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二次無理数の連分数展開

整数係数の二次方程式,$px^2+qx+r=0$でその判別式が正かつ平方数でないとする.このときこの方程式の根を二次(実)無理数と呼ぶ. 逆に二次無理数が満たす整係数の二次方程式を,その二次無理数の二次方程式という.

二次無理数の理論は,あまり他の知識を必要とせず理解できる大変美しい理論であるが,殘念ながら高校では習わない.ぜひ意慾的な高校生が,実際に計算をしながら学び理解してほしい.

補題 9
     二次無理数の二次方程式は,定数倍を除いて一意である. ■

証明      なぜなら,$\omega$$px^2+qx+r=0$解であるとして, さらに $p'x^2+q'x+r'=0$の解でもあるとする. $u$を有理数とし,$p'=pu$とする.

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
p\omega^2+q\omega+r=0\\
pu\omega^2+q'\omega+r'=0
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

となる.第一式に$u$を乗じて第二式を引くことにより, $(q'-uq) \omega +(r'-ru)=0$となる. $\omega$が無理数で各係数が有理数なので $q'=qu\ ,\ r'=ru$である. つまり二つの二次方程式は,定数倍を除いて一意である. □


二次無理数$\omega$に対し, $\omega$が属する二次方程式のもう一つの根を$\omega$の共役根と呼ぶ.

定理 60 (二次無理数の展開と判別式)
(1)
二次実無理数に対等な無理数は,再び二次無理数である.
(2)
対等な二次無理数の二次方程式の判別式は等しい. ■

証明

(1)

\begin{displaymath}
\omega_1=\dfrac{a \omega_0 +b}{c \omega_0 +d}
\end{displaymath}

と置く. $\omega_1$$px^2+qx+r=0$をみたすとする. この二次方程式の判別式を$D$とする.$D>0$$D$は平方数ではない.

\begin{displaymath}
p \left( \dfrac{a \omega_0 +b}{c \omega_0 +d} \right)^2
+q \left( \dfrac{a \omega_0 +b}{c \omega_0 +d} \right)+r=0
\end{displaymath}

分母をはらってまとめると,

\begin{eqnarray*}
&&(pa^2+qac+rc^2)\omega_0^2\\
&&\quad +\{2pab+q(ad+bc)+2rcd \}\omega_0+(pb^2+qbd+rd^2)=0
\end{eqnarray*}

$D$が平方数ではないので,整数$a,\ b,\ c,\ d$に対して $pt^2+qt+r=0,\ p+qt+rt^2=0$はいずれも有理数解をもたないので, $pa^2+qac+rc^2\ne 0,\ pb^2+qbd+rd^2\ne 0$である. ゆえに,$\omega_0$は整数を係数とする二次方程式の解となり, 二次無理数である.
(2)
この二次方程式の判別式を$D'$とする. さらに

\begin{eqnarray*}
D'&=& \{ 2pab+q(ad+bc) +2rcd \}^2 \\
&&\,\,\, -4(pa^2+qac...
...rd^2) \\
&=& q^2(ad-bc)^2-4pr(ad-bc)^2 \\
&=& q^2-4pr=D
\end{eqnarray*}

確かに二つの二次方程式の判別式は等しい.□

ここで,最も重要な論点となる定理を証明しよう. それは 二次実無理数の連分数展開は循環する ということである. 既出の例5.2.1のように,$\sqrt{2}$は第二項目から循環し,循環の長さは1である.このような循環性がすべての実二次無理数で成り立つのである.

その証明のための次の事実に注意しよう.

補題 10
     整数係数の二次方程式$px^2+qx+r=0$で,判別式が$D$(一定)であって, さらに$p,\ q,\ r$が互いに素かつ$pr<0$であるようなものは,有限個しかない. ■

証明     なぜなら,$4pr=q^2-D<0$より$q^2<D$.従って$q$は有限個である. 各$q$に対して,$4pr=q^2-D<0$を満たす整数の組$(p,r)$は, 右辺の因数分解を4と$p$$r$に分ける場合の数なので有限個である. □

定理 61 (実二次無理数の基本性質)
     実二次無理数の連分数展開は循環する. すなわち,実二次無理数$\omega$$k+1$までの展開を
\begin{displaymath}
\omega =\matrix{P_k}{P_{k-1}}{Q_k}{Q_{k-1}}\omega_{k+1}
\end{displaymath} (6.1)

とすると,$\omega_{k+1}$はあるところから一定の周期をもって同じ展開を繰りかえす. また,循環のはじまる番号$N$ $\omega_N>1,-1< \omega_N'<0$となる最初の番号である. ■

証明     いくつかの段階に分けて考えよう.正のもので証明できればよく,また共役なもののいずれかで証明できればよいので$\omega$を正な二次無理数で,$\omega '$をその共役無理数とし, $\omega > \omega '$とする.

(i)
$k$を十分大きくとれば $-1<\omega_k'<0$となることを示す.

等式6.1$\omega_{k+1}$の共役をとると,

\begin{displaymath}
\omega' =\matrix{P_k}{P_{k-1}}{Q_k}{Q_{k-1}}\omega_{k+1}'
\end{displaymath}

これから

\begin{eqnarray*}
\omega_{k+1}'
&=& \matrix{P_k}{P_{k-1}}{Q_k}{Q_{k-1}}^{-1...
...a '- \dfrac{P_{k-1}}
{Q_{k-1}}}{\omega '- \dfrac{P_k}{Q_k}}
\end{eqnarray*}

ところが,

\begin{displaymath}
\lim_{k \to \infty}\dfrac{P_{k-1}}{Q_{k-1}}
=\omega ,\,\, \lim_{k \to \infty}\dfrac{P_k}{Q_k}=\omega
\end{displaymath}

であるから十分大きな$k$に対して,

\begin{displaymath}
\omega '- \dfrac{P_{k-1}}{Q_{k-1}}<0,\,\,\omega '- \dfrac{P_k}{Q_k}<0
\end{displaymath}

したがって, $\omega_{k+1}'<0$となる.

他方$\omega_{k+1}$$\omega_k$から整数部分を除いた小数部分の逆数なので $\omega_{k+1}>1$である. さらに $\omega_{k+1}'<0$とすれば

\begin{displaymath}
\omega_{k+1}'=\matrix{q_{k+1}}{1}{1}{0} \omega_{k+2}'
\end{displaymath}

であるが,逆に解いて,

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{\omega_{k+1}'- q_{k+1}} =\omega_{k+2}'
\end{displaymath}

である.このとき,$q_{k+1} \ge 1$より $-1<\omega_{k+2}'<0$である.
1.
十分大きい$k$をとり $-1<\omega_k'<0$となっているとする.

\begin{displaymath}
\omega =\matrix{P_k}{P_{k-1}}{Q_k}{Q_{k-1}}\omega_{k+1}
\end{displaymath}

とすれば, $\omega_{k+1},\omega_{k+2},\omega_{k+3},\cdots$ はすべて同一の判別式の二次方程式の解であり,共役無理数が負である.

これら無理数の二次方程式は補題9より, 係数の定数倍を除いて一意なので,係数は互いに素としてよい. これらの二次方程式は,二つの根の積が負で判別式が同一なので, 補題10の条件を満たす.補題10より $\omega_{k+1},\omega_{k+2},\omega_{k+3},\cdots$の中に異なるものは有限個しかない.

ゆえにある番号$N$$j$があって,

\begin{displaymath}
\omega_1,\omega_2,\cdots \omega_N,\omega_{N+1},\cdots ,\omega_{N+j}
=\omega_N \cdots
\end{displaymath}

となり,以下$N$$N+j$の間の無理数が繰り返し現れる.
(ii)
このような$N,j$のうち$j$が最小となる$j$$k$とする. すると $\omega_{N+j}= \omega_N$なる$j$はすべて$k$の倍数である.

それを示す. 一般に一列に並んでいる数学的な対象が$a$回毎にくり返しさらに$b$回毎にくり返せば$\vert a-b\vert$回毎にもくり返す. なぜなら$x$回目のその対象を$f(x)$と書けば, $f(x+a)=f(x),f(x+b)=f(x)$がつねに成立することから,

\begin{displaymath}
f(x-a+b)=f(x-a)=f(x-a+a)=f(x)
\end{displaymath}

が成立するからである. このことに注意して,$j$$k$で割った余りを$r$とおく.

\begin{displaymath}
j=km+r
\end{displaymath}

である. ゆえに$r=j-km$でもくり返すので$k$の最小性により, $r=0$.つまり$k$を周期として循環する.
2.
循環のはじまる$N$ $\omega_N>1,-1< \omega_N'<0$となる最小の番号であることを示す.

$N$を循環のはじまる番号とし,番号$M$$N\le M$とする. 番号$M$は循環部分にあるので, つまり $\omega_M=\omega_{M+j}$なる$\omega_{M+j}$が存在する. また, $\omega_M>1,-1< \omega_M'<0$も成立している.

さて,

\begin{eqnarray*}
\omega_{M-1}&=&\matrix{q_{M-1}}{1}{1}{0}\omega_M\\
\omega...
...{1}{1}{0}\omega_{M+j}
=\matrix{q_{M+j-1}}{1}{1}{0}\omega_{M}
\end{eqnarray*}

したがって $\omega_{M-1}-\omega_{M+j-1}=q_{M-1}-q_{M+j-1}$. ここで$\omega_{M-1}$ $\omega_{M+j-1}$は同一の判別式に属し,差が整数なので, $\omega_{M-1}=\dfrac{p+\sqrt{D}}{r}\, ,\, \omega_{M+j-1}=\dfrac{t+\sqrt{D}}{r}$, とおけ,

\begin{displaymath}
\omega_{M-1}-\omega_{M+j-1}= \dfrac{p}{r}-\dfrac{t}{r}
= \omega_{M-1}'-\omega_{M+j-1}'
\end{displaymath}

すでに見たようにこの場合 $\vert\omega_{M-1}'-\omega_{M+j-1}'\vert<1$より $\vert q_{M-1}-q_{M+j-1}\vert<1$となって $q_{M-1}-q_{M+j-1}=0$. すなわち

\begin{displaymath}
\omega_{M-1}=\omega_{M+j-1}
\end{displaymath}

この操作は $-1< \omega_M<0$であるかぎり繰り返せ,番号が1ずつ減じる.

逆に十分大きい$k$では $-1<\omega_k'<0$となるので, 循環する部分は $-1<\omega_k'<0$を満たしていなければならない.

よって,循環のはじまる 番号$N$ $\omega_N>1,-1< \omega_N'<0$となる最小の番号である. □

$k$のことを二次無理数の連分数展開の周期と呼ぶ.

例 6.2.1        $\omega_1=-3+\sqrt{29}$のとき.$D=29$である.


\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
\omega&二次方程式&\omega'\\
\...
...}{\sqrt{29}-5}=\dfrac{\sqrt{29}+5}{4}=\omega_2&
\end{array}
\end{displaymath}

$\omega_2$の共役が条件を満たす最初の共役無理数である.実際 $\omega_2=\omega_7$ となり,ここから循環が始まっている. そして循環周期は$k=5$である.


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