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合同方程式の解法

$f(x)=a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots +a_n$が整数係数の多項式であるとき,合同方程式

\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ m)
\end{displaymath}

を満たす$x(の類)$を求めることを考える.このときは,各係数$a_i$をそれと合同な数で 置き換えてもかまわない.特に$m$で割りきれる係数は消し去ってかまわない.このような消 去をおこなった後に $a_0\not \equiv 0\quad (\bmod.\ m)$なら,この合同方程式を$n$次という. 合同方程式の解法に関する三つの基本定理を証明しよう.

定理 14
     法$p$が素数であるとき, $n$次の合同方程式
\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath} (2.10)

$n$個より多くの解を有することはない. 解の数とは(2.10)を満たす$p$を法とする剰余類の個数である. ■

証明     次数$n$に関する数学的帰納法で示す.

$n=1$のとき.一次の合同方程式

\begin{displaymath}
a_0x+a_1\equiv 0\quad (\bmod.\ p),\ (a_0,\ p)=1
\end{displaymath}

は定理12によって, $p$を法としてただ一つの解を有する.

$n-1$次のとき解が$n-1$個以下であることが示されたとする. (2.10)が解を有するときその一つを $x\equiv a\quad (\bmod.\ p)$とする. すなわち $f(a)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)$. このとき多項式の除法の原理(定理37)によって

\begin{displaymath}
f(x)=(x-a)f_1(x)+f(a)
\end{displaymath}

となる$n-1$次の多項式$f_1(x)$がある. $\displaystyle f(x)=\sum_{k=0}^na_kx^{n-k}$とおくと

\begin{displaymath}
f(x)-f(a)=\sum_{k=0}^{n-1}a_k(x^{n-k}-a^{n-k})
\end{displaymath}

なので, $f_1(x)$は整数が係数の多項式である. このとき合同方程式(2.10)は

\begin{displaymath}
(x-a)f_1(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

と同一の解を有する.$p$が素数であるからこの合同式は$(x-a)$または$f_1(x)$$p$ で割り切れるときにかぎって成り立つ. ゆえに $x\equiv a\quad (\bmod.\ p)$以外の解は$n-1$次の合同方程式

\begin{displaymath}
f_1(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

の解でなければならない.帰納法の仮定によりこの解は$n-1$個以下である.

よって(2.10)の解は$n$個以下である.□


さて一般の合同方程式

\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ m)
\end{displaymath}

は,$m$が素数の場合に解ければ, $m$を素因数分解して各因子を法とする方程式の解から 具体的に構成することが出来る.

それを二段階に分けて示そう.

まず,$m$が素数$p$のべきつまり$m=p^e$のときの解は, $m=p$のときの解から帰納的に構成することが出来ることを示す. そのために,$m=p^e$の解から$m=p^{e+1}$のときの解が構成できることを示す(定理15). この定理によって,$p$のときから順次解を構成してゆくことによって,$m=p^e$のときの解が構成できる.

次に,$m$ $m=p^eq^f\cdots$と因数分解されるときの解は, $m=p^e,\ m=q^f,\ \cdots$のときの解から構成することが出来ることを示す(定理16).

定理 15
     $e$を自然数,$p$を素数とする.合同方程式
\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p^{e+1})
\end{displaymath} (2.11)

の解は
\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p^e)
\end{displaymath} (2.12)

の解から構成することが出来る.

証明     (2.11)の解は法を$p^e$で考えることにより(2.12)を満たす. よって$x$が(2.11)の解であるために, (2.12)の解$x_0$を用いて

\begin{displaymath}
x=x_0+p^ey\quad
\end{displaymath} (2.13)

と表されることが必要である.

逆に方程式(2.12)の各解$x_0$に対し(2.13)の形の数$x$が 方程式(2.11)の解となるように$y$をとることができるか否かを判断し, 可能ならそれを求めることができる.

一般に整数係数の整式$f(x)$に対して

\begin{displaymath}
f(x+y)=f(x)+yf'(x)+\cdots+y^k\dfrac{f^{(k)}(x)}{k!}+\cdots +y^n\dfrac{f^{(n)}(x)}{n!}
\end{displaymath}

と展開され,さらに各 $\dfrac{f^{(k)}(x)}{k!}$$x$$n-k$次の整数係数の整式で あることに注意する.

この$x$$x_0$を,$y$$p^ey$を代入することにより

\begin{displaymath}
f(x)=f(x_0+p^ey)=f(x_0)+p^eyf'(x_0)+p^{2e}y^2\dfrac{f''(x_0)}{2!}+\cdots
\end{displaymath}

を得る. 上の注意から各$f'(x_0)$, $\dfrac{f''(x_0)}{2!}\ \cdots$は整数である. ゆえにこの展開式の第3項以下は$p^{e+1}$で割りきれる.

この結果合同方程式 $f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ p^{e+1})$

\begin{displaymath}
f(x_0)+p^eyf'(x_0)\equiv 0\quad (\bmod.\ p^{e+1})
\end{displaymath}

と同値である.$f(x_0)$$p^e$で割り切れるので
\begin{displaymath}
\dfrac{f(x_0)}{p^e}+yf'(x_0)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath} (2.14)

ここで二つの場合を区別する.

(1)     $f'(x_0)\not\equiv 0\quad (\bmod.\ p)$のとき. このときは(2.14)は$p$を法としてただ一つの解をもつ.それを $y_0\ (\bmod.\ p)$とする.

\begin{displaymath}
x\equiv x_0+p^ey_0\quad (\bmod.\ p^{e+1})
\end{displaymath}

は(2.11)の解である.

(2)     $f'(x_0)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)$のとき. このときは(2.14)は $\dfrac{f(x_0)}{p^e}$がさらに$p$で割り切れなければ解がない. $\dfrac{f(x_0)}{p^e}$$p$で割り切れるなら$p$の剰余系の任意の$y$が解になる.つまり

\begin{displaymath}
x_0,\ x_0+p^e,\ x_0+2p^e,\ \cdots,\ x_0+(p-1)p^e \quad \quad (\bmod.\ p^{e+1})
\end{displaymath}

が(2.11)を満たす. すなわち $f'(x_0)\equiv 0\quad (\bmod.\ p)$となる(2.12)の解$x_0$に対して, (2.13)の形の数$x$は, $f(x_0)\not\equiv 0\quad (\bmod.\ p^{e+1})$なら$y$によらず(2.11)の解でなく, $f(x_0)\equiv 0\quad (\bmod.\ p^{e+1})$なら(2.11)の$p^{e+1}$を法とする$p$個の解を与える. □

例 2.1.3        $p\ne 2$が素数で, $a$$p$で割り切れないとする.そのとき

\begin{displaymath}
x^2\equiv a\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

に解があるときは,その解は二つある.それを$\pm x_0$とする.

\begin{displaymath}
x_0\not \equiv 0\quad (\bmod.\ p),\ x_0\not \equiv -x_0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

この場合には, $f(x)=x^2-a,\ f'(x)=2x$である.ゆえに

\begin{displaymath}
f'(\pm x_0)=\pm 2x_0\not\equiv 0\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

これは上定理の(1)の場合である.ゆえに

\begin{displaymath}
x^2\equiv a\quad (\bmod.\ p^e)
\end{displaymath}

には二つの解がある.

例えば,

\begin{displaymath}
x^2\equiv 2\quad (\bmod.\ 7)
\end{displaymath}

の解は $x_0\equiv \pm 3$である.これから

\begin{displaymath}
x^2\equiv 2\quad (\bmod.\ 49)
\end{displaymath}

の解を求めてみよう.そのために$x=3+7y$とおく.

\begin{eqnarray*}
&&(3+7y)^2\equiv 2\quad (\bmod.\ 49)\\
から&&9+42y\equi...
...\ 49)\\
他の解は&&x\equiv -10\equiv 39\quad (\bmod.\ 49)
\end{eqnarray*}

定理 16
     法$m$を素数べきに因数分解して

\begin{displaymath}
m=p^eq^f\cdots
\end{displaymath}

とするとき,
$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle 0\quad (\bmod.\ p^e)$ (2.15)
$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle 0\quad (\bmod.\ q^f)$ (2.16)
 

 …

   

がそれぞれ $l,\ l',\ \cdots$個の解をもつとすれば,
\begin{displaymath}
f(x)\equiv 0\quad (\bmod.\ m)
\end{displaymath} (2.17)

$ll'\cdots$個の解をもつ.それは
$\displaystyle x$ $\displaystyle \alpha\quad (\bmod.\ p^e)$  
$\displaystyle x$ $\displaystyle \beta\quad (\bmod.\ q^f)$ (2.18)
 

 …

   

から求められる.ここで $\alpha,\ \beta,\ \cdots$はそれぞれ $p^e,\ q^f,\ \cdots$ を法としての$f(x)\equiv 0$の任意の解の一組である.■

証明     $x$が(2.17)の解ならば(2.15),(2.16)の解である. したがって(2.18)を満たす.

逆に(2.18)を満たす$x$は,(2.15),(2.16)を満たすから, (2.17)を満たす.□

例 2.1.4  

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
x^2\equiv 1\quad (\bmod.\ 3)\\
x^2\equiv 1\quad (\bmod.\ 4)
\end{array}
\end{displaymath}

の解はそれぞれ二つある.それらを $\alpha\equiv \pm1\quad (\bmod.\ 3)$ $\beta\equiv \pm1\quad (\bmod.\ 4)$とする.

\begin{displaymath}
x^2\equiv 1\quad (\bmod.\ 12)
\end{displaymath}

は四つの解をもつ.それらは,

\begin{displaymath}
\left.
\begin{array}{l}
x\equiv 1\\
x\equiv 1
\end...
...\begin{array}{l}
(\bmod.\ 3)\\
(\bmod.\ 4)
\end{array}
\end{displaymath}

から求められる.

\begin{displaymath}
∴\quad x\equiv 1,\ x\equiv 7,\ x\equiv 5,\ x\equiv 11\quad (\bmod.\ 12)
\end{displaymath}


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