2017年入試問題研究に戻るお茶大後期解答
(1) $\alpha=\cos x+i\sin x$ とおく. \[ \cos nx=\dfrac{\alpha^n+\bar{\alpha}^n}{2} \] これより \begin{eqnarray*} \cos (n+2)x&=&\dfrac{\alpha^{n+2}+\bar{\alpha}^{n+2}}{2}\\ &=&\dfrac{\alpha^{n+1}+\bar{\alpha}^{n+1}}{2}\left(\alpha+\bar{\alpha} \right) -\alpha\bar{\alpha}\dfrac{\alpha^n+\bar{\alpha}^n}{2} \end{eqnarray*} がなりたつ.
各自然数 $n$ に対して,恒等式 $\cos nx=T_n(\cos x)$ が成り立つような $X$ の $n$ 次多項式 $T_n(X)$ で,最高次の係数が $2^{n-1}$ であるものが存在することを $n$ についての数学的帰納法で示す.
$T_1(X)=X$,$T_2(X)=2X^2-1$ である.よって $n=1,\ 2$では成立している.
$n$ と $n+1$ のとき成立するとする. $\alpha+\bar{\alpha}=2\cos x$,$\alpha\bar{\alpha}=1$ なので, \begin{eqnarray*} &&\dfrac{\alpha^{n+1}+\bar{\alpha}^{n+1}}{2}\left(\alpha+\bar{\alpha} \right) -\alpha\bar{\alpha}\dfrac{\alpha^n+\bar{\alpha}^n}{2}\\ &=&2\cos xT_{n+1}(\cos x)-T_n(\cos x) \end{eqnarray*} である.従って,$T_{n+2}(X)$ を \[ T_{n+2}(X)= 2XT_{n+1}(X)-T_n(X) \] で定めれば,$n+2$ のときにも成立し,すべての $n$ で成立する.
\[ T_3(X)=2XT_2(X)-T_1(X)=4X^3-3X \] である.(2) $P=a_n\cos(k\pi)-f\left(\dfrac{k}{n}\pi \right)$ とおく. 仮定から$-a_n < f(x) < a_n$ である.よって, \begin{eqnarray*} k\ 奇数&:&P=-a_n-f\left(\dfrac{k}{n}\pi \right)<-a_n+a_n=0\\ k\ 偶数&:&P=a_n-f\left(\dfrac{k}{n}\pi \right)>a_n-a_n=0 \end{eqnarray*} である.
(3) $F(x)=a_n\cos(n x)-f(x)$ とおく.$f\left(\dfrac{k}{n}\pi\right)=P$ である. また $F(x)$ は連続関数である. (2)および連続関数の中間値の定理によって,$F(x)=0$ となる $x$ が, $k=0,\ 1,\ \cdots,\ n-1$ に対する各区間 $\left[\dfrac{k}{n}\pi,\ \dfrac{k+1}{n}\pi \right]$ に存在する. つまり,方程式 $a_n\cos(nx)-f(x)=0$ は区間 $[0,\ \pi]$ に少なくとも$n$個の解を持つ.
(4) \begin{eqnarray*} a_n\cos nx-f(x)&=&-a_{n-1}\cos (n-1)x-\cdots-a_1\cos x-a_0\\ &=&-a_{n-1}T_{n-1}(\cos x)-\cdots-a_1T_1(\cos x)-a_0 \end{eqnarray*} $T_k(X)$ は $X$ の $k-1$ 次整式であるから, $-a_{n-1}T_{n-1}(X)-\cdots-a_1T_1(X)-a_0$ は $X$ の $n-1$ 次の整式である. これを, $b_{n-1}X^{n-1}+b_{n-2}X^{n-2}+\cdots+b_1X+b_0$ とすれば, \[ a_n\cos nx-f(x)=b_{n-1}(\cos x)^{n-1}+b_{n-2}(\cos x)^{n-2}+\cdots+b_1\cos x +b_0 \] である.
(5) $n-1$ 次方程式 \[ b_{n-1}X^{n-1}+b_{n-2}X^{n-2}+\cdots+b_1X+b_0=0 \] において,$X=\cos x$ とおくと \[ b_{n-1}(\cos x)^{n-1}+b_{n-2}(\cos x)^{n-2}+\cdots+b_1\cos x +b_0=0 \] となる $x$ が区間 $[0,\ \pi]$ に少なくとも $n$ 個存在した. この区間で $x$ と $X$ は一対一に対応している.
従って上記 $n-1$ 次方程式が $n$ 個の解をもつことになり, 因数定理から左辺の $n-1$ 次整式が,少なくとも $n$ 個の因数をもつ. 両辺の次数に矛盾が起こる.これは $-a_n< f(x)< a_n$ との仮定の下に起こった矛盾である.よって,$|f(x)|$ の最大値は $a_n$ 以上である.
※ 本問は, \[ f(x)=a_n\cos nx+a_{n-1}\cos (n-1)x+\cdots+a_1\cos x+a_0 \] を考えるとき,絶対値$|f(x)|$の最大値が$a_n$以上であることを示している.
$X=\cos x$ とおくと,$f(x)$ は $X$ の関数になる. $x$ が実数を動くとき,$X$ は $-1\leqq X \leqq 1$ を動く. これを $F(X)$ とおく. \[ F(X)=a_nT_n(X)+a_{n-1}T_{n-1}(X)+\cdots+a_1X+a_0 \] である.
任意の,$X$ の $n$ 次整式 $F(X)$ は, $T_n(X),\ T_{n-1}(X),\ \cdots,\ T_1(X)$ と定数を用いて, 上記のように表すことができる. これは次数に関する数学的帰納法で明らかである.
このとき,$F(X)$ の $n$ 次の項の係数は, $a_n\cdot 2^{n-1}$ である. したがって,$X$ の $n$ 次式 $F(X)$ の $n$ 次の項の係数が1のときは,$a_n=\dfrac{1}{2^{n-1}}$ となり, $F(X)$ は \[ F(X)=\dfrac{1}{2^{n-1}}T_n(X)+a_{n-1}T_{n-1}(X)+\cdots+a_1X+a_0 \] と表せる.つまり,$n$ 次の項の係数が1の $n$ 次式 $F(X)$ の \[ \left[-1\leqq X \leqq 1における|F(X)|の最大値\right] \geqq \dfrac{1}{2^{n-1}} \] となる.
等号は,$F(X)=T_n(X)$ のときにかぎり成り立つ.
「かぎり」の部分は証明が必要.それについては, 「チェビシェフの多項式の応用」を参照のこと.