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帰納的探究

数学対話

数学的現象からの帰納的探究の場,それが『数学対話』である.『数学対話』は青空学園数学科での制作の基本である.私と高校生との対話形式で書きためてきたものであるが,それはまた高校時代の自分と今の自分の内での対話でもある.

個別の問題や目前の数学的現象に対して,この事実が成り立つ根拠は何だろう,一般化は出来ないのか,などを対話してきた.教えていることの背景や一般化を深めようという数学教育に携わる人,数学が好きでいろいろ考えることが楽しみな社会人,そして自分でいろいろ考えている高校生や大学生を念頭において,日常出会う問題や自然現象からはじめて,体系的に捉えるところまで,できるだけ論証を飛躍させることなく,話を進めるようにしてきた.

読者の参考までに大きく次のように分けているが,もちろん幾何的ことがらを代数の方法で考えることなど,分野は二重三重に重なっている.

『基礎分野』は,高校数学の土台であり,高校数学成立の根拠となっている基礎的な事実を,その定義から掘り下げて考えようとする.定義ができ,また成立する根拠を考えること,これが大切なことなのだ.根拠を問うという姿勢は教科書からはなかなか身につかない.しかし,ここに科学のはじまりがある.科学の精神を大切にしたい.現在の内容は次の通りである.

量と数/自然数と数学的帰納法/実数とは何か/数列の極限とeの定義/複素数の構成/方程式と恒等式/関数/座標の方法/ 計量ということ/定積分の定義/確率論の基礎/命題と条件/対角線論法と不完全性定理/ラムゼー型定理

『代数分野』は,文字と方程式の分野から高校数学を掘りさげたものである.人間は,文字を導入することで抽象力を飛躍的に高めた.文字の発明によって,個別の数から解放され,数の世界の構造を一般的に考察することができるようになった.これが代数学である.高校数学の基本的なねらいは,文字によって考えることができるようにあるということである.三次方程式,四次方程式を考えるところから始めて「原始多項式」や「スツルムの解法」で深める.「終結式と不変式」では十九世紀の数学から二十世紀の数学への飛躍を学ぶ.代数分野にはまた線型代数関連の内容も含めた.線型な関係とは,1次元の場合は比例関係,またはその展開としての1次式で表される関係のことである.多次元の場合には行列で表現される.現在の内容は次の通りである.

三次方程式/四次方程式/1の17乗根/スツルムの定理/原始多項式/チェビシェフの多項式/整式の整数論/終結式と不変式/一次変換を見る/線型代数の考え方/二項間漸化式/三項間漸化式と行列の累乗/カタラン数/ムーアヘッドの不等式とその応用/単位分数のエジプト分数による下からの近似(これは雑誌『初等数学』の2013年9月号に投稿した一文である)

『幾何分野』は,図形に関連する分野から高校数学を掘りさげたものである.平面に入れられた座標構造によって,図形の関係を代数的な関係に還元し,方程式の問題として図形問題を考える.これが第一である.線型幾何,ベクトルを用いた幾何について考える.これが第二である.またこれらの応用として,江戸時代の和算の問題を取りあげた.第三は,「パスカルの定理」では,軌跡に現れる除外点の意味を考えることから射影幾何に入っていく.ユークリッド平面から射影平面へ,その発展を考えす.「ポンスレの閉形定理」では,入試問題に現れた閉形定理のすべてを解明するとともに,その過程で現れた四次式の意味を追求し,一般的な証明をめざす.それによって複素射影幾何の立場が打ち出される.現在の内容は次の通りである.

フェルマ点/シュタイナー楕円/包絡線/根軸/特別な四面体/線型幾何入門/九点円の不思議/反転と円環問題/デカルトの円定理と一般化/円錐曲線・二次曲線/パスカルの定理/パップスの定理/デザルグの定理/重心座標/ポンスレの定理 

『解析分野』は,微分積分に関わる分野から高校数学を掘りさげたものである.微分積分の歴史はアルキメデスやそれ以前の「取りつくし法」にまでさかのぼれる.それは今日の積分の始まりともいえる.近代解析学は,フェルマーやライプニッツによって曲線の接線を考える上で考え出された微分法にはじまる.その前提としての座標の導入が必要であった.ニュートンは,ケプラーやガリレオがとらえた現象の本質をつかみ力学を確立した.微分積分の方法が決定的なものであった.彼は微分と積分を統合して,両者がある意味で逆の関係にあることを見抜いた.それはアルキメデスの方法からの飛躍であった.オイラーらによって解析学は大きな進歩を遂げた.しかし初期には級数の収束性も厳密ではなかった.十九世紀に入ってその基盤を洗いなおし,コーシーやワイエルシュトラウスによって微積分学の基礎ができた.実数の連続性に関するデーデキントやカントールの深い研究は,実数を特徴付ける条件を見いだし.この辺りまでの事々を,高校数学につながる道筋で考えたのである.現在の内容は次の通りである.

生成関数の方法/微分方程式とは/相加相乗平均の不等式/凸関数と不等式/オイラーの公式/代数学の基本定理/円周率を表す/ζ(2l)を関・ベルヌーイ数で表す/素数の分布/光線の包絡線/懸垂線と双曲線/惑星は楕円軌道を描く/最速降下曲線

このようにして,学問としての高校数学を大学初年級の数学につなぐ制作を,A4版で800ページを越えるものにまとめ公開してきた.

具体的な数学的現象,それは例題として提起されることもあれば,物理現象として提起されることもある.このような現象を分析し,より一般的な枠組を見出し,その下で解決してゆく.大学初年級の頃に,目的意識をもって身につけるべきことなのであるが,今日の日本ではそれが教育としてなされることはほとんどない.





Aozora 2018-08-09