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二階線形型

解の存在

二階線形微分方程式の解の存在と解の構造についてまとめよう. まず,二階線形微分方程式の解の存在を示そう. 方針は一階正規形の場合と同様に, 微分方程式と初期条件を一つの積分方程式$y=F(y)$に還元し, $F(y)$が縮小写像であるようにとれることを示し,解の存在を示す. 初期条件が複雑な分だけ$F$の構成が複雑である.

定理 85        $p(x),\ q(x),\ r(x)$を実数$\mathbb{R}$で定義された連続な関数とする. 二階線形微分方程式
\begin{displaymath}
y''+p(x)y'+q(x)y=r(x)
\end{displaymath} (8)

の解で,初期条件 $(0,\ \alpha,\ \beta)$を満たす,つまり
\begin{displaymath}
y(0)=\alpha,\ y'(0)=\beta
\end{displaymath}

となるものが一意に存在する. ■
証明     $y''(x)=u(x)$とおく.$y''$についての初期条件はないので, これをもとに初期条件を満たす$y',\ y$を構成する.
\begin{eqnarray*}
y'(x)&=&\beta+\int_0^xu(s)\,ds\\
y (x)&=&\alpha+\int_0^xy'(...
...-\int_0^xtu(t)\,dt\\
&=&\alpha+\beta x+\int_0^x (x-t)u(t)\,dt
\end{eqnarray*}

これらが微分方程式を満たすように$u(x)$が決定できればよい. 積分変数をそろえて微分方程式に代入する.

\begin{eqnarray*}
&&u(x)+p(x)\left(\beta+\int_0^xu(t)\,dt\right)+q(x)
\left(\a...
...ight)q(x)
+\int_0^x\left\{p(x)+(x-t)q(x) \right\}u(t)\,dt=r(x)
\end{eqnarray*}

そこで
\begin{eqnarray*}
\varphi(x)&=&r(x)-\beta p(x)-\left(\alpha+\beta x \right)q(x)\\
K(x,\ t)&=&-p(x)-(x-t)q(x)
\end{eqnarray*}

とおくと
\begin{displaymath}
u(x)=\int_0^xK(x,\ t)u(t)\,dt+\varphi(x)
\end{displaymath} (9)

となる.これを満たす$u(x)$が一意に存在することを示せばよい.

任意の正数$a$をとり,区間$I=[-a,\ a]$上の連続関数空間を$C(I)$とする. $C(I)$から$C(I)$への写像$F$

\begin{displaymath}
v=F(u),\quad v(x)=\int_0^xK(x,\ t)u(t)\,dt+\varphi(x)
\end{displaymath}

で定める.

$K(x,\ t)$は連続であるから, $x,\ t \in I$のとき $\left\vert K(x,\ t) \right\vert\le M$としてよい.

$u_1,\ u_2\in C(I)$をとる.

\begin{eqnarray*}
\left\vert F(u_1)(x)-F(u_2)(x) \right\vert
&=&\left\vert\int...
...t)\right\vert\,dt\right\vert\\
&\le&Md(u_1,\ u_2)\vert x\vert
\end{eqnarray*}

$u_1,\ u_2$ $F(u_1),\ F(u_2)\in C(I)$に変えてもよい.
\begin{eqnarray*}
\left\vert F^2(u_1)(x)-F^2(u_2)(x) \right\vert
&\le&M\left\v...
...dt\right\vert\\
&\le&M^2d(u_1,\ u_2)\dfrac{\vert x\vert^2}{2}
\end{eqnarray*}

自然数$k$に対して
\begin{displaymath}
\left\vert F^k(u_1)(x)-F^k(u_2)(x) \right\vert
\le\dfrac{(M\vert x\vert)^k}{k!}d(u_1,\ u_2)
\end{displaymath} (10)

と仮定すると,
\begin{eqnarray*}
\left\vert F^{k+1}(u_1)(x)-F^{k+1}(u_2)(x) \right\vert
&\le&...
...vert\\
&\le&\dfrac{(M\vert x\vert)^{k+1}}{(k+1)!}d(u_1,\ u_2)
\end{eqnarray*}

より,数学的帰納法によって仮定10が一般に成り立つ. $x\in I$であるから
\begin{displaymath}
d\left(F^k(u_1),\ F^k(u_2)\right)
\le
\dfrac{(Ma)^k}{k!}d(u_1,\ u_2)
\end{displaymath}

ところが $\displaystyle \lim_{k \to \infty}\dfrac{(Ma)^k}{k!}=0$なので, $k$を大きくとることにより $\dfrac{(Ma)^k}{k!}<1$にとることができる.

この$k$について$F^k$$C(I)$の縮小写像であり, 定理72によって$F^k$はただ一つの不動点 $y=F^k(y)\ ,\ y\in C(I)$をもつ. このとき

\begin{displaymath}
F(y)=F^{k+1}(y)=F^k\left(F(y) \right)
\end{displaymath}

となり,$F(y)$$F^k$の不動点である.$F^k$の不動点は一意であるから,
\begin{displaymath}
F(y)=y
\end{displaymath}

であり.つまり$y$$F$の不動点である.$F$の不動点は$F^k$の不動点でもあるから, 一意である.よって$F$はただ一つの不動点$y$をもつことが示された.

いいかえると任意の正数$a$に対して, 積分方程式9の解 $y=y(x)\ (定義域$I=[-a, a]$)$ が一意に存在することが示された.

これは微分方程式8に対して, $I=[-a,\ a]$で定義され$(-a,\ a)$で微分可能な解が存在することを意味している. □

実数の完備性にはじまり微分方程式の解の存在に至る道を, とにかく歩き通すことができた. 二階線形微分方程式の解の集合は空ではない.解の集合の構造を考えよう.

解集合の構造

特に$r(x)=0$であるものを同次方程式という. これに関して次の定理が成り立つ.

定理 86        実数で定義された連続な関数$p(x),\ q(x)$に対する二階線形微分方程式 $y''+p(x)y'+q(x)y=0$において
  1. $y_1,\ y_2$が解ならば,任意の定数$c_1,\ c_2$に対して$c_1y_1+c_2y_2$も解である.
  2. $y_1,\ y_2$が解で,かつ定義域のすべての$x$に対して
    \begin{displaymath}
W(y_1,\ y_2)(x)=
\left\vert
\begin{array}{cc}
y_1&y_2\\
{y_1}'&{y_2}'
\end{array}
\right\vert\ne 0
\end{displaymath}

    が成り立つなら,任意の解は適当な定数$c_1,\ c_2$を用いて$c_1y_1+c_2y_2$と表される.
$W(y_1,\ y_2)(x)$ロンスキアンという.
証明

(1)

\begin{eqnarray*}
&&(c_1y_1+c_2y_2)''+p(x)(c_1y_1+c_2y_2)'+q(x)(c_1y_1+c_2y_2)\...
...1({y_1}''+p(x){y_1}'+q(x)y_1)+c_2({y_2}''+p(x){y_2}'+q(x)y_2)=0
\end{eqnarray*}

より,$c_1y_1+c_2y_2$も解である.

(2)     任意の解$y$をとる. 行列 $\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}$は, $y_1{y_2}'-y_2{y_1}'\ne 0$より逆行列をもつ. そこで

\begin{displaymath}
\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}^{-1}\vecarray{y}{y'}=\vecarray{u}{v}
\end{displaymath}

とおく.つまり
\begin{displaymath}
\vecarray{y}{y'}=\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}\vecarray{u}{v}
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
y=uy_1+vy_2\\
y'=u{y_1}'+v{y_2}'\\
\end{array}
\end{displaymath}

となる.第一式を微分して $y'=u{y_1}'+u'y_1+v{y_2}'+v'y_2$となる. 第二式と比較して $u'y_1+v'y_2=0$となる. 第二式を微分して $y''=u{y_1}''+u'{y_1}'+v{y_2}''+v'{y_2}'$となる. ここで
\begin{eqnarray*}
0&=&y''+p(x)y'+q(x)y\\
&=&u{y_1}''+v{y_2}''+u'{y_1}'+v'{y_2...
...}\\
&&\quad \quad +u'{y_1}'+v'{y_2}'\\
&=&u'{y_1}'+v'{y_2}'
\end{eqnarray*}

したがって
\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
u'y_1+v'y_2=0\\
u'{y_1}'+v'{y_2}'=0
\end{array}
\end{displaymath}

となる.つまり
\begin{displaymath}
\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}\vecarray{u'}{v'}=\vecarray{0}{0}
\end{displaymath}

である. $y_1{y_2}'-y_2{y_1}'\ne 0$より
\begin{displaymath}
u'=0,\ v'=0
\end{displaymath}

を得る.つまり$u$$v$は定数である.よってこれを$c_1,\ c_2$とおくと
\begin{displaymath}
y=c_1y_1+c_2y_2
\end{displaymath}

と表された. □

実数で定義され二階微分可能な実数値関数の集合を$X$とおく. $X$は実数上のベクトル空間である. $X$から$X$への写像$L$

\begin{displaymath}
L(y)=y''+p(x)y'+q(x)y
\end{displaymath}

で定める.定理の証明と同様に$L$$X$の線型写像である. 定理86$y_1,\ y_2$$L^{-1}(0)$の基底となるための条件を示している.

微分方程式

\begin{displaymath}
y''+p(x)y'+q(x)y=r(x)
\end{displaymath}

の解とは,$r(x)$の原像$L^{-1}(r(x))$ に他ならない.従って一つの解$y_0$が求まれば,他の解はすべて
\begin{displaymath}
y_0+y,\ \quad y\in L^{-1}(0)
\end{displaymath}

で得られる. 常微分方程式の実用的な解法については,多くの参考書がある.
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2014-05-23