha)+P(x-\alpha)=2P(x) \quad \cdots \maru{1}
\end{displaymath}

$\alpha$ に関する等式と見る. @が$\alpha$ の方程式か恒等式かを考える. $P(x)$ の最高次数が三次なら

\begin{displaymath}
\alpha^3+(-\alpha)^3=0
\end{displaymath}

なので

\begin{displaymath}
P(x+\alpha)+P(x-\alpha)=P(\alpha+x)+P(-\alpha+x)
\end{displaymath}

つまり$\maru{1}$の左辺は $\alpha$ の多項式として二次以下で, 右辺は定数である. ところが$\maru{1}$ $\alpha=1\ ,\ -1\ ,\ 0$ で成立する. よって$\maru{1}$$x$が何であれ $\alpha$ の恒等式である. つまり任意の $\alpha$ に対して $x$ の恒等式でもある. □


これが「恒等式を発見する」ということである. 大切なことは「どの文字について恒等式か」を考えることだ. もう一つ例題をしよう.


例題 1.2       [早稲田過去問改題]

直線 $y=mx+m^2+m+1$$m$ がどんな値をとっても, ある一定の$y$ 軸と平行な軸をもつ 放物線と接している.この放物線の方程式を求めよ.


考え方     これにも実は2通りの方法がある.直線と連立するとつねに重解をもつような2次関数を求めればよい. 一方直線の通過領域を求めてもよいのだ.直線は通過領域の境界の曲線と接しながら動いていく.

解答     求める放物線を

\begin{displaymath}
y=ax^2+bx+c
\end{displaymath}

とおく.これが直線 $y=mx+m^2+m+1$ と接することは, $y$ を消去して整理した二次方程式

\begin{displaymath}
ax^2+(b-m)x+c-m^2-m-1=0
\end{displaymath}

が重解をもつことと同値である.

\begin{displaymath}
D=(b-m)^2-4(c-m^2-m-1)a=0
\end{displaymath}

これが $m$ についての恒等式となればよい. $m$ で整理し

\begin{displaymath}
(4a+1)m^2+2(2a-b)m+b^2-4ac+4a=0
\end{displaymath}

したがって求める条件は

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
4a+1=0\\
2a-b=0\\
b^2-4ac+4a=0
\end{array}\right.
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
a=-\dfrac{1}{4},\ b=-\dfrac{1}{2},\ c=\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

つまり求める放物線の方程式は

\begin{displaymath}
y=-\dfrac{1}{4}x^2-\dfrac{1}{2}x+\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

である.□

これには別解がある.前節の「図形は点の集合だ」を参考にしてほしい.

別解     直線 $y=mx+m^2+m+1$ の通過範囲を求める.

\begin{displaymath}
m^2+(x+1)m+1-y=0
\end{displaymath}

とおく.$m$が全実数を動くので,

\begin{displaymath}
D=(x+1)^2-4(1-y)\ge 0
\end{displaymath}

これから,

\begin{displaymath}
y\ge -\dfrac{1}{4}x^2-\dfrac{1}{2}x+\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

直線の通過範囲の境界の曲線に直線 $y=mx+m^2+m+1$ は接している. 実際

\begin{displaymath}
mx+m^2+m+1=-\dfrac{1}{4}x^2-\dfrac{1}{2}x+\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

とおくと.これは

\begin{displaymath}
x^2+2(2m+1)x+4m^2+4m+1=0
\end{displaymath}

この判別式$D'$

\begin{displaymath}
D'/4=(2m+1)^2-(4m^2+4m+1)=0
\end{displaymath}

だからである.ゆえに求める放物線は

\begin{displaymath}
y=-\dfrac{1}{4}x^2-\dfrac{1}{2}x+\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

である.□


注意     図形的には通過領域の境界にもとの直線が接するのは当然だが, 念のためそれを確認した.


例題 1.3  

不等式 $1\le x^2+y^2 \le 2x$ で定まる領域を $D$ とする. $(x,\ y)$ が この領域を動くとき, $\dfrac{y+2}{x+2}$ の最大値と最小値を求めよ.


考え方     最大値と最小値を求める$x$$y$の式を$k$などとおく. その上でどこかに不変なものがあるだろうか考えよう.
解答     $\dfrac{y+2}{x+2}=k$ とおく. $D$を図示する.$D$$x$に対しては $x+2\ne 0$ なので, 分母を払ってよいことがわかる.

\begin{displaymath}
y+2=k(x+2)
\end{displaymath}

となる.これは $xy$ 平面上の傾きが $k$ の直線である. さらにこの直線は $k$の値にかかわらず定点$(-2,\ -2)$ を通る.

したがって,点 $(-2,\ -2)$ と,領域 $D$ 内の点を結ぶ直線の 傾きの最大値と最小値を求めればよい. 二円の交点は $ \left(\dfrac{1}{2},\ \pm \dfrac{\sqrt{3}}{2} \right)$ で これらを通るときの傾きは, $k=\dfrac{4\pm \sqrt{3}}{5}$ . また円 $x^2+y^2=2x$ と接する傾きは直線と点 $(1,\ 0)$ との距離が1になるときなので,

\begin{displaymath}
\dfrac{\vert 3k-2\vert}{\sqrt{k^2+1}}=1
\end{displaymath}

より $k=\dfrac{3\pm\sqrt{3}}{4}$ . これらを比較し図を考えて

\begin{displaymath}
最大値:\dfrac{4+\sqrt{3}}{5},\ \quad 最小値:\dfrac{3-\sqrt{3}}{4}
\end{displaymath}


このように関数の値域を図から考えるときに, 不動点があれば考察は明快になる.


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