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微分と積分

これは前回も報告したのであるが,『解析基礎』を学んだ大学3年生のYさんから,2011年の3月次のようなメールをいただいた.

     僕は、理学部物理学科の3回生です。青空学園数学科の様々な記事を読ませていただき、心から感動しました。本当にありがとうございます。中でも特に感激したのが、「解析基礎」の記事です。僕は物理学科ですが、数学に非常に興味があり、数学科の授業をいろいろと履修しています。昨年、「ルベーグ積分」の授業を受講しました。しかし、単位はとれたものの、理解したとは全く言えない状態でした。具体的には次のような疑問が残りました。
    ○測度のもつ性質がいろいろあって煩雑すぎる。本質はどれか。
    ○リーマン積分で成り立たないことがルベーグ積分で成り立つのはなぜか。
    ○原始関数と定積分はどのように結び付くのかなどなどです。

     いろいろなルベーグ積分の本を読みましたがすっきりすることはありませんでした。しかしあきらめずに勉強を続けていると結局、
    ○面積(測度)はどのように定義されるのか。
    ○微分の逆演算がなぜ、定積分と関連するのか。

     ここがわかっていないのだと気付きました。そんなとき、インターネットで青空学園の記事を見つけたのです。そこで、「定積分は微分とは独立に定義されるもの」という、僕にとって革命的な記事に出会いました。感動と悔しさで涙が出ました(笑)。

     確かに、高校数学では、定積分を原始関数の差で定義しています。だから、原始関数が存在するかどうかなんて考えもせずに、定積分を計算します。僕もその一人でした。このことが、ルベーグ積分がわからなかった根本の原因だったのです。計算方法の習得だけで根拠がわからなければ、やはりどこかで弊害が出てくるのですね。

今日,多くの数学教師はリーマン和の概念すら知らず,定積分の定義を強調しては教えない.高校生の多くは,定積分の定義を意識しては身につけない.それでも少数ながら「定義する」ということに自覚的である高校生はいる.それを大切にし,それに答えうる教育でなければならない.

今回の「高等数学の教育において何を伝えるのか」という課題に即していえば,Yさんは大学初年級の解析の授業でも,定積分の定義に触れることはなかったのである.本来なら,この段階で高校数学を越えねばならなかった.

メールの彼は,とにかく自力で日本の高校数学を乗り越えた.それができなくて,何となくおかしいと曖昧さを残したままの学生も多いだろう.これでは分野を問わず本当の基礎的な研究はできないのではないか.大きな問題である.



Aozora 2018-08-09