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最良近似分数

$\omega$ を無理数とする.$\omega$ からはじめて連分数展開をおこなっていった結果, もし $k+1$ 回の後に,$\omega_k$ が整数となって展開が終了したとすれば,それは $\omega$ が 有理数であることを意味する.従って無理数の連分数展開は無限に継続される.

定理 49
     $\omega$ を正の無理数とする.$\omega$$k$ 回の連分数展開を,

\begin{eqnarray*}
\omega &=&\matrix{q_0}{1}{1}{0}\cdots\matrix{q_{k-1}}{1}{1}{0}\omega_k\\
&=&\matrix{P_k}{P_{k-1}}{Q_k}{Q_{k-1}}\omega_k
\end{eqnarray*}

と置く.このとき,
  1. $\dfrac{P_1}{Q_1}<\dfrac{P_3}{Q_3}<\cdots<\dfrac{P_{2k-1}}{Q_{2k-1}}
<\cdots<\omega <\cdots<\dfrac{P_{2k}}{Q_{2k}}<\cdots<\dfrac{P_4}{Q_4}
<\dfrac{P_2}{Q_2}$
  2. $\displaystyle \lim_{n \to \infty}\dfrac{P_n}{Q_n}=\omega$
  3. $\dfrac{P_n}{Q_n}$ は既約である. ■

証明     数列 $\{P_n\},\ \{Q_n\}$の定義から


  1. \begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
P_n&P_{n-1}\\
Q_n&Q_{n...
...y}{cc}
q_{n-1}&1\\
1&0
\end{array}
\right\vert=(-1)^n
\end{displaymath}

    である.つまり,

    \begin{displaymath}
\dfrac{P_n}{Q_n}-\dfrac{P_{n-1}}{Q_{n-1}}=\dfrac{(-1)^n}{Q...
...{Q_{n+1}}-\dfrac{P_n}{Q_n}
=\dfrac{(-1)^{n+1}}{Q_nQ_{n+1}}
\end{displaymath}

    したがって

    \begin{displaymath}
\dfrac{P_{n+1}}{Q_{n+1}}-\dfrac{P_{n-1}}{Q_{n-1}}
=(-1)^n\dfrac{Q_{n+1}-Q_{n-1}}{Q_{n-1}Q_nQ_{n+1}}
\end{displaymath}

    一方, $Q_{n+1}=Q_nq_n+Q_{n-1}$ より, $Q_{n-1}<Q_n<Q_{n+1}$

    したがって

    \begin{displaymath}
\dfrac{P_{n+1}}{Q_{n+1}}-\dfrac{P_{n-1}}{Q_{n-1}}
=\case...
...$\ 奇数のとき) \cr
>0&( $n$\ 偶数のとき) \cr
}
\end{displaymath}

    また,

    \begin{eqnarray*}
\matrix{P_n}{P_{n-1}}{Q_n}{Q_{n-1}}^{-1}\omega
&=&\left((-...
...
&=&\dfrac{Q_{n-1}\omega-P_{n-1}}{-Q_n\omega+P_n}=\omega_n>0
\end{eqnarray*}

    ここで $-\dfrac{Q_n}{Q_{n-1}}<0$ を乗じて

    \begin{displaymath}
\dfrac{ \omega -\dfrac{P_{n-1}}{Q_{n-1}}}{ \omega -\dfrac{P_n}{Q_n}} <0
\end{displaymath}

    他方,明らかに $\dfrac{P_1}{Q_1}=q_0<\omega$ .よって

    \begin{displaymath}
\dfrac{P_n}{Q_n}=\cases{
<\omega &( $n$\ 奇数のとき) \cr
>\omega &( $n$\ 偶数のとき) \cr
}
\end{displaymath}

  2. $N$ を任意の奇数とする. $\dfrac{P_{N}}{Q_{N}}<\omega <\dfrac{P_{N+1}}{Q_{N+1}}$ であるがさらに,

    \begin{eqnarray*}
0&<& \omega -\dfrac{P_N}{Q_N}
<\dfrac{P_{N+1}}{Q_{N+1}}-\d...
..._NQ_{N+1}} \\
&=&\dfrac{1}{Q_NQ_{N+1}}
<\dfrac{1}{Q_N^2}
\end{eqnarray*}

    $N$ を任意の偶数とする.同様に

    \begin{eqnarray*}
0&>& \omega -\dfrac{P_N}{Q_N}
>\dfrac{P_{N+1}}{Q_{N+1}}-\d...
...NQ_{N+1}} \\
&=&\dfrac{-1}{Q_NQ_{N+1}}
>-\dfrac{1}{Q_N^2}
\end{eqnarray*}

    したがって

    \begin{displaymath}
0 <\left\vert\omega-\dfrac{P_N}{Q_N}\right\vert< \dfrac{1}{Q_N^2}
\end{displaymath}

    $\displaystyle \lim_{N \to \infty}Q_N=\infty$ だから,

    \begin{displaymath}
\lim_{N \to \infty}\left\vert\omega-\dfrac{P_N}{Q_N}\right\vert=0
\end{displaymath}

    である.
  3. $P_nQ_{n-1}-Q_nP_{n-1}=(-1)^n$ より右辺は $P_n,\ Q_n$ の公約数の 倍数で,それが$\pm 1$であるから $P_n,\ Q_n$ は互いに素. つまり $\dfrac{P_n}{Q_n}$は既約である.□

$\dfrac{P_n}{Q_n}$ のことを $\omega$近似分数 という. 無理数 $\omega$ を近似する分数 $\dfrac{P}{Q}$ が, $q<Q$ なるどんな分数 $\dfrac{p}{q}$ に対しても

\begin{displaymath}
\left\vert\omega-\dfrac{P}{Q}\right\vert<\left\vert\omega-\dfrac{p}{q}\right\vert
\end{displaymath}

がなりたつとき,分数 $\dfrac{P}{Q}$ を無理数 $\omega$最良近似分数という.これより小さい分母でよりよい近似が得られないという意味である.


定理 50
     各 $n$ に対して分数 $\dfrac{P_n}{Q_n}$は最良近似分数である. ■

証明    一般に正の数 $A,\ B,\ C,\ D$ に対し, 二つの分数 $\dfrac{A}{B},\ \dfrac{C}{D}$$AD-BC=1$ であるものを考える. このとき二つの分数は既約で,両分数の差は $\dfrac{1}{BD}$ である.

この二つの分数の間にある任意の分数 $\dfrac{X}{Y}$をとる.

\begin{displaymath}
\dfrac{C}{D}<\dfrac{X}{Y}<\dfrac{A}{B}
\end{displaymath}

とする.これから $DX-CY>0,\ AY-BX>0$ である.

そこで

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
Ax+Cy=X\\
Bx+Dy=Y
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

となる $x,\ y$ を求めるとこれがちょうど

\begin{displaymath}
x=DX-CY,\ y=AY-BX
\end{displaymath}

となる.そして $x>0,\ y>0$ であるから

\begin{displaymath}
X>A,\ X>C,\ Y>B,\ Y>D
\end{displaymath}

となる.

ここで分数 $\dfrac{p}{q}$

\begin{displaymath}
\dfrac{P_{2k-1}}{Q_{2k-1}}<\dfrac{p}{q}<\dfrac{P_{2k}}{Q_{2k}}
\end{displaymath}

の範囲にあれば $P_{2k}Q_{2k-1}-Q_{2k}P_{2k-1}=(-1)^{2k}=1$ なので, 上の考察より $q>Q_{2k-1},\ Q_{2k}$ である. つまり, $\dfrac{P_{2k-1}}{Q_{2k-1}}<\dfrac{p}{q}<\omega$ $\omega<\dfrac{p}{q}<\dfrac{P_{2k}}{Q_{2k}}$ となる分数$\dfrac{p}{q}$の分母は $Q_{2k-1},\ Q_{2k}$ より大きい.

すなわち $\dfrac{P_{2k-1}}{Q_{2k-1}},\ \dfrac{P_{2k}}{Q_{2k}}$ は最良近似分数である. □


次の定理は「ペル方程式の解の存在」の定理58に対する別証明になっている. ここで $x$$y$ の関係を定理58の逆にしている. 定理58では $x^2-\sqrt{D}y^2=\pm 1$ との関係で $\vert x-\omega y\vert$ を考えた.ここでは無理数 $\omega$ を座標上の格子点 $(x,\ y)$ $\omega=\dfrac{y}{x}$ と近似することを考えるので $\vert\omega x-y\vert$ を考察する.

定理58(再掲)      $\omega$ が与えられた無理数とすると

\begin{displaymath}
\vert\omega x-y\vert<\dfrac{1}{x}
\end{displaymath}

となる整数 $x,\ y$無数に 存在する. ■


証明     定理49の証明より,

\begin{displaymath}
\vert P_N-\omega Q_N\vert<\dfrac{1}{Q_N}
\end{displaymath}

すなわち,$x=Q_N,\ y=P_N$ は条件を満たす. $N$ は無数に取ることができ,各近似分数は既約で $x=Q_N,\ y=P_N$ は異なるので, 実際に無数の組が存在する.□


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