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対応と写像

写像

先に自然数と偶数の間の一対一対応をのべたが,一般的に集合の間の要素の対応として,写像を定義しよう.

定義 2 (写像)        二つの集合$A ,\ B$において, 集合$A$の各要素に対して,集合$B$の要素をただ一つ対応させる規則が定まっているとき,その規則による対応の働きのことを$A$から$B$への写像という.記号$f$などを用いて
\begin{displaymath}
f\ :\ A \ \to \ B
\end{displaymath}

などと書きあらわす.

集合$A$定義域という.写像 $f\ :\ A \ \to \ B$によって$A$の要素$a$に対応する$B$の要素を$f(a)$と書き,これを$f$による$a$,または$f$$a$におけるという.また値の集合 $\{f(a)\ \vert\ a \in A \}$を写像$f$値域という. $f\left( A \right)$と略記することもある. ■

合成写像

$A$から$B$への写像$f$$B$から$C$への写像$g$がある.$a\in A$に対し$f(a)\in B$のなので, $g\left(f(a) \right)\in C$が定まる.これによって$A$から$C$への写像が定まる.これを$f$$g$の合成写像といい,$g \circ f$と表わす.つまり, $g \circ f(a)=g\left(f(a)\right)$である.

単射,全射

$A$から$B$への写像$f$で,$a_1,a_2 \in A$に対し,
\begin{displaymath}
a_1 \ne a_2\quad \Rightarrow \quad f(a_1) \ne f(a_2)
\end{displaymath}

がなりたつとき,$f$単射であるという.
\begin{displaymath}
\forall b(\in B)\quad \exists a(\in A)\ ;\ b=f(a)
\end{displaymath}

がなりたつとき,$f$全射であるという.$f$が全射かつ単射であるとき,$f$は一対一写像であるという.

逆写像

$A$から$B$への写像$f$がある.$f$$A$から値域 $f\left(A \right)\subset B$への一対一写像であるとき, $f\left( A \right)$の任意の要素$b$に対して$A$の要素$a$$f(a)=b$となるものがただ一つ定まる.この対応によって $f\left( A \right)$から$A$への写像が定まる.この写像を$f^{-1}$と表わし,$f$逆写像という.定義より
\begin{displaymath}
f \circ f^{-1}(b)=b, \, f^{-1} \circ f(a)=a
\end{displaymath}

がなり立つ.また,$f$の定義域と値域が$f^{-1}$の値域と定義域になる.

グラフ

集合$A$から集合$B$への写像$f$に対して直積$A \times B$の部分集合
\begin{displaymath}
G=\{(a,\ f(a))\ \vert\ a\in A \}
\end{displaymath}

を写像$f$グラフという.逆に直積$A \times B$の部分集合$G$で, 二つの条件
  1. 任意の$a\in A$に対し$(a,\ b)\in G$が存在する.
  2. 任意の $(a_1,\ b_1),\ (a_2,\ b_2)\in G$に対し,
    \begin{displaymath}
a_1=a_2 \quad \Rightarrow \quad b_1=b_2
\end{displaymath}

が成り立つものは,$(a,\ b)\in G$に対し$b=f(a)$とすることで, 集合$A$から集合$B$への写像$f$を定める.

商集合

集合$A$の要素の間に,成り立つか成り立たないかがつねに確定する関係が定義されているとする.$a$$b$の間にこの関係が成り立つことを$a〜b$と表す.関係〜が
  1. $a〜a$
  2. $a〜b$なら$b〜a$
  3. $a〜b,\ b〜c$なら$a〜c$
が成り立つとき,「〜」を「同値関係」という.

同値関係があると,同値なものをひとつの部分集合にまとめることができる.つまり$A$の要素$a$と同値な要素からなる$A$の部分集合$\overline{a}$が一意に確定し, $A$のすべての要素はいずれかただひとつの$\overline{a}$に属する.いいかえると,任意の$\overline{a}$$\overline{b}$について $\overline{a}=\overline{b}$ $\overline{a}\cap \overline{b}=\emptyset$のいずれか一方が成立する.

$a$の属する集合を$a$の同値類という.このようにして得られる同値類の集合

\begin{displaymath}
A /〜=\{\overline{a}\ \vert\ a\in A \}
\end{displaymath}

を,集合$A$の関係〜に関する商集合という.

$A$から〜による商集合$A /〜$への写像$f$$a\in A$に対して

\begin{displaymath}
f(a)=\overline{a}
\end{displaymath}

で定める.これを同値関係〜で定まる自然な写像という.これは全射である.

例 1.2        整数の集合$\mathbb{Z}$の要素$m$$n$に対し,$m-n$が7の倍数になるとき$m〜n$と定める. これは同値関係である.実際,上の条件の成立を確かめる.
  1. $m-m=0$は7の倍数なので$m〜m$
  2. $n-m=-(m-n)$なので$m-n$が7の倍数なら$n-m$も7の倍数. $m〜n$なら$n〜m$である.
  3. $l-n=(l-m)+(m-n)$なので$l-m,\ m-n$がともに7の倍数なら$l-n$も7の倍数. よって$l〜m,\ m〜n$なら$l〜n$
この同値関係で同値なものをひとまとめにする. 例えば7で割って3余る整数の集合,これが同値類である. この場合は同じ余りの集合なので剰余類ともいう.
\begin{displaymath}
\overline{3}=\overline{10}=\overline{-4}=\{\ \cdots,\ -11,\ -4,\ 3,\ 10,\ \cdots\ \}
\end{displaymath}

つまり
\begin{displaymath}
\mathbb{Z}/〜=\{\ \overline{0},\ \overline{1},\ \overlin...
...verline{3}
,\ \overline{4},\ \overline{5},\ \overline{6}\ \}
\end{displaymath}

$\mathbb{Z}/〜$がふたたび加法と乗法をもつことも確認することができる.

濃度

「一対一対応が存在する」という関係は同値関係になる.二つの集合$A$$B$の間に一対一対応が存在するとき,二つの集合は濃度が等しいといい,$\vert A\vert=\vert B\vert$と記す.

同値関係であるから,集合の集合のこの同値関係によるによる類別を考え,その類を集合$A$の濃度といい,$\vert A\vert$と記す,と考えてよいのか.集合の集合という考えかたには矛盾が生じるので,この定義を用いることはできない.

有限集合の場合は,その個数が等しければ一対一対応が存在し,逆も成り立つので,集合$A$の要素の個数を濃度とし,$\vert A\vert$と記す.実はここにも問題はある.つまり未だわれわれは「個数」を定義していないのである.このように,厳密に考えると,様々の問題を浮かびあがらせることが出来ることを忘れず,しかし,素朴な理解を重視して,考えてゆきたい.

集合$A$が集合$B$のなかに埋め込める,つまり$B$の部分集合との間に一対一対応が存在するとき,濃度の関係は$\vert A\vert\le \vert B\vert$であると書く.$\vert A\vert\le \vert B\vert$ではあるが,$A$$B$の間の一対一対応は存在しないときは$\vert A\vert<\vert B\vert$と書く.

一般に,

定理 1        集合$A$に対して
\begin{displaymath}
\vert A\vert<\vert 2^A\vert
\end{displaymath}

が成立する. ■

証明      $A$の要素$a$に対して,$A$から集合$\{0,\ 1\}$への写像$f_a$

\begin{displaymath}
f_a(x)=
\left\{
\begin{array}{ll}
0&x=a\\
1&x\not=a
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

で定めることで,$A$$2^A$の部分集合と一対一に対応する. ゆえに
\begin{displaymath}
\vert A\vert\le \vert 2^A\vert
\end{displaymath}

である.次に$A$$2^A$の間に一対一写像は存在しないことを示す.

集合$A$$2^A$の間に一対一対応が存在すると仮定する.

この一対一対応で集合$A$の要素$a$に対応する$A$の部分集合を$S_a$とする. $A$の部分集合$T$を次のように定める.

\begin{displaymath}
T=\{\ t\ \vert\ t \not\in S_t\ \}
\end{displaymath}

$T$もまた$A$の部分集合なので,$A$のある要素$u$と対応している.つまり
\begin{displaymath}
T=S_u
\end{displaymath}

である. しかしこのとき,もし$u\in T$なら$T$の定義から $u\not\in S_u=T$なので矛盾, もし$u\not\in T$,つまり$u$$T$の補集合の要素なら$T$の定義から$u\in S_u=T$なので矛盾,

いずれも矛盾となる.ゆえに集合$A$$2^A$の間に一対一対応は存在しない.つまり

\begin{displaymath}
\vert A\vert<\vert 2^A\vert
\end{displaymath}

である.□

上記背理法はいわゆる対角線論法である.

例 1.3        整数や実数はまだ定義されていない. したがってここでは,高校で通常用いる意味での整数と実数とする.この整数と実数の濃度に関して次のことが成り立つ.

自然数とと一対一の対応が作れる無限集合の濃度を 可付番と言い,$\aleph_0$と書き表し「アレフ0」と読む.また可付番な無限を可算無限ともいう.

それに対して実数の集合の濃度を$\aleph$と書く. カントールが最初に発見した集合論の定理が,次の定理である. この定理は,実数の集合の濃度は自然数の濃度より大きい, つまり実数の集合は可付番ではないことを意味する. カントールは1874年にはこれを発見していたが, 1891年に次の証明のような対角線論法でこれを証明した. カントールは三角関数の級数の研究から集合論を創始し,また, 位相空間論の基礎を築いた.現代的な数学のはじまりとなったものだ.

これは,区間$[0,\ 1)$の実数$x$を2進法で

\begin{displaymath}
x=0.11011000\cdots
\end{displaymath}

のように書き表す. このとき少数第$j$位の数字0か1を$f_x(j)$と書くと,
\begin{displaymath}
x \to f_x(j)
\end{displaymath}

によって,集合$[0,\ 1)$と,自然数から$\{0,\ 1\}$への写像の集合の一対一が得られる.

よって上記定理から,区間$[0,\ 1)$の濃度は自然数よりも実際に大きいことがわかる. つまり

\begin{displaymath}
\vert\mathbb{N}\vert=\aleph_0<\vert 2^{\mathbb{N}}\vert=\vert(0,\ 1]\vert\le \aleph=\vert\mathbb{R}\vert
\end{displaymath}

が示された.

一般連続体仮説

そして
無限集合$A$に対して,

\begin{displaymath}
\left\vert A \right\vert<\left\vert B \right\vert<\left\vert 2^A \right\vert
\end{displaymath}

となる集合$B$は存在しない.
という命題がいわゆる一般連続体仮説である.次節で述べるようにこれは公理的集合論のなかで証明することも否定することもできない.集合論の公理系から独立している.
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2014-05-23