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ペル方程式の解の構成

二次無理数の連分数展開の周期性を活用すると,ペル方程式 $x^2-Dy^2= \pm 1$の解を構成すること ができる.


定理 62 (構成定理1)
$D$は平方数でない正の整数とする. $\sqrt{D}$の連分数展開の循環の周期を$k$とする.
  1. $k$が奇数の時
    1. 正の偶数$m$に対して, $(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1})$$x^2-Dy^2=1$の解である.
    2. 正の奇数$m$に対して, $(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1})$$x^2-Dy^2=-1$の解である.
  2. $k$が偶数の時
    1. 正整数$m$に対して, $(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1})$$x^2-Dy^2=1$の解である.
    である.■

証明

\begin{displaymath}
\sqrt{D}=\matrix{q_0}{1}{1}{0}x_1
\end{displaymath}

とすると, $x_1>1\, , \, -1<x_1'<0$(ただし$x_1'$$x_1$の共役な無理数)となる.

なぜなら,$x_1>1$は明らかであるが,$q_0$$\sqrt{D}$を超えない最大の整数とすれば,

\begin{displaymath}
x_1'=\dfrac{1}{-\sqrt{D}-q_0}=-\left(\dfrac{1}{\sqrt{D}+q_0} \right)
\end{displaymath}

となるので明らかである. したがって,定理61 より,$\sqrt{D}$の連分数展開の展開は第二項より始まる. この周期を$k$とする.

\begin{eqnarray*}
\sqrt{D} &=& \matrix{q_0}{1}{1}{0}x_1 \\
&=& \matrix{q_0}...
...}x_1
\cdots
=\matrix{P_{mk}}{P_{mk-1}}{Q_{mk}}{Q_{mk-1}}x_1
\end{eqnarray*}

となる.ただし,

\begin{displaymath}
\matrix{q_0}{1}{1}{0}\left(\matrix{q_1}{1}{1}{0} \cdots \ma...
...1}{0} \right)^m
=\matrix{P_{mk}}{P_{mk-1}}{Q_{mk}}{Q_{mk-1}}
\end{displaymath}

とおいている.

$\sqrt{D} = \matrix{P_{mk}}{P_{mk-1}}{Q_{mk}}{Q_{mk-1}}x_1$に, $x_1
=\matrix{0}{1}{1}{ -q_0} \sqrt{D}$を代入する.

\begin{displaymath}
\sqrt{D} = \matrix{P_{mk-1}}{P_{mk}-q_0P_{mk-1}}{Q_{mk-1}}{Q_{mk}-q_0 Q_{mk-1}}\sqrt{D}
\end{displaymath}

さて一般に$\sqrt{D}$が自分自身と対等,つまり $\sqrt{D}=\matrix{p}{q}{r}{s} \sqrt{D}$ ならば,

\begin{displaymath}
\dfrac{p\sqrt{D}+q}{r\sqrt{D}+s}
=\sqrt{D} \Longrightarrow rD-q+(s-p)\sqrt{D}=0 \Longrightarrow rD-q=0,s=p
\end{displaymath}

したがって,

\begin{displaymath}
p^2-Dr^2=ps-rq=
\left\vert
\begin{array}{cc}
p&q\\
r&s
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

となる. よって

\begin{eqnarray*}
P_{mk-1}^2-D Q_{mk-1}^2 &=& \left\vert \matrix{P_{mk}}{P_{mk...
...t\vert \\
&=& (-1)^{mk+1} \cdot (-1) \\
&=& (-1)^{mk} \\
\end{eqnarray*}

したがって,
  1. $k$が奇数の時
    1. $偶数 m に対して,(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1}) は x^2-Dy^2=1 の解$
    2. $奇数 m に対して,(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1}) は x^2-Dy^2=-1 の解$
  2. $k$が偶数の時
    1. $整数 m に対して,(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1}) は x^2-Dy^2=1 の解$
が示された.□


\begin{displaymath}
A=\matrix{P_{k-1}}{P_{k}-q_0P_{k-1}}{Q_{k-1}}{Q_{k}-q_0 Q_{k-1}}
\end{displaymath}

とおくと, $\sqrt{D}=A\sqrt{D}$であり,証明のなかで示しているように

\begin{displaymath}
A=\matrix{P_{k-1}}{DQ_{k-1}}{Q_{k-1}}{P_{k-1}}
\end{displaymath}

となる.そして,

\begin{eqnarray*}
A^m&=&\matrix{P_{mk-1}}{P_{mk}-q_0P_{mk-1}}{Q_{mk-1}}{Q_{mk}-...
...{mk-1}}\\
&=&\matrix{P_{mk-1}}{DQ_{mk-1}}{Q_{mk-1}}{P_{mk-1}}
\end{eqnarray*}

である.これからまた

\begin{displaymath}
(P_{k-1}+Q_{k-1}\sqrt{D})^m=P_{mk-1}+Q_{mk-1}\sqrt{D}
\end{displaymath}

となることも(数学的帰納法で)示される.

これでペル方程式の解の構造定理に現れる行列 $\matrix{p}{Dq}{q}{p}$との関連も明確である.

例 6.2.2        $x^2-13y^2= \pm 1$

\begin{eqnarray*}
\sqrt{13} &=& \matrix{3}{1}{1}{0}\left(\dfrac{\sqrt{13}+3}{4...
... &=& \matrix{119}{18}{33}{5}\left(\dfrac{\sqrt{13}+3}{4}\right)
\end{eqnarray*}

従って$k=5$となった.

$(x,\ y)=(P_4,\ Q_4)$$x^2-Dy^2=-1$の解となり $(x,\ y)=(P_9,\ Q_9)$$x^2-Dy^2=1$の解 となるはずである.

$(P_4,\ Q_4)=(18,\ 5)$である.$(P_9,\ Q_9)$を求める, $x_1=\dfrac{\sqrt{13}+3}{4}$が次に 現れるときである.その展開は $x_1=\matrix{3}{1}{1}{0}^{-1} \matrix{119}{18}{33}{5} x_1$ をあらためて $\matrix{P_5}{P_4}{Q_5}{Q_4}x_1$に代入する.

\begin{eqnarray*}
\sqrt{13} &=& \matrix{3}{1}{1}{0}x_1 \\
&=& \matrix{119}{...
...{649}{1189}{180}x_1 = \matrix{P_{10}}{P_9}{Q_{10}}{Q_9 }x_1 \\
\end{eqnarray*}

したがって, $(P_9,\ Q_9)=(649,\ 180)$となる. また,$(P_4,\ Q_4)$に対して,$(P_9,\ Q_9)$はその次に現れる解であるから,

\begin{displaymath}
(P_4+Q_4 \sqrt{D})^2=P_9+Q_9 \sqrt{D}
\end{displaymath}

となる.

\begin{displaymath}
(18+5 \sqrt{13})^2=649+180 \sqrt{13}
\end{displaymath}

である.

こうして $x^2-13y^2= \pm 1$の解が構成された. 実際,

\begin{displaymath}
18^2-13 \times 5^2=-1
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
649^2-13 \times 180^2=1
\end{displaymath}

である.

残された最後の問題は, ペル方程式の正の解がすべて $P_{mk-1},\ Q_{mk-1}$から得られることを示すことである.この証明を一般の場合に示す.

定理 63 (構成定理2)
     $x^2-Dy^2= \pm 1$の解で $x+\sqrt{D} y >1$であるものは,$\sqrt{D}$の展開から得られる $(P_{mk-1},\ Q_{mk-1})$で尽くされる.ここに$k$$\sqrt{D}$の展開の周期である. ■

証明     $x+\sqrt{D} y >1$である任意の解を$(x_1,y_1)$とする. $x_1^2-Dy_1^2= \pm 1$,つまり $
\left\vert
\begin{array}{cc}
x_1&Dy_1\\
y_1&x_1
\end{array}
\right\vert=\pm 1$ である. ここで, $x_1 + \sqrt{D}y_1>1$であるので,ペル方程式の解の構造定理 57 の証明のなかで示したように, $x_1>0,\ y_1>0$である.

\begin{displaymath}
\sqrt{D}=\matrix{q_0}{1}{1}{0}\theta
\end{displaymath}

とおく. $\theta>1,0>\theta'>-1$$\theta'$$\theta$の共役)である. これを

\begin{displaymath}
\matrix{x_1}{Dy_1}{y_1}{x_1}\sqrt{D}
=\dfrac{\sqrt{D}x_1+Dy_1}{\sqrt{D}y_1+x_1}=\sqrt{D}
\end{displaymath}

に代入する.

\begin{displaymath}
\matrix{x_1}{Dy_1}{y_1}{x_1}\matrix{q_0}{1}{1}{0}\theta=
\matrix{q_0}{1}{1}{0}\theta
\end{displaymath}

\begin{eqnarray*}
∴ \quad \theta &=& \matrix{0}{1}{1}{-q_0}\matrix{x_1}{Dy_1...
... &=& \matrix{q_0y_1+x_1}{y_1}{(D-{q_0}^2)y_1}{x_1-q_0y_1}\theta
\end{eqnarray*}

ここで $\matrix{q_0y_1+x_1}{y_1}{(D-{q_0}^2)y_1}{x_1-q_0y_1}=\matrix{p}{q}{r}{s}$とおく.

$
\left\vert
\begin{array}{cc}
x_1&Dy_1\\
y_1&x_1
\end{array}
\right\vert=\pm 1$なので$ps-qr=\pm 1$である. $ps-qr=e$とし,

\begin{displaymath}
\epsilon=r\theta +s,\ \quad \epsilon'=r \theta'+s
\end{displaymath}

とおく.

$r=(D-{q_0}^2)y_1>0$ $s=x_1-q_0y_1>x_1-\sqrt{D}y_1=\dfrac{\pm 1}{x_1+\sqrt{D}y_1} >-1$ となるから,$\theta >1$とあわせて, $\epsilon>1$である.

さらに, $\theta , \theta'$ $t=\matrix{p}{q}{r}{s}t$つまり $r t^2+(s-p) t -q=0$の二根である.

\begin{eqnarray*}
∴ \quad \epsilon \epsilon'&=&r^2 \theta \theta'+(\theta +\...
...-q)}{r}-\dfrac{(s-p)}{r}rs +s^2 \\
&=&-qr-s^2+ps+s^2=e=\pm 1
\end{eqnarray*}

よって$\vert\epsilon'\vert<1$. さらに, $s>r \theta'+s>-r+s$つまり $s>\epsilon'>-r+s$が成り立つ. したがって

  1. $\epsilon \epsilon'=1 \,(e=1) \,$のとき,$1>\epsilon'>0$, よって$r \ge s>0$
  2. $\epsilon \epsilon'=-1 \,(e=-1) \,$のとき, $0>\epsilon'>-1$, よって$r >s \ge 0$

そこで

(1)
$r>s>0$のとき,定理51により $\matrix{p}{q}{r}{s}\theta$$\theta$の連分数展開から得られる.
(2)
$r=s$のとき,つまり$e=1$のとき,$ps-qr=1$より $(p-q)r=1$$r>0$ なので$p-q=1,\,r=1$. よって

\begin{displaymath}
\theta=\dfrac{(q+1) \theta +q}{\theta +1}
=\matrix{q}{1}{1}{0}\matrix{1}{1}{1}{0} \theta
\end{displaymath}

(3)
$s=0$のとき,つまり$e=-1$のとき,$ps-qr=-1,qr=1$より $r>0$なので$q=r=1$. よって $\theta=\dfrac{p \theta +1}{\theta}=\matrix{p}{1}{1}{0} \theta$

いずれの場合も $\matrix{p}{q}{r}{s}\theta$$\theta$自身の連分数展開のなかに現れる. つまり

\begin{displaymath}
\sqrt{D}=\matrix{q_0}{1}{1}{0}\theta=\matrix{q_0}{1}{1}{0}\matrix{p}{q}{r}{s}\theta
\end{displaymath}

$\sqrt{D}$の連分数展開である.

\begin{displaymath}
\matrix{q_0}{1}{1}{0} \matrix{p}{q}{r}{s} \theta
=\matrix{...
...}\theta
=\matrix{x_1 q_0+Dy_1}{x_1}{y_1 q_0 +x_1}{y_1}\theta
\end{displaymath}

が連分数展開であるから,ある$h$

\begin{displaymath}
\matrix{x_1 q_0+Dy_1}{x_1}{y_1 q_0 +x_1}{y_1}=\matrix{P_h}{P_{h-1}}{Q_h}{Q_{h-1}}
\end{displaymath}

とかける.このとき $\sqrt{D}=\matrix{q_0}{1}{1}{0}\theta=\matrix{P_h}{P_{h-1}}{Q_h}{Q_{h-1}}\theta$ となり, $h$は 周期$k$の倍数になる.つまりある整数$m$によって$h=mk$となる.

したがって, $x_1=P_{mk-1},\,\,y_1=Q_{mk-1}$となり,題意が証明された.□

注意 6.2.1        ペル方程式の解の構造定理57を踏まえれば, $x+\sqrt{D} y >1$のなかでの最小解$(p,q)$ $p=P_{k-1},\,q=Q_{k-1}$であることが確定した.

注意 6.2.2        周期$k$が偶数の場合, すべての正整数$m$に対して $(x,\ y)=(P_{mk-1},Q_{mk-1})$$x^2-Dy^2=1$を満たし, この他に解がない. よって$x^2-Dy^2=-1$には整数解がないことも示せた.

注意 6.2.3        これは二次体の数論になるのであるが,ペル方程式は次のような意味をもつ.

有理数体$\mathbb{Q}$に二次無理数$\sqrt{D}$をつけ加え四則演算で得られる数の集合は体をなす.これを $\mathbb{Q}(\sqrt{D})$と書く.このなかで二次の項の係数が1である整数係数の二次方程式の解となっている数を $\mathbb{Q}(\sqrt{D})$の整数といい,その集合を整数環という.

ペルの方程式は,この整数環の単数を求めることに関連している.したがってペル方程式の数論的な性質を解明するためには二次体の数論が必要なのである.しかしそれは『数論初歩』の範囲を越えるので,これを指摘するにとどめる.


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