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対称性の発見と活用

対称式

$f(x,\ y)=x^2y+3xy+xy^2$ のように, $x$$y$ を入れ替えても式が同一になる場合$f(x,y)$$x$$y$対称式 という. とくに

\begin{displaymath}
x+y,\ xy
\end{displaymath}

基本対称式という. なぜ「基本」というのか. それは2変数の対称式はすべて $x+y,\ xy$ を用いて書き表すことができるからである.

二変数の基本対称式は, 2次方程式の解と係数の関係に現れる. つまり, 2次方程式 $ax^2+bx+c=0$ の解を $\alpha,\ \beta$ とするとき

\begin{displaymath}
\alpha+\beta=-\dfrac{b}{a},\ \alpha\beta=\dfrac{c}{a}
\end{displaymath}

三変数の場合 $f(x,\ y,\ z)$$x,\ y,\ z$ をどのように入れ替えても式がかわらない 場合に対称式という.三変数の基本対称式は

\begin{displaymath}
x+y+z,\ xy+yz+zx,\ xyz
\end{displaymath}

である.同様に, 三変数の基本対称式は, 3次方程式の解と係数の関係に現れる.

一般に, $x_1,\,x_2,\,\cdots,\,x_n$$n$ 変数の多項式は $n$ 個の基本対称式をもつ.

このとき, 次の対称式の基本定理が成り立つ.

\begin{displaymath}
\framebox{対称式は基本対称式の整式として, 一意に書き表せる}
\end{displaymath}

この証明は青空学園のなかにある『不変式』を見てほしい.ここではこれに関する過去問題をやってみよう.


例題 1.8   [95年上智大]

$f(x,y)$ を2変数 $x,\ y$ に関する実数を係数にもつ多項式とする. $s=x+y,\ t=xy,\ u=x-y,\ v=x^2$ とおく. このとき, 以下の問いに答えよ.

1.

    (i) $f(x,\ y)=x^2+xy+y^2$ のとき $f(x,y)$$s$$u$ を用いて表せ.
    (ii) 一般に $f(x,y)$$s$$u$ との多項式で表されることを示せ.
    (iii) 恒等的に $f(x,\ y)=f(-x,\ y)$ が成り立つならば $f(x,y)$$y$$v$ との多項式であることを示せ.
    (iv) 恒等的に $f(x,\ y)=f(y,\ x)$ が成り立つならば $f(x,y)$$s$$t$ との多項式であることを示せ.

2.


考え方     この問題は二変数の対称式は二つの基本対称式で書けることを示せと言っている.その部分が問題の主要な内容である.解答では二通りの方法を示したが,まずいろいろ考えてみてほしい.

解答

1.

したがって, $(**)$ により $f(x,y)$$s,\ t$ の多項式となる.

    別解     $f(x,y)$ の各単項式の $x$ の次数と $y$ の次数の和をその単項式の次数とよび, その中で最大のものを $f(x,y)$ の次数とよぶ.
    $f(x,\ y)=f(y,\ x)$ が成り立つような $f(x,y)$ の次数 $n$ についての帰納法で示す.
    $n=0,\ 1$ のときは明らかに成立する.
    $n=1,\,\cdots,\,k$ で成立するとし, $f(x,y)$$k+1$ 次対称式とする.

    \begin{displaymath}
F(x,\ y)=f(x,\ y)-f(x+y,\ 0)
\end{displaymath}

    とおく. これも $x,\ y$ の対称式である.

    \begin{eqnarray*}
F(0,\ y)&=&f(0,\ y)-f(y,\ 0)\ =\ f(y,\ 0)-f(y,\ 0)\ =\ 0\\
F(x,\ 0)&=&f(x,\ 0)-f(x,\ 0)\ =\ 0
\end{eqnarray*}

    よって, $F(x,\ y)$$xy$ で割り切れる.
    $F(x,\ y)=xyG(x,\ y)$ とおくと, $G(x,\ y)$ は対称式. そして, $G(x,\ y)$ の次数は $k-1$次以下である.
    したがって, $G(x,\ y)$$s$$t$ の式である.
    よって, $f(x,\ y)=xyG(x,\ y)+f(x+y,\ 0)$$s,\ t$ の多項式である.
    $n=k+1$ でも成立し, 題意が示された.

2.

    (i) $f(x,\ y)=f(x+y,\ x-y)$ が恒等的に成り立つとき

    \begin{eqnarray*}
f(x,\ y)&=&f(x+y,\ x-y)\ =\ f((x+y)+(x-y),\ (x+y)-(x-y))\\
&=&f(2x,\ 2y)
\end{eqnarray*}

    (ii) (1)の(iii)と同様において考えると, $f(x,\ y)=f(2x,\ 2y)$ が恒等的に成り立つとき

      \begin{displaymath}
a_{ij}=2^{i+j}a_{ij}
\end{displaymath}

      よって, $i,\ j$ の少なくとも一方が0でないとき, $a_{ij}=0$
      したがって, $f(x,y)$ は定数である. □

交代式

二つ以上の文字を含む式で, 式中に含まれるどの二文字を入れかえても, もとの式と符号だけが変わるとき, その式を交代式という. とくに相異なる二文字の差をすべて掛け合わせた次のような式を差積という.

\begin{eqnarray*}
二文字&:&\quad x-y\\
三文字&:&\quad(x-y)(y-z)(z-x)\\
四文字&:&\quad(x-y)(x-y)(x-u)(y-z)(y-u)(z-u)
\end{eqnarray*}

四文字の第2項(x-z)に訂正.


差積によって, 交代式と対称式の関係が明白になる.

\begin{displaymath}
\framebox{交代式=差積 $\times$\ 対称式}
\end{displaymath}

である. 二変数の場合に証明しよう. $f(x,y)$ を交代式とする.

\begin{displaymath}
f(y,\ x)=-f(x,\ y)
\end{displaymath}

である. $x$$y$ を代入すると

\begin{displaymath}
f(y,\ y)=-f(y,\ y)
\end{displaymath}

つまり, $f(y,\ y)=0$ である. したがって, $f(x,y)$$x-y$ を因数にもつ.

\begin{displaymath}
f(x,\ y)=(x-y)Q(x,\ y)
\end{displaymath}

ここで $x$$y$ を入れかえる.

\begin{displaymath}
f(y,\ x)=-f(x,\ y)\ かつ\ f(y,\ x)=(y-x)Q(y,\ x)
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
Q(x,\ y)=Q(y,\ x)
\end{displaymath}

となり, 確かに対称式である.

いろんな計算で, 差積をくくることで見通しがよくなることが多い. これから出てくるたびに注意する. 式が出てくれば, 対称式か交代式かをまずみるようにしよう.

対称性を活用する

問題の条件,証明すべき結論にいくつかの文字が入っている場合,それらの文字の間に 相互に入れ替えても変わらない,という対称性があれば.それを最大限に活用する. その場合,ひとつの文字について示したことは, 他の文字についても「同様に」成り立つことはいうまでもない.

求めるべき三数$a,\ b,\ c$に関する条件が対称なら,$a\ge b\ge c$を満たすもので求めて,それからそれらを相互に入れ替えたものが,すべて求めるものになる.


例題 1.9       

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=1
\end{displaymath}

となる正の整数を求めよ.

解答     この条件式は$a,\ b,\ c$に関して対称である. まず$a\ge b\ge c>0$として求める. すると $\dfrac{1}{a}\le \dfrac{1}{b}\le \dfrac{1}{c}$なので

\begin{displaymath}
1=\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}\le \dfrac{3}{c}
\end{displaymath}

ゆえに$c\le 3$となり,$c$は1, 2, 3のいずれかである.場合に分けて順次決めていくと

\begin{displaymath}
(a,\ b,\ c)=(3,\ 3,\ 3),\ (4,\ 2,\ 2),\ (6,\ 3,\ 2)
\end{displaymath}

これらを入れ替えたものがすべて解になる. □

例題 1.10       [98甲南大]

$a,\ b,\ c$ を不等式 $a>b>c>0$ を満たす実数とする.

  1. $k=0,1,2,3$ のそれぞれの場合に次式を簡単にせよ.

    \begin{displaymath}I_k=\dfrac{a^k}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{b^k}{(b-c)(b-a)}+\dfrac{c^k}{(c-a)(c-b)} \end{displaymath}

  2. 次の不等式を証明せよ.

    \begin{displaymath}J=\dfrac{\sqrt{a}}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{\sqrt{b}}{(b-c)(b-a)}+\dfrac{\sqrt{c}}{(c-a)(c-b)}<0 \end{displaymath}

  3. 次の不等式を証明せよ.

    \begin{displaymath}K=\dfrac{1}{\sqrt{a}(a-b)(a-c)}+\dfrac{1}{\sqrt{b}(b-c)(b-a)}+\dfrac{1}{\sqrt{c}(c-a)(c-b)}>0 \end{displaymath}

    ((2),(3)では, $\sqrt{a}=A,\,\sqrt{b}=B,\,\sqrt{c}=C$ とおけ)

考え方     式の対称性と交代性をいかして,式の因子を見出すのである. 大文字のものは適当な置きかえで,最初の小文字の等式が活用できるようにする.

解答    

  1.  

    \begin{eqnarray*}
I_k&=&\dfrac{a^k}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{b^k}{(b-c)(b-a)}+\dfrac{...
...b)}\\
&=&-\dfrac{a^k(b-c)+b^k(c-a)+c^k(a-b)}{(a-b)(b-c)(c-a)}
\end{eqnarray*}


    簡単のために $f_k(a,b,c)=a^k(b-c)+b^k(c-a)+c^k(a-b)$ とおく. $a$$b$ を入れかえて みる.

    \begin{eqnarray*}
f_k(b,a,c)&=&b^k(a-c)+a^k(c-b)+c^k(b-a)\\
&=&-f_k(a,b,c)
\end{eqnarray*}

    他の文字についても同様である.つまり $f_k(a,b,c)$ は交代式である.よって,

    \begin{displaymath}f_k(a,b,c)=Q(a,b,c)(a-b)(b-c)(c-a)\end{displaymath}

    と因数分解される.
      $Q(a,b,c) \ne 0 $ なら右辺は3次以上である. $k=0,1$ のとき $f_k(a,b,c)$ はそれぞれ1 次,2次である.よってこれらの場合は $Q(a,b,c)=0$

    \begin{displaymath}∴ I_0=0 \ ,\ I_1=0\end{displaymath}

    1. $k=2$ のとき  $f_2(a,b,c)$ は3次式であるからQ(a,b,c)は定数.よって定数 $t$ を用いて

      \begin{displaymath}f_2(a,b,c)=a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)=t(a-b)(b-c)(c-a)\end{displaymath}

      とおける. $a^2$ の係数を比較して $t=-1$

      \begin{displaymath}∴ I_2=-\dfrac{-(a-b)(b-c)(c-a)}{(a-b)(b-c)(c-a)}=1 \end{displaymath}

    2. $k=3$ のとき  $f_3(a,b,c)$ は4次式であるからQ(a,b,c)は1次の対称式.定数 $t$ を用いて

      \begin{displaymath}f_3(a,b,c)=a^3(b-c)+b^3(c-a)+c^3(a-b)=t(a+b+c)(a-b)(b-c)(c-a)\end{displaymath}

      とおける. (a,b,c)=(3,2,1)  を代入することにより

      \begin{displaymath}27+8(-2)+1=12=6t(-2)\end{displaymath}

      よって$t=-1$

      \begin{displaymath}∴ I_3=-\dfrac{-(a+b+c)(a-b)(b-c)(c-a)}{(a-b)(b-c)(c-a)}=a+b+c \end{displaymath}

  2. $\sqrt{a}=A,\,\sqrt{b}=B,\,\sqrt{c}=C$ とおく.

    \begin{eqnarray*}
J&=&\dfrac{A}{(A^2-B^2)(A^2-C^2)}+\dfrac{B}{(B^2-C^2)(B^2-A^2...
...{A(B^2-C^2)+B(C^2-A^2)+C(A^2-B^2)}{(A^2-B^2)(B^2-C^2)(C^2-A^2)}
\end{eqnarray*}

    ここで分子は $A,\ B,\ C$ の3次の交代式である.よって定数 $t$ を用いて

    \begin{displaymath}A(B^2-C^2)+B(C^2-A^2)+C(A^2-B^2)=t(A-B)(B-C)(C-A)\end{displaymath}

    とおける. $A^2$ の係数を比較して $t=1$ .よって,

    \begin{eqnarray*}
J&=&-\dfrac{(A-B)(B-C)(C-A)}{(A^2-B^2)(B^2-C^2)(C^2-A^2)}\\
&=&-\dfrac{1}{(A+B)(B+C)(C+A)}<0
\end{eqnarray*}

  3. 同様におくと

    \begin{eqnarray*}
K&=&\dfrac{1}{A(A^2-B^2)(A^2-C^2)}+\dfrac{1}{B(B^2-C^2)(B^2-A...
...2-C^2)+CA(C^2-A^2)+AB(A^2-B^2)}{ABC(A^2-B^2)(B^2-C^2)(C^2-A^2)}
\end{eqnarray*}

    ここで分子は $A,\ B,\ C$ の4次の交代式である.よって定数 $t$ を用いて

    \begin{displaymath}BC(B^2-C^2)+CA(C^2-A^2)+AB(A^2-B^2)=t(A+B+C)(A-B)(B-C)(C-A)\end{displaymath}

    とおける. $A^3$ の係数を比較して $t=-1$ .よって(2)と同様の計算をすると

    \begin{displaymath}K=\dfrac{A+B+C}{ABC(A+B)(B+C)(C+A)}>0\end{displaymath}

    を得る.


例題 1.11       [89京大文系]

五つの実数 $a_1,\ a_2,\ a_3,\ a_4,\ a_5$があり,どの$a_i$も他の四つの相加平均 より大きくはないという.このような $a_1,\ a_2,\ a_3,\ a_4,\ a_5$をすべて求めよ.


考え方     5文字 $a_1,\ a_2,\ a_3,\ a_4,\ a_5$について条件は対称だ.この対称性をどのように活かすか. 方法はいくつかある.一つで終わりにせずいろいろ考えてみよう.

解法1    

条件は

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4)-a_5\ge 0\\
&&\dfrac{1}{4}(a_1...
..._3+a_4+a_5)-a_2\ge 0\\
&&\dfrac{1}{4}(a_2+a_3+a_4+a_5)-a_1\ge 0
\end{eqnarray*}

である.

各辺を加えると

\begin{displaymath}
(a_1+a_2+a_3+a_4+a_5)-(a_1+a_2+a_3+a_4+a_5)=0
\end{displaymath}

となって,等号が成立する.0以上の数の和が0になれば,すべて0である.したがって

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4)=a_5\\
&&\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+...
...}{4}(a_1+a_3+a_4+a_5)=a_2\\
&&\dfrac{1}{4}(a_2+a_3+a_4+a_5)=a_1
\end{eqnarray*}


\begin{displaymath}
∴\quad \dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4+a_5)=\dfrac{5}{4}a_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ 5)
\end{displaymath}

つまり$a_i$はすべて等しい.逆にすべて等しければ条件をみたすことは明らか.

\begin{displaymath}
∴\quad a_1=a_2=a_3=a_4=a_5=k\ (k は任意の実数)
\end{displaymath}

解法2     条件は5文字 $a_1,\ a_2,\ a_3,\ a_4,\ a_5$について対称である. したがって

\begin{displaymath}
a_1\le a_2\le a_3\le a_4\le a_5\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

として一般性を失わない. $\maru{1}$ $a_1\le a_2\le a_3\le a_4$のいずれかの等号が成立しないと

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4)<a_4\le a_5
\end{displaymath}

また$a_4< a_5$なら

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4)\le a_4< a_5
\end{displaymath}

いずれにせよ

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{4}(a_1+a_2+a_3+a_4)\ge a_5
\end{displaymath}

は成立しない.したがって$\maru{1}$はすべて等号成立である.

逆にすべて等しければ条件をみたすことは明らか.

\begin{displaymath}
∴\quad a_1=a_2=a_3=a_4=a_5=k\ (k は任意の実数)
\end{displaymath}


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