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射影幾何の定理

パスカルの定理は射影幾何の定理である. その意味は,それが射影幾何の基本図形と円錐曲線に関する命題であり,ある基本図形と円錐曲線で成立することと, それらを射影写像でうつした基本図形と円錐曲線で成立することとが,同値であるということである. パスカルの定理の命題の,条件も結論も射影変換で不変な内容であることから,それがわかる.

この事実をすでにパスカルは認識していた. そしてパスカルの定理を二つの円の場合に証明すれば, これによって任意の二つの円錐曲線で成立することを知っていた.

二つの円の場合の証明は,先に「円周角の相等を用いる」でおこなった方法であったと言われている.二つの円の場合は,これをユークリッド平面に置くことができ,そこでは長さの相等や円周角の定理が使える.これを用いて証明した.

「パスカルの定理は射影幾何の定理」にはもう一つの意味がある. つまりその証明もまた射影幾何内部の方法で完結してできるはずだということである.

そのためには射影幾何の公理系から再出発し,必要なことをすべてを再構成しなければならない. われわれはそれを準備してきた.その結果, パスカルの定理を射影幾何の内部で証明することができるようになっている.

パスカルの定理を再掲し, その証明を射影幾何内部の方法で行おう.

定理 10        平面$P^2$上の6点 $p_i\ (1\le i \le 6)$が一つの円錐曲線$Q_2^1$上にあるための必要十分条件は,3点

\begin{displaymath}
(p_1\vee p_2)\cap(p_4\vee p_5),\
(p_2\vee p_3)\cap(p_5\vee p_6),\
(p_3\vee p_4)\cap(p_6\vee p_1)
\end{displaymath}

が共線であることである. ■

これは点がどの順に並んでいてもよい. また$Q_2^1$が正則でなく2直線に分解していてもよい. 証明は正則な場合で考えるが, それが分解しているときにもそのまま適用されることを追認できる.


注意 4.2.1        パスカルの定理は,6点のうちに同じ点があっても良い.円錐曲線上の2点を通る直線を,1点での接線に置きかえてもそのまま成り立つ. これまでの円錐曲線$Q$上の2点$p,\ q$を結ぶ直線$p\vee q$にかかわる命題は, $q=p$の場合,証明を追跡すれば$p\vee p$$p$での$Q$の接線とすればそのまま成立する. このことを根拠にして「退化六角形」2.3.2で示した、パスカルの定理の退化型,つまり,2点が一致する場合,2点が二組一致する場合,2点が三組一致する場合は,公理系から導かれた円錐曲線の場合についても,すべて成り立つ.


2014-01-03