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解の存在定理

微分方程式

$xy$平面で定義された関数$f(x,\ y)$を考える.
定点$(a,\ b)$を通り, その上の点$(x,\ y)$で傾きが$f(x,\ y)$となるような曲線の方程式を決定するということを考えよう. これは
\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}=f(x,\ y)
\end{displaymath}
となるような$x$の関数$y=y(x)$$b=y(a)$を満たすものをもとめることに他ならない.

このように $y,\ \dfrac{dy}{dx},\ \dfrac{d^2y}{dx^2}$ 等の未知関数とその導関数が,他の定まった関数と結びついて作られる

\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}+e^xy-2x=0
\end{displaymath}

のような等式を微分方程式という.これは $f(x,\ y)=-e^xy+2x$の場合である. 微分方程式を未知関数$f(x)$を用いたり,導関数を$y'$等で書きあらわすことも出来る. 例えば先の等式は
\begin{displaymath}
f'(x)+e^xf(x)-2x=0\quad ,\ \quad y'+e^xy-2x=0
\end{displaymath}

などとも書ける.$f$が多変数の場合は
\begin{displaymath}
e^y \dfrac{\partial }{\partial x}f+\dfrac{\partial }{\partial y}f+3e^{2x}=0
\end{displaymath}

のように偏微分が加わることになる.

未知な関数とその導関数,および定関数を含む等式として, 微分方程式は大変広い一般的な概念であり,また発展する概念である.未知関数も複数個あり,それらのなすベクトル値関数が未知関数となってもよい.含まれる導関数の最も高い次数が$n$であるとき,これを$n$階微分方程式という.ベクトル値関数の各成分を構成する未知関数が一変数の微分方程式を常微分方程式,多変数の微分方程式を偏微分方程式ということが多い. さらに,

\begin{displaymath}
u^{(m)}(x)+a_{m-1}(x)u^{(m-1)}(x)+\cdots+a_1(x)u'(x)+a_0(x)=0
\end{displaymath}

型の常微分方程式を線型常微分方程式という.

与えられた微分方程式を満たす関数を微分方程式のといい,解を求めることを微分方程式を解くという.

後に示すように微分方程式 $\dfrac{dy}{dx}=y$は解$y=Ce^x$をもつ.実際これが微分方程式を満たすことは確認できる.微分方程式を解いて表れる定数$C$のことを任意定数という. 任意定数を含んだ解を一般解,任意定数に特別の値を与えて得られる解を特殊解という.$x=0$のとき$y=1$のような条件をつければ$y=e^x$と一意に定まる.いくつかの変数値に対する与えられた関数値を微分方程式の初期条件という.

微分方程式は,実在する世界の現象を数学的にとらえるためのもっとも基本的な方法である. 数学の側では,ある種の基本的な微分方程式について, その解の存在定理を実数の完備性にもとづいて証明しなければならない.

一階正規形微分方程式

縮小写像における不動点の存在定理をもちいて ある種の簡単な場合について,微分方程式の解の存在を示そう.

本節冒頭の微分方程式

\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}=f(x,\ y)
\end{displaymath} (6)

を考える.この形の微分方程式を一階正規形という. $xy$平面の領域$D$で定義された関数$f(x,\ y)$が与えられたとき, $(a,\ b)\in D$を初期条件とする解とは, $a$を含む$x$のある開区間$J$で定義された関数$y=y(x)$
\begin{displaymath}
b=y(a),\ y'(x)=f(x,\ y(x))
\end{displaymath}

を満たすもののことをいう.

解が常に存在する,あるいは一意に存在するということは,一般的には成り立たない. 初期条件を満たすものが一意に存在する十分条件として $f$につてのリプシツの条件がある.

リプシツの条件

$xy$平面の領域$D$で定義された関数$f(x,\ y)$がある.
\begin{displaymath}
(x,\ y_1),\ (x,\ y_2)\in D\quad \Rightarrow \quad
\left\v...
...1)-f(x,\ y_2)\right\vert<\alpha\left\vert y_1-y_2 \right\vert
\end{displaymath}

となる正の定数$\alpha$が存在するとき,関数$f$$D$で定数$\alpha$リプシツの条件を満たすという.

$f(x,\ y)$$D$において偏導関数 $f_y(x,\ y)=\dfrac{\partial}{\partial y}f(x,\ y)$をもち, $f_y$が有界連続なら,平均値の定理から$f$はリプシツの条件を満たす.

定理 84        $f(x,\ y)$$xy$平面の領域$D$で定義された有界連続関数で, $D$で定数$\alpha$のリプシツの条件を満たす. このとき$(a,\ b)\in D$を初期条件とする微分方程式6の解が $a$を含むある開区間で一意に存在する. ■
証明      $f$$D$で有界なので $\left\vert f(x,\ y)\right\vert\le M\ ((x,\ y)\in D)$となる定数$M$が存在する.

正数$h$$k$に対し, 点 $(a,\ b)(\in D)$を中心とする二辺の長さが$2h,\ 2k$の長方形$T$をとる.

\begin{displaymath}
T=\{(x,\ y)\ \vert\ \vert x-a\vert\le h,\ \vert y-b\vert\le k\ \}
\end{displaymath}

このとき正数$h$$k$を, リプシツ条件の定数$\alpha$と有界性の定数$M$に対して
\begin{displaymath}
T\subset D,\
h\alpha<1,\ hM<k
\end{displaymath}

となるように選ぶ.これは可能である.

閉区間$[a-h,\ a+h]$上の連続関数空間$C(I)$に 距離$d$

\begin{displaymath}
d(y_1,\ y_2)=\max\{\vert y_1(x)-y_2(x)\vert\ \vert\ x \in I\}
\end{displaymath}

で定め,
\begin{displaymath}
E=\{y\ \vert\ \vert y(x)-b\vert\le k \ (x\in I)\ \}
\end{displaymath}

とする.$E$$C(I)$の閉部分集合である. 定理70から部分距離空間$(E,\ d)$は完備である.

$E$から$E$への写像$F$を次のように定める.

\begin{displaymath}
v=F(u),\quad v(x)=b+\int_a^xf(t,\ u(t))\,dt\quad
(x \in I)
\end{displaymath}

\begin{eqnarray*}
\left\vert v(x)-b \right\vert&=&\left\vert\int_a^xf(t,\ u(t))...
...\vert f(t,\ u(t))\vert\,dt\\
&\le& M\vert x-a\vert\le Mh\le k
\end{eqnarray*}

であるから$v\in E$である.

$F$は縮小写像である.なぜなら, $u_1,\ u_2\in E$とし $v_1=F(u_1),\ v_2=F(u_2)$とすると

\begin{eqnarray*}
\left\vert v_2(x)-v_1(x) \right\vert&=&
\left\vert\int_a^x\{...
...
\le \alpha d(u_2,\ u_1)\vert x-a\vert\le h\alpha d(u_2,\ u_1)
\end{eqnarray*}

$0<h\alpha<1$であるから$F$は縮小写像である.

定理72によって$F$はただ一つの不動点 $y=F(y),\ \ y\in E$をもつ.

\begin{displaymath}
y(x)=b+\int_a^xf(t,\ y(t))\,dx
\end{displaymath} (7)

を満たすので,
\begin{displaymath}
y(a)=b,\ y'(x)=f(x,\ y(x))\quad x\in I
\end{displaymath}

となり,$y(x)$は所期の条件を満たす解である. □

証明の勘所は微分方程式6と初期条件を, 一つの積分方程式7になおす. $F(y)$が関数空間の縮小写像であることから,$y=F(y)$となる$y$の存在を示す. このような道筋をたどるのであった.


定理72の証明で構成した数列は,この解の構成方法でもある. それを次の例で見てみよう.

例 7.1       $f(x,\ y)=y$とする.初期条件を$(0,\ 1)$,つまり $1=y(0)$とし,
\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}=y
\end{displaymath}

を満たす解$y=y(x)$を考える. リプシツ条件は$\alpha=1$で成立するから, 初期条件を満たす解がただ一つ存在する.この場合縮小写像$F$
\begin{displaymath}
v=F(u),\quad v(x)=1+\int_0^xu(x)\,dx\quad
\end{displaymath}

である. $u_0(x)=1\ (定数)$からはじめて $u_{n+1}=F(u_n)$で関数列$\{u_n\}$を定める.これは
\begin{eqnarray*}
u_1(x)&=&1+\int_0^x1\,dx=1+x\\
u_2(x)&=&1+\int_0^x(1+x)\,dx...
...(x)&=&1+x+\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdots+\dfrac{x^n}{n!}
\end{eqnarray*}

となり,確かに$u_n(x)$$y=e^x$に収束する. これが解であることは,代入して確認できる.

逆にリプシツ条件を満たさないときは, 存在しない場合や一意でない場合が現れる. よく知られた一意性の崩れる場合を例示しよう.

例 7.2        $f(x,\ y)=3y^{\frac{2}{3}}$とする.
\begin{displaymath}
\dfrac{{y_1}^{\frac{2}{3}}-{y_2}^{\frac{2}{3}}}{y_1-y_2}
=...
...frac{1}{3}} \right)^2-{y_1}^{\frac{1}{3}}{y_2}^{\frac{1}{3}}}
\end{displaymath}

であるから$y=0$の近くではこの比がいくらでも大きくなりリプシツ条件は満たさない.

$y(x)=x^3$とすると

\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}=3x^2,\ f(x,\ y(x))=3(x^3)^{\frac{2}{3}}=3x^2
\end{displaymath}

なので,これは初期条件$(0,\ 0)$の解である.ところが,$x_1<0<x_2$に対して
\begin{displaymath}
y(x)=
\left\{
\begin{array}{ll}
(x-x_1)^3&(x\le x_1)\\...
...&(x_1<x<x_2)\\
(x-x_2)^3&(x_2\le x)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

とすると,これも初期条件$(0,\ 0)$の解である.

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2014-05-23