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射影幾何の体

完全四角形

定義 19        $P^n$に4点 $p_i\ (1\le i\le 4)$が同一の部分平面$P^2$の一般の位置にある. この4点とそれから定まる6直線 $g_{ij}=p_i\vee p_j\ (1\le i <j\le 4)$からなる図形を完全四角形という.この6直線をともいう.

$P^n$に4直線 $g_i\ (1\le i\le 4)$が同一の部分平面$P^2$の一般の位置にある. この4直線とそれから定まる6交点 $p_{ij}=g_i\cap g_j\ (1\le i <j\le 4)$からなる図形を完全四辺形という.この6点を頂点ともいう. ■

辺といってもユークリッド幾何の線分としての辺ではない. 射影幾何でいう辺は直線である.

注意 3.2.1        完全四角形,完全四辺形という概念は本質的に$P^2$上のものであり, 2次元射影空間$P^2$における双対概念である.

定義 20        記号は前定義を引き継ぐ.

直線$l$上の6点 $q_i\ (1\le i\le 6)$に対し, 完全四角形$p_1p_2p_3p_4$で, その6直線 $g_{12},\ g_{13},\ g_{14}$ $g_{34},\ g_{24},\ g_{23}$$l$の交点がこの順に $q_i\ (1\le i\le 6)$となるものが存在するとき, この6点を四角性六点,または六点図形という. $P^2$おける双対概念を四辺性六辺六辺図形という. ■

注意 3.2.2        直線$l$上の6点 $q_i\ (1\le i\le 6)$と 6直線 $g_{12},\ g_{13},\ g_{14},\ g_{34},\ g_{24},\ g_{23}$$l$の交点との対応関係が重要である.

\begin{displaymath}
q_1=g_{12}\cap l,\ q_2=g_{13}\cap l,\ q_3=g_{14}\cap l,\
q_4=g_{34}\cap l,\ q_5=g_{24}\cap l,\ q_6=g_{23}\cap l
\end{displaymath}

と対応させる. $q_1,\ q_2,\ q_3$の乗っている辺が共点で, 辺$g_{12}$と辺$g_{34}$, 辺$g_{13}$と辺$g_{24}$, 辺$g_{14}$と辺$g_{23}$はそれぞれ互いに対辺である. この順を固定する. また, $q_1,\ q_2,\ q_3$,および $q_4,\ q_5,\ q_6$のそれぞれ3個ずつは異なる点であるが, $q_1,\ q_2,\ q_3$ $q_4,\ q_5,\ q_6$の間では,完全四角形の頂点を通ってもよいので, 同じ点があってもよい.

命題 41        直線$l$上の異なる3点と,異なる2点をとるとき, これら5点とともに四角性六点となる点がただ一つ$l$上に存在する. ■

証明      直線$l$上の異なる3点と,異なる2点を $q_1,\ q_2,\ q_3$$q_4,\ q_5$とする. これが二つの四角形 $p_i\ (1\le i\le 4)$ $r_i\ (1\le i \le 4)$$l$の交点であるとする.他の交点を$q_6,\ {q_6}'$とする.

$p_1,\ p_2,\ p_3$ $r_1,\ r_2,\ r_3$について

\begin{displaymath}
(p_1\vee p_2)\cap(r_1\vee r_2),\
(p_2\vee p_3)\cap(r_2\vee r_3),\
(p_3\vee p_1)\cap(r_3\vee r_1)
\end{displaymath}
$l$上にあって共線なので,デザルグの定理4(の乙から甲)より

\begin{displaymath}
p_1\vee r_1,\
p_2\vee r_2,\
p_3\vee r_3
\end{displaymath}

は共点である.同様に $p_1,\ p_2,\ p_4$ $r_1,\ r_2,\ r_4$について考えることにより

\begin{displaymath}
p_1\vee r_1,\
p_2\vee r_2,\
p_4\vee r_4
\end{displaymath}

は共点であり,この共有される2点は一致する.この結果

\begin{displaymath}
p_2\vee r_2,\
p_3\vee r_3,\
p_4\vee r_4
\end{displaymath}

が共点となるので,デザルグの定理4(の甲から乙)より

\begin{displaymath}
(p_3\vee p_4)\cap(r_3\vee r_4),\
(p_4\vee p_2)\cap(r_4\vee r_2),\
(p_2\vee p_3)\cap(r_2\vee r_3)
\end{displaymath}

が共線となる.よって$q_6={q_6}'$である. □

命題 42        点$o$を通る四辺性六辺 $\{l,\ m,\ n,\ g,\ h,\ k\}$と, $o$を通らない直線$w$との交点を $p,\ q,\ r,\ a,\ b,\ c$とする. このとき $\{a,\ b,\ c,\ p,\ q,\ r\}$は四角性六点である. ■


証明      四辺性六辺 $\{l,\ m,\ n,\ g,\ h,\ k\}$とは,四辺で定まる6点と点$o$を結ぶ6本の直線である.命題41の双対命題によって,5本の直線に対し四辺性六辺となる第6の直線は一意に確定する.

$p$から直線$j$を引き,$k$との交点を$s=k\cap j$とする. $s$$q$を結ぶ. その$g$との交点 $t=g\cap \{q\vee(k\cap j)\}$をとる. また$j$$h$との交点を$u=j\cap h$とする. 5直線

\begin{displaymath}
o\vee p,\ o\vee q,\ o\vee a,\ o\vee b,\ o\vee c
\end{displaymath}

は,四直線$w,\ j$$s\vee t$$t\vee u$に関する四辺性をもつ. 第6の点の一意性から$t\vee u$$w$の交点を$r'$とすれば $o\vee r$$o\vee r'$は一致する.つまり$r'=r$である.

この結果 $\{a,\ b,\ c,\ p,\ q,\ r\}$は 4点$o,\ s,\ t,\ u$に関する四角性六点である. □

命題 43        直線上の6点が四角性六点であるという条件は,射影写像に関して不変である. ■

証明      命題42の双対命題は,
直線$w$上の $\{a,\ b,\ c,\ p,\ q,\ r\}$が四角性六点であるとする. $w$上にない点$o$とこれらを結ぶ直線を $g,\ h,\ k,\ l,\ m,\ n$とする. $\{l,\ m,\ n,\ g,\ h,\ k\}$ は四辺性六辺である.
である.これを直線$w'$で切った6点は四角性六点である. これによって,点$o$を中心とする$w$から$w'$への配景写像によって 対応する6点の四角性が保存されることが示された. よって射影写像もまた四角性を保存する. □

直線体と係数体

射影幾何の公理系から,直線上の点に関する演算も定義することができる.一般の射影幾何の直線上の点の間で演算ができるということは驚きであるが,それが十九世紀の末にはほぼ全容が明らかになった.その間の事情はクラインの『19世紀の数学』[42]のIV章の第1節「純粋射影幾何の体系化」に詳しい.

直線体はシュタウト(K.G.C.von Staudt,1798〜1867)が先鞭をつけた.複比を計量に依存しないで定義する,つまり複比を長さという概念から独立に定義することがその時代の一つの目標だった.シュタウトが抽象的に公理から定義された射影幾何において体が定義され,それによって一般射影座標が可能であることを示したのである.

もとより,指標となったのはユークリッド空間の直線で,ここに座標を導入すれば直線上の点の集合が実数体と同型になる,ということであった.これを公理から建設された射影幾何でも実現すること.これが当面の目標である.

和と積の定義

体に関する準備をしたので,射影直線上の点の間の演算を定義しよう.

定義 21        直線上に相異なる3定点 $p_0,\ p_1,\ p_{\infty}$をとる.
  1. 演算を定める相異なる3点の組をといい, $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$のように記す. 3点を順に原点示点単位点という.
  2. $x,\ y$$l$上にあって$p_{\infty}$とは異なる2点とする. $p_{\infty},\ x,\ p_0,\ p_{\infty},\ y,\ s$が四角性六点となる点$s$を, 枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$に関する$x,\ y$といい, $x+y$と表す.
  3. 同様に, $p_0,\ x,\ p_1,\ p_{\infty},\ y,\ t$が四角性六点となる点$t$を, 枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$に関する$x,\ y$といい, $x\cdot y$と表す.■
図では,$p$および$q$を省略し,点の添え字部分を記している. 以下混乱しなければ,このように用いることもある.

これがなぜ和と積になるのか. 射影平面の一つのモデルは3次元ユークリッド空間の1点Oを通る直線の集合であった. この直線の集合を,Oと$p_{\infty}$を結ぶ直線と平行な平面で切ると,ユークリッド平面が得られる.ここに移せば確かにユークリッド平面上の線分の長さの和が得られることを確認しよう.赤線は射影平面の要素としての直線.緑線はそれをOと$p_{\infty}$を結ぶ直線と平行で点$p_2$を通る平面で切った図形である.

図からユークリッド平面上で対応する点を大文字で示す. 和について, 対応するユークリッド平面で

\begin{eqnarray*}
&&\mathrm{OX}=\mathrm{YS}\\
&&\iff\\
&&\mathrm{OX}+\mathrm{OY}=\mathrm{OS}
\end{eqnarray*}

であることがわかる.

積についても同様である. 対応するユークリッド平面で

\begin{eqnarray*}
&&\mathrm{O1}:\mathrm{OX}=\mathrm{OY}:\mathrm{OT}\\
&&\iff\\
&&\mathrm{OX}\cdot\mathrm{OY}=\mathrm{OT}
\end{eqnarray*}
となる.

このように, 射影平面の直線上の点に関する和と積の定義は, ユークリッド平面で和と積を作図する方法を, 射影辺面に引き戻したものであり,自然である.

命題 44        $l$上の$p_{\infty}$を除く点は,上記演算に関して体となる. 加法の単位元は$p_0$,乗法の単位元は$p_1$である. この体を $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$と表し,辺 $p_0\vee p_{\infty}$上の直線体という. ■

証明      示すべきは

  1. 加法で群であること.結合法則を満たす. 単位元の存在,逆元の存在.加法は可換である.
  2. 0を除く$P$の要素の集合が乗法で群であること. 結合法則を満たす.単位元の存在,逆元の存在.
  3. 加法と乗法に関して分配法則が成り立つ.
これらは面倒ではあるが困難ではない. よって演習課題としておき,証明は省略する.  □

次の命題が成りたつ.

命題 45        一つの射影幾何$\{P,\ Q\}$で定まる直線体はすべて同型である. ■

証明      任意の2直線$l,\ l'$をとる. それぞれの直線上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$ $[{p_0}',\ {p_{\infty}}',\ {p_1}']$に関して, 2つの直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$ $K({p_0}',\ {p_{\infty}}',\ {p_1}')$ が得られる. 命題35によって,$l$から$l'$への射影写像$\varphi$

\begin{displaymath}
\varphi(p_0)={p_0}',\
\varphi(p_1)={p_1}',\
\varphi(p_{\infty})={p_{\infty}}'
\end{displaymath}

となるものが存在する.射影写像は四角性六点を四角性六点にうつす. よって$\varphi$は点の演算を保持し,その結果 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$ $K({p_0}',\ {p_{\infty}}',\ {p_1}')$の同型を導く. □

射影幾何$\{P,\ Q\}$によって,その直線上の直線体がすべて同型で, この同型を除いて体が一意に確定する. この体$K$を射影幾何$\{P,\ Q\}$係数体という. 直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$は点の集合に体の構造を入れたものであり, 係数体$K$は抽象的な体である.

命題 46        直線$l$上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$をとる. $l$上の点$x$と定点$p$について,$l$の点の対応

\begin{displaymath}
x \mapsto x+p,\
x \mapsto p\cdot x,\
x \mapsto x\cdot p,\
x \mapsto x^{-1}
\end{displaymath}

はすべて直線$l$から$l$への射影写像である. ■

証明     $l$上にない点$v$と,2直線$g=p_0\vee v$ $h=p_{\infty}\vee v$をとる. 2点$s,\ t$を平面$v\vee l$上にそれぞれ次のようにとって, それをもちいてそれぞれ次のように射影写像を定めればよい. ただし$\pi_{hl}(p)$は点$p$を中心とする直線$l$から直線$h$への配景写像を表すのであった.
(1)
3点 $p_{\infty},\ s,\ t$を共線,かつ $s,\ t\not \in l,\ h$

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{lh}(t)\circ\pi_{hl}(s),\ \varphi(p_0)=p
\end{displaymath}

となるようにとる. $\varphi:x\to x+p$である.
(2)
3点 $p_{\infty},\ s,\ t$を共線,かつ $s,\ t\not \in l,\ g$

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{lg}(t)\circ\pi_{gl}(s),\ \varphi(p_1)=p
\end{displaymath}

となるようにとる. $\varphi:x\to p\cdot x$である.

(3)
3点$p_0,\ s,\ t$を共線,かつ $s,\ t\not \in l,\ h$

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{lh}(t)\circ\pi_{hl}(s),\ \varphi(p_1)=q
\end{displaymath}

となるようにとる. $\varphi:x\to x\cdot q$である.
(4)
3点$p_1,\ s,\ t$を共線,かつ $s\in g,\ t \in h$

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{lg}(t)\circ\pi_{gh}(p_1)\circ\pi_{hl}(s)
\end{displaymath}

となるようにとる. $\varphi:x\to x^{-1}$である.

    これはまた,$p_0$$p_{\infty}$を入れかえ,$p_1$を動かさない射影写像を作り,それによって$x$を移した先として$x^{-1}$を定めてもよい.図の青線では$v$$w$を中心とする二つの配景写像で入れかえを行い,それで$x$をうつしている. □

注意 3.2.3        命題45は射影写像は直線体の同型を導くことを示した.これは射影写像で四角性六点は四角性六点にうつるので,直線体の演算が保たれ同型になることを根拠にしている.

一方,命題46によって$x\to x+p$$x\to x\cdot p$あるいは$x\to x^{-1}$という直線体から同じ直線体への写像が,直線の射影写像から得られる.

両命題とも,射影写像は同じ$\varphi$で表されているが, $\varphi$が導く体の同型と,$\varphi$が直接に指定する体内部の対応は,別個のものである.

命題 47        直線$l$上に相異なる3定点 $p_0,\ p_1,\ p_{\infty}$をとる. 枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない射影写像 $\varphi:l \to l$は,直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$ の内部自己同型にかぎる.■

証明      命題46より 直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$の内部自己同型 $x\to p\cdot x \cdot p^{-1}$ は射影写像であり,明らかに $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない.

逆に枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない射影写像 $\varphi:l \to l$をとる. $\varphi$の導く体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$の同型が内部自己同型であることを示す.

を通る$l$と異なる直線$g$$l\vee g$平面上の$l$$g$に含まれない点$s$をとる. 射影写像 $\varphi\circ\pi_{lg}(s)$に定理5を適用すると, 2点$r,\ t$と直線$h$が存在して

\begin{displaymath}
\varphi\circ\pi_{lg}(s)=\pi_{lh}(r)\circ\pi_{hg}(t)
\end{displaymath}
と表せる.命題39から,必要なら$h$が点$p_{\infty}$を通り$l$と異なるように取り直すことができる.このようにするとき,

\begin{displaymath}
\varphi
=\pi_{lh}(r)\circ\pi_{hg}(t)\circ\pi_{gl}(s)
=\pi_{lh}(r)\circ\pi_{hl}(t)\circ\pi_{lg}(t)\circ\pi_{gl}(s)
\end{displaymath}
である.ところが $\varphi(p_0)=p_0$ $\pi_{gl}(s)(p_0)=p_0$なので $\pi_{lh}(r)\circ\pi_{hg}(t)(p_0)=p_0$である. よって$p_0,\ t,\ r$は共線である. 同様に $p_{\infty},\ s,\ t$も共線である.

これらの直線や点に対して 命題46の(2)で定めた点$p$, (3)で定めた点$q$をとると,

\begin{displaymath}
\pi_{lg}(t)\circ\pi_{gl}(s):x\to p\cdot x,\ \quad
\pi_{lh}(r)\circ\pi_{hl}(t):x\to x\cdot q
\end{displaymath}

となる.よって $\varphi:x \to p\cdot x \cdot q$である.さらに $\varphi(p_1)=p_1$なので $q=p^{-1}$である.この結果$\varphi$は直線体の内部自己同型 $x\to p\cdot x \cdot p^{-1}$である. □

射影写像の基本定理

射影幾何$\{P^n,\ L\}$に関する二つの命題を示す. これらはそれぞれが成立することが,$\{P^n,\ L\}$に関する条件となる.

第一は射影写像の単一性である.それは

2直線間の射影写像は3点の対応点を与えれば一意に定まる.
という命題である.

第二はパップスの定理である.それは

同一平面上にある2直線上にそれぞれ相異なる3点 $p_i,\ q_i\ (i=1,\ 2,\ 3)$ をとれば, 3点 $(p_i\vee q_j)\cap(p_j\vee q_i)\ \left((i,\ j)
=(2,\ 3),\ (3,\ 1),\ (1,\ 2)\right)$は共線である.
である.

注意 3.2.4        パップスの定理は図をかけば確かに成立している. また『数学対話』の「パップスの定理」でもこれを「証明」している. しかし,それはあくまで実数体上の射影幾何で成立するということであって, 射影幾何の公理から歩んできたわれわれにあっては, 次に示すように一定の条件の下で成り立つことなのである.

命題 48        射影空間$P$がパップスの定理を満たすとする. このとき次のことが成り立つ.

相異なる2直線$l,\ g$が点$a$で交わっている. $l$から$g$への射影写像$\varphi$が点$a$を動かさないなら, $\varphi$はある点を中心とする配景写像である. ■

証明     定理5により$\varphi$ は2つの配景写像の合成である,これを

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{gh}(t)\circ\pi_{hl}(s)
\end{displaymath}
とする.$h$は直線,$s,\ t$は点である. $h$$a$を通れば命題37により$\varphi$は配景写像である.

$a\not \in h$とする.$\varphi(a)=a$なので $s,\ a,\ t$は共線である.$b=l\cap h$$c=g \cap h$とおく. $l$の任意の点$x$に対して $x^*=\pi_{hl}(s)(x)$ $\pi_{gh}(t)(x^*)=x'$ とおく.3点の組$\{s,\ a,\ t\}$ $\{b,\ x^*,\ c\}$に関してパップスの定理を用いることにより 3点 $x,\ x',\ p=(s\vee c)\cap(b \vee t)$は共線である. よって $\varphi=\pi_{gl}(p)$である. □

定理 6        射影幾何に関する三条件:
(1)
係数体が可換である.
(2)
射影写像の単一性が成り立つ.
(3)
パップスの定理が成り立つ.
は同値である. ■

証明

(1)$\iff$(2)     (1)が成りたつとする. 直線$l$の直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$が可換であれば, 直線$l$上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない射影写像は恒等変換のみとなる. 直線$l$から同一平面上の直線$l'$への射影写像 $\varphi,\ \varphi'$が いずれも直線$l$上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を 直線$l'$上の枠 $[{p_0}',\ {p_{\infty}}',\ {p_1}']$に写すとすると, ${\varphi'}^{-1}\circ\varphi$は 直線$l$上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない写像であり,恒等写像になる. よって $\varphi=\varphi'$である.

逆に(2)が成り立つとする. 枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない$l$から$l$への射影写像で恒等写像でないもの$\pi$があれば, 直線$l$から直線$g$への射影写像$\varphi$に対し $\varphi\circ\pi$も 直線$l$から直線$g$への射影写像で異なる. これは単一性に反するので,直線体の内部自己同型の射影写像は 恒等写像のみである.よって直線体は可換である.

(2)$\iff$(3)     (2)が成り立つとする. 同一平面上の2直線$l,\ l'$とその上の各3点$a,\ b,\ c$$a',\ b',\ c'$がある. 3交点を $p=(b\vee c')\cap(b'\vee c)$ $q=(c\vee a')\cap(c'\vee a)$ $r=(a\vee b')\cap(a'\vee b)$とおく. 直線$g=q\vee r$ $l',\ b\vee c',\ b'\vee c$の交点を $s,\ x_1,\ x_2$とする.射影写像 $\varphi:g\to g$

\begin{displaymath}
\varphi=\pi_{g,a'\vee c}(b')\circ\pi_{a'\vee c,a'\vee b}(a)\circ\pi_{a'\vee b,g}(c')
\end{displaymath}

で定義する.すると

\begin{displaymath}
\varphi(s)=s,\
\varphi(q)=q,\
\varphi(r)=r,\
\varphi(x_1)=x_2
\end{displaymath}

条件(2)より3点を固定する射影写像は恒等写像のみであるから$x_1=x_2$. この結果$x_1=x_2=p$.つまり(3)が成りたった.

逆に(3)が成り立つとする. 直線$l$上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$を動かさない 任意の射影変換$\varphi$をとる.点$p_0$を通る$l$と異なる直線$g$をとり, 点$p$を中心とする配景写像$\pi_{gl}(p)$を考える. $\pi_{gl}(p)\circ\varphi(a)=a$なので命題48によって $\pi_{gl}(p)\circ\varphi=\pi_{gl}(p')$となる点$p'$が存在する.

\begin{displaymath}
\pi_{gl}(p)(b)=\pi_{gl}(p')(b),\
\pi_{gl}(p)(c)=\pi_{gl}(p')(c)
\end{displaymath}

なので$p=p'$. よって $\varphi=\pi_{lg}(p)\circ\pi_{gl}(p')$は恒等写像である. □

注意 3.2.5        (1)と(2)の同値性の証明からわかるように, 一般に三対の対応点を与えれば, 射影写像は体の内部自己同型を除いて一意に定まる.

注意 3.2.6        すでにのべたように$P^2$の場合はデザルグの定理が成り立つものとしている.つまりより高次の射影幾何に埋め込まれているものとする. ただし,条件(2)または(3)から逆にデザルグの定理が導かれることが知られている.


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2014-01-03