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四次フェルマ問題

ガウス環の整数論を応用して,四次のフェルマー問題を解こう.

定理 48
不定方程式

\begin{displaymath}
x^4+y^4=z^2
\end{displaymath}

はガウス整数環のなかに$xyz\ne 0$の解をもたない.

証明     背理法で示す. $(x,\ y,\ z)\ne (0,\ 0,\ 0)$の解 $(\alpha,\ \beta,\ \gamma)$があるとする.

\begin{displaymath}
\alpha^4+\beta^4=\gamma^2
\end{displaymath}

$\alpha$$\beta$の最大公約数を$\delta$とすると,$\gamma^2$$\delta^4$の倍数となり,これから$\gamma$$\delta^2$の倍数となり,

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{\alpha}{\delta} \right)^4+
\left(\dfrac{\beta}{\delta} \right)^4=\left(\dfrac{\gamma}{\delta^2} \right)^2
\end{displaymath}

つまり $\left(\dfrac{\alpha}{\delta},\ \dfrac{\beta}{\delta},\ \dfrac{\gamma}{\delta^2} \right)$も解である.よってはじめから $\alpha$$\beta$は互いに素,この結果$\alpha$$\gamma$$\beta$$\gamma$も互いに素としてよい.以下の証明で$\alpha$$\beta$は適宜その同半数に代えてもよいことに注意する.

$\alpha,\ \beta$がともに$\lambda=1-i$の倍数でないとする. 補題7より, $\alpha^4-1,\ \beta^4-1$はともに 8の倍数なので, $\alpha^4+\beta^4-2=\gamma^2-2$は8の倍数である. $\gamma^2-2=8\eta$とおくと $\gamma^2=2(1+4\eta)$となり$\gamma^2$が従って$\gamma$は素数$\lambda=1-i$の倍数である. $\gamma=\lambda\mu$とおくと $\gamma^2=-2i\mu^2$となり, $\mu^2$と2,つまりは$\mu$$\lambda$は互いに素である.

一方, $\gamma^2-2=-2i\mu^2-2$は8の倍数である.つまり $-i\mu^2-1=-i(\mu^2-i)$より$\mu^2-i$が4の倍数となる. 補題7より$\mu^2-1$または$\mu^2+1$が4の倍数であり, この結果$1-i$または$1+i$が4の倍数となって,矛盾である.

よって$\alpha$$\beta$の一方のみが$\lambda=1-i$の倍数である. $\alpha$$\beta$について対称なので

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\alpha=\lambda^kx,\ kは正整数,\\ ...
...,\ \beta,\ \gamma は\lambda と互いに素.
\end{array}
\end{displaymath}

として良い.このとき

\begin{displaymath}
\lambda^{4k}x^4+\beta^4=\gamma^2
\end{displaymath}

である.このような $x,\ \beta,\ \gamma$が存在しないことを示す. ここで証明すべきことを強め,
\begin{displaymath}
\epsilon\lambda^{4k}x^4+\beta^4=\gamma^2,\ \epsilon\ は単数
\end{displaymath} (4.3)

をみたす $x,\ \beta,\ \gamma$が存在しないことを示す. 等式(4.3)より

\begin{displaymath}
(\gamma+\beta^2)(\gamma-\beta^2)=\epsilon\lambda^{4k}x^4
\end{displaymath}

である. $\gamma+\beta^2,\ \gamma-\beta^2$の公約数を$d$とする. $\beta^2$$\gamma$はともに奇数なので和と差は偶数である. 一方$d$ $\gamma+\beta^2,\ \gamma-\beta^2$の和と差, つまり $2\gamma,\ 2\beta^2$の公約数である. $\beta$$\gamma$は互いに素でともに奇数なので$d$は2の約数である. つまり $\gamma+\beta^2,\ \gamma-\beta^2$はともに $\lambda=1-i$の倍数である.

ここで $\gamma+\beta^2=\gamma-\beta^2+2\beta^2$なので, $\gamma+\beta^2$$\lambda^2=-2i$の倍数であることと $\gamma-\beta^2$$\lambda^2$の倍数であることは同値である.よって等式(4.3)となるためにはともに$\lambda^2=-2i$の倍数でなければならない.つまり$d=2$である.よってまた $\gamma+\beta^2$$\lambda^2$の倍数であるが$\lambda^3$ の倍数ではなく, $\gamma-\beta^2$ $\lambda^{4k-2}$の倍数であるとして良い.逆の場合は$\beta$に代えて$i\beta$で考えればよい.よって等式(4.3)より

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\gamma+\beta^2=\epsilon_1\lambda^2y^4,\...
...da,\ zと\lambda はそれぞれ互いに素.
\end{array}
\end{displaymath}

と表せる.この結果

\begin{displaymath}
2\beta^2=\epsilon_1\lambda^2y^4-\epsilon_2\lambda^{4k-2}z^4
\end{displaymath}

$\lambda^2=-2i$なので

\begin{displaymath}
\beta^2=-i\epsilon_1y^4+i\epsilon_2\lambda^{4k-4}z^4
\end{displaymath}

$-i\epsilon_1,\ i\epsilon_2$を改めて $\epsilon_1,\ \epsilon_2$と置けば
\begin{displaymath}
\beta^2=\epsilon_1y^4+\epsilon_2\lambda^{4k-4}z^4
\end{displaymath} (4.4)

となる.

$k>1$を示す.$k=1$とする.このとき等式(4.5)の右辺の各項は 奇数なので和は偶数,つまり$\lambda$の倍数となる.これは$\beta$$\lambda$と互いに素であることに反する.よって$k>1$である.

等式(4.5)において$k>1$であるから $\beta^2-\epsilon_1y^4$$\lambda^4$の倍数.つまり4の倍数である.

一方,$\beta$$y$$\lambda$の倍数ではないので,補題7とその証明より$\beta^2+1$または$\beta^2-1$が4の倍数で,$y^4-1$は8の倍数である.$\beta^2+1$が4の倍数のときは$(i\beta)^2-1$が4の倍数になる. よって$\beta^2-1$が4の倍数としてよく,このとき$\epsilon_1-1$が4の倍数になる. $\epsilon_1$は単数なので$\epsilon_1=1$である.このとき等式(4.5)は単数$\epsilon_2$をもちいて

\begin{displaymath}
\beta^2=y^4+\epsilon_2\lambda^{4(k-1)}z^4
\end{displaymath} (4.5)

となる. ところがこの等式は等式(4.3)の$k$$k-1$に代えただけである. つまり等式(4.3)をみたす $x,\ \beta,\ \gamma$$k$のとき存在すれば$k-1$でも存在する.

よって帰納的に$k=1$でも成立するが,これは$k>1$という先に示した結果と矛盾する. よって等式(4.3)をみたす $x,\ \beta,\ \gamma$は存在しない. □


この定理からただちに次の結論が導かれる.

系 48.1

\begin{displaymath}
x^4+y^4=z^4
\end{displaymath}

をみたすガウス整数は存在しない. ■

証明      もしあれば $x^4+y^4=(z^2)^2$より$x^4+y^4=Z^2$にガウス整数の解が存在することになるからである. □


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