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日本の高校教科書では次のように複素数が定義されている.
平方するとになる新しい数を一つ考えて,これを文字で表し,虚数単位とよぶ.すなわち
さらに,二つの実数を用いて
と表される数を考え,これを複素数という.
この定義は実は次のような疑問をもたせる.
- 「新しい数を一つ考えて」と言うが,勝手に考えて作っただけではないか.
- 実数との積は定義されていない.
- また,との和も定義されていない
- 「平方するとになる数」はと二つあるはずなのに,どちらをとってもいいのか.
教科書では,これらの疑問には答えることなく,次のことが出てくる.
- 複素数の相等:
- 加減法
(複号同順)
- 乗法
- 除法
- 共役複素数:に対して,をの共役複素数といい
と記す.
これで四則計算は実数と同じようにできるが,先の疑問点はそのままである.
この,教科書で作られた複素数の集合をとする.
そこで,これまでに構成した実数をもとに,改めて複素数を構成しなおそう.
を2つの実数の組(順序は区別する)の集合とする.つまり,
とする.
この集合の要素の間の加法を次のように定める.
このとき,加法の単位元はでの加法に関する逆元はである.
乗法を
と定める.これらの演算に関して,は公理を満たす.実際,
- 加法:
- 加法,乗法の交換法則,加法の結合法則は明かである.
- 乗法の結合法則:
より成立.
- 乗法の逆元:
より
.
となる.つまり,この2つの演算によっては体にある.
次にこのとが体として同型であることは,次のように確認できる.
集合から複素数の集合への写像
を
で定める.これは明らかに一対一写像である.
の演算の定義との計算法則から,加法や乗法の演算の結果もで対応する.
この対応の存在によって体として同型である.
の形をした要素からなるの部分集合は,この写像でちょうどの部分集合である実数に対応する.
複素数の集合のモデルの構成法は一つではない.
を今までどおり実数体とする. 実数係数の文字の多項式の全体を
とする.明らかには環である.を「実数体上の多項式環」という.
そこで多項式を多項式で割った余りをと書くことにし,
集合をで割った余りの集合
とする.例えば,
は次のように求められる.
割り算の余りなので
が成り立つ.
だから集合の四則演算を,多項式の四則演算そのもので定めれば,
が環であることは自明である.
においては積の逆元が存在する.
任意の一次式に対して
となる一次式が存在する.実際,
求めるをと置く.まずを求める.
よって
とおく.これより
これからとについて解いてとで表すと
となる.つまり
である.
かくしてには乗法に関する逆元が存在した.も体である.
また実数に対して
である.だから
で割った余りとしてのや1をやと書くと
つまり
となる.そしてこれが体である.
このからへの写像
を
でさだめると,これが一対一写像でしかも演算の結果も対応する.
つまり同型を定める写像である.
も複素数体と同型でそのモデルであるといえる.
先に作ったと今回のももちろん体として同型である.つまり
からへの写像
を
で定めればよい.
この対応で,の要素との要素は1対1に対応し,演算の結果も対応しているから,
同じ型である.
結局,教科書が定義しようとした複素数の集合と,
同型となる2つのモデルがを,独立に構成できた.
2つのモデルとも,確かに存在している.
大切なことは,実数の演算を下に,あらたな体が定義できるということである.
以下,この体をいずれもと記し,複素数体という.
「みかん1個」と,「スプーン1本」などから数「1」が抽出されたように,
はやから抽出されたものを表す記号である.
それは勝手に作ったものではない.つまりは
「平方するとになる新しい数を一つ考え」たのではなく,
抽出されたものとして確かに存在している.
また,2次行列の部分集合を次のように定める.
において加法,乗法は2次行列の加法,乗法をそのまま用いるとする.
このときもまた可換体となり,とが同型であることが示される.
複素数に対してその絶対値
を
で定義する.のとき
であるから,実数の絶対値と一致する.
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Aozora
2020-04-17