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不変量の発見

いろんな変換や,確率などの試行過程, あるいは定数や変数の変化など,さまざまの「変化」がある. その変化を調べるときに,それらが変化しても変わらない関係や量を発見し, それを軸に変化の相互関係を解明する. それはどのようなことか,一番わかりやすい例を考えよう.

例題 1.6  

容器 A には 3% の食塩水が 300g ,容器 B には 6% の食塩水が 300g 入れてある.A,B からそれぞれ 100g の食塩水をとってAの分をBに, B の分をAに入れる.このような操作を $n$ $(n=1,\ 2,\ \cdots)$ 繰り返して行った後の,容器 A の食塩水の濃度を求めよ.


考え方     濃度の違う食塩水を交互に入れていくので,もちろん濃度は1回ごとの操作で変化していく. しかし,このような操作で変わらないものがある.そう.二つの容器に入っている塩の量の和 は一定だ.

解答     $n$ 回の操作の後で 容器 A の食塩水の濃度が $a_n%$ , 容器 B の食塩水の濃度が $b_n%$ であるとする. すると,操作後の塩が操作前のどこから来たかを考えることで次の連立漸化式が得られる.

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
300\times\dfrac{a_n}{100}
=200\t...
..._{n-1}}{100}+200\times\dfrac{b_{n-1}}{100}
\end{array}\right.
\end{displaymath}

この2式を加えると

\begin{displaymath}
300\times \left(\dfrac{a_n}{100}+\dfrac{b_n}{100} \right)
=300\times \left(\dfrac{a_{n-1}}{100}+\dfrac{b_{n-1}}{100} \right)
\end{displaymath}

これは1回の操作で塩の総量が不変であることを示している.
※ここは,操作の意味からも明かであるが, このように漸化式から結論する方がよい.※
これから

\begin{displaymath}
a_n+b_n=a_{n-1}+b_{n-1}
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
a_n+b_n=a_0+b_0=9 \quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

一方,先の2式を辺々引いて,

\begin{displaymath}
300\times\dfrac{a_n-b_n}{100}
=100\times\dfrac{a_{n-1}-b_{n-1}}{100}
\end{displaymath}

$a_0=3,\ b_0=6$ なので

\begin{displaymath}
a_n-b_n=\dfrac{1}{3}(a_{n-1}-b_{n-1})
\end{displaymath}

ゆえに

\begin{displaymath}
a_n-b_n=\left(\dfrac{1}{3}\right)^n(a_0-b_0)
=-3\left(\dfrac{1}{3}\right)^n \quad \cdots\maru{2}
\end{displaymath}

@,Aから

\begin{displaymath}
a_n=\dfrac{9}{2}-\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{3}\right)^{n-1}
\end{displaymath}

を得る. □


つぎに変化する量のなかで,変化しない関係を見いだす例題を考えよう.


例題 1.7  

$\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ が与えられている. $\mathrm{P}$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ の内部の点とし, $\mathrm{D},\ \mathrm{E},\ \mathrm{F}$ を点 $\mathrm{P}$ から辺 $\mathrm{BC,\ CA,\ AB}$ に下ろした垂線の足とする. このとき

\begin{displaymath}
w=\dfrac{\mathrm{BC}}{\mathrm{PD}}+\dfrac{\mathrm{CA}}{\mathrm{PE}}
+\dfrac{\mathrm{AB}}{\mathrm{PF}}
\end{displaymath}

を最小にする点 $\mathrm{P}$ の位置を決定せよ.

解答     頂点 $\mathrm{A,\ B,\ C}$ の対辺を $a,\ b,\ c$ , 線分 $\mathrm{PD,\ PE,\ PF}$ の 長さを $x,\ y,\ z$ とする.

\begin{displaymath}
w=\dfrac{a}{x}+\dfrac{b}{y}+\dfrac{c}{z}
\end{displaymath}

$\mathrm{P}$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ の内部をいろいろと動くのだが, そのときつねに成り立つ関係を求める.

$\dfrac{ax}{2}$はちょうど $\bigtriangleup \mathrm{PBC}$ の面積である. よって

\begin{displaymath}
\dfrac{ax}{2}+\dfrac{by}{2}+\dfrac{cz}{2}
\end{displaymath}

は三角形の面積 $S$ である.つまり

\begin{displaymath}
2S=ax+by+cz
\end{displaymath}

は, $\mathrm{P}$ の取り方によらず一定である. したがって$2S=ax+by+cz$のとき $w$ を最小にする $(x,\ y,\ z)$ を決定し, その値になる $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ 内部の点が存在すれば, それが求める点 $\mathrm{P}$ である.

ここで相加平均・相乗平均の不等式を使う.

\begin{eqnarray*}
2Sw&=&(ax+by+cz) \left(\dfrac{a}{x}+\dfrac{b}{y}+\dfrac{c}{z} ...
...}+\dfrac{x}{z} \right)\\
&\ge&a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca=(a+b+c)^2
\end{eqnarray*}

等号は $x=y=z$ のときに成立する.

ゆえに $w$ の最小値は $\dfrac{(a+b+c)^2}{2S}$$x=y=z$となるのは $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ の内接円の中心で, これは確かに $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ の内部の点である. □


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