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ミンコフスキーの定理

格子点

より一般的な格子点は後に定義する. 格子点は座標平面と整数をつなぐ概念だ.

「格子」という言葉の意味を知らない人も多いと思われるので, 平安時代の「格子」のある絵を紹介する.

「格子」とはもともとこのように細い角材を縦横に組み合わせて作った建具. 寝殿造りの建具である蔀(しとみ)のこと. 『竹取物語』に「かうし共も、人はなくしてあきぬ」 などとある.さらに細い木や竹などを、縦横に間をすかして組んで、 窓や戸口の外などに打ちつけたものをいう.

このような格子点を最初に研究したのはガウス(Gauss,1777-1855) である.それを引き継ぎ 整数問題の各方面に応用したのが,ミンコフスキー(H.Minkowski,1864-1909)である. 彼はドイツの幾何学者であり,幾何学的考察を整数論に適用して『数の幾何』なる分野を開拓した.

$xy$座標平面の点で$x$ 座標,$y$座標とも整数である点を格子点という.

ミンコフスキー の定理

さて,一定の(連続な)曲線で囲まれた平面領域が凸形であるとは,その領域内の 任意の2点を結ぶ線分の全体がこの領域に含まれることをいう.Minkowski は一般的に $n$ 次元空間での凸形の研究をし,「ミンコフスキーの定理」と呼ばれる定理を得た. それはさらに進んだ整数論で有用な定理なのであるが,ここでは二次元の場合について証明し その応用を考えよう.

定理 52 (ミンコフスキーの定理)
平面上の格子点を対称の中心とする点対称な面積4の凸形は,その内部あるいは境界線上に, 中心の格子点以外の格子点を少なくとも一つ含む. ■

これを拡張した次の定理を証明する.

定理 53
$s$ を任意の正数とする. 平面上に面積 $s$ の任意の平面図形 $F$ がある. $F$ に適当な平行移動をおこなって, $F$ の内部か周に含まれる格子点の数 $k$$s$ よりも大きくすることができる. ■

証明     図形 $F$$xy$ 平面上に置く. $m$$n$ を任意の整数とし,図形 $F$ を直線群 $x=m,y=n$ を引き,いくつかの一辺の長さ1の正方形に含まれる小領域に分割する.分割の境界は分割された双方に入れる.

小領域を含むこれらの正方形をおのおの平行に移動し,一つの正方形の上に重ねる.このとき $F$ の面積が $s$ であるから,一般に $s$ より多くの小領域が重なっている点が存在する.なぜならもしどの点での重なりも $s$ より少なければ,一辺の長さが1の正方形を十分細かな小片に細分して,各小片上の重なりが $s$ より少なくできる.従ってそれらの面積の総和も $s$ より小さくなるからである.$s$ が整数のとき分割された境界でのみ重なりが $s$ を越えることがあり得るが,この場合はその境界上の点をとる.$s$ が整数で,領域が正方形 $s$ 枚ちょうどからできているときにかぎり, $s$ 個の点の重なりしかないがこの場合ははじめから平行移動する必要がない.

従って自明な最後の場合を除き,領域の重なりが $s$ より大きい点が存在する.そのときの重なりの個数を $k$ とする. $s<k$である.

この点を分割された各正方形に記し,これらの正方形を元の位置に戻す.すると $F$ 上に 点列 $\mathrm{P}_1,\ \mathrm{P}_2,\ \cdots,\ \mathrm{P}_k$ ができ,これらの任意の2点間の$x$ 座標, $y$ 座標の差はどれも整数である.$\mathrm{P}_1$ が格子点に来るように平行移動させれば, $\mathrm{P}_1,\ \mathrm{P}_2,\ \cdots,\ \mathrm{P}_k$ はすべて格子点である.□

これをもとに定理52を証明しよう.

証明     図形 $F$ は,面積が4で,原点 $\mathrm{O}$ を対称の中心とするとしてよい.

$\mathrm{O}$ を中心に $F$ を 長さで$\dfrac{1}{2}$ に縮小した図形を $F'$ とする. $F'$ は面積が1であるから, $F'$ の内部あるいは周上に,2点 $\mathrm{P}(x,\ y)$ $\mathrm{P}'(x',\ y')$ で,その差 $x-x',\ y-y'$ がともに整数であるものが存在する.

$F'$$\mathrm{O}$ に関して対称であるから, $\mathrm{P}$ の対称点 $\mathrm{Q}(-x,\ -y)$$F'$ の周か内部にある.さらに $F'$ も凸形であるから $\mathrm{P'Q}$$F'$ に含まれ,特にその中点 $\mathrm{M'}\left(\dfrac{x'-x}{2},\ \dfrac{y'-y}{2} \right)$$F'$ に含まれる.$\mathrm{P}$$\mathrm{P'}$ は異なる点なので $\mathrm{M'}$$\mathrm{O}$ と異なる.

そこで $\mathrm{OM'}$ を2倍に拡大した点を $\mathrm{M}$ とすれば $\mathrm{M}$$F$ の周か内部にあり, $\mathrm{M}(x-x',\ y-y')$ であるから確かに格子点である. □


実数を有理数で近似するという問題に関して,ミンコフスキーの定理は非常に有効である.

定理 54
$\alpha,\ \beta,\ \gamma,\ \delta$ は実数で $\mit\Delta=\alpha\delta-\beta\gamma\ne 0$ とする.また $h,\ k$ は正数で $hk=\mit\Delta$とする.このとき

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
\vert\alpha x+\beta y\vert\le h\\
\vert\gamma x+\delta y\vert\le k
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

$x=y=0$ 以外の整数解を有する. ■

証明     この連立不等式が定める領域を $F$ とする. $F$ に点 $(x,\ y)$ が属すれば $(-x,\ -y)$ も属するから原点対称である.

$F$ の面積は

\begin{displaymath}
0\le \alpha x+\beta y\le h\quad ,\ \quad 0\le \gamma x+\delta y \le k
\end{displaymath}

で定まる平行四辺形の4倍である.この平行四辺形の一つの頂点は原点で,その両隣の頂点はそれぞれ

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
\alpha x+\beta y=h\\
\gamma...
...a x+\beta y=0\\
\gamma x+\delta y=k
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

の交点で,それは $\left(\dfrac{\delta h}{\mit\Delta} ,\ -\dfrac{\gamma h}{\mit\Delta} \right)$ , $\left(-\dfrac{\beta k}{\mit\Delta} ,\ \dfrac{\alpha k}{\mit\Delta} \right)$ である.したがって $F$ 面積は

\begin{displaymath}
4\times\left\vert\dfrac{\delta h}{\mit\Delta}\dfrac{\alpha ...
...
=4\times\dfrac{(\alpha\delta-\beta\gamma)hk}{\mit\Delta^2}=4
\end{displaymath}

ゆえにミンコフスキーの定理から, $F$ は原点以外の格子点を含む. □

系 54.1
$\omega$ を与えられた無理数とする.

\begin{displaymath}
\vert\omega x-y\vert<\dfrac{1}{x}
\end{displaymath}

となる整数$x,\ y$が無数に存在する. ■

証明      定理54において, $\alpha=\omega,\ \beta=-1,\ \gamma=1,\ \delta=0$ とすれば $\mit\Delta=1$ である.よって $h=\dfrac{1}{n},\ k=n$ とすれば,

\begin{displaymath}
\vert\omega x-y\vert\le \dfrac{1}{n},\ \vert x\vert\le n
\end{displaymath}

となる原点以外の格子点$(x,\ y)$ が任意の正数 $n$ に対して存在する. $n$を変化させることで

\begin{displaymath}
\vert\omega x-y\vert\le \dfrac{1}{x}
\end{displaymath}

となる無数の$x$$y$が得られる.$\omega$が無理数なので,等号が成立することはない. □

注意 5.3.1        これは後で示す近似定理(定理58)の別証明になっている.

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