次: 素数定理
上: 素数分布
前: 素数が無数にあることの別証明
その上でを越えない素数の個数を表す関数はどのような性質をもっているのかを考えよう.
このような場合,まず実験して,の一定の範囲にある素数の個数を求めていくことが大切だ.自分でプログラムを組んで,書き出していくのがいちばんよい.エラチステネスのふるいの方法はプログラムを書く練習のいちばん初歩の問題だ.
そのうえでアメリカテネシー大学が展開しているThe Prime Pagesに載っている表を参考にする.
そのなかのHow Many Primes Are Thereには,段階を区切って素数の個数が表になっている.
このページを見るときは,ブラウザソフトの表示文字種「エンコード」を「Unicode(UTF-7)」にするときれいになる.ここでは多くの結果が証明なしに紹介されている.
100までだと規則性があるようには見えない.1000になると少し上に凸な曲線に見え,
1000000となるとやや上に凸なきれいな曲線である.この曲線は対数のグラフに似ているではないか.このようなことをふまえて多くの人がの性質を研究した.
で
のときの表に次の値を書き加える.
の値がおよそ
になる.
ということは
なので,
の値がほぼ
になるということである.
このようなことを昔の人はいろいろ調べた.計算機のない時代には手計算で調べた.は約なのでこの計算では
はほぼということになる.もっとを大きくとるとどのような値に収束するか,これをいろいろと推測したのだ.その結果1801年にルジャンドルは
であろうと予想した.ただしここでで定義された2つの関数とが
であるとは,
となることとする.さらにこれとは独立にガウスは
を予想した.このあたりは先のページにも載っている.
この分野で実質的に最初の前進をしたのがロシアのチェビシェフである.
かれは1850年に次のことを示した.先のページには次のように書かれている.
Tchebycheff made the first real progress toward a proof of the prime number theorem in 1850,
showing there exist positive constants such that
and that if
had a limit, then its value must be one.
ここで述べられているチェビシェフの定理の前半は,初等的に示すことができる.
定理 65
正の定数
で,
に対して
となるものが存在する.■
これを示すためにひとつ補題を証明する.
補題 13
自然数
の素因数分解に含まれる素数
の個数は,
である.
■
証明
はとなる最大のの値である.
1からまでの自然数のなかでちょうどで割り切れるものの個数は
である.
に対しては
となり
である.したがって求める個数は
である.□
定理65の証明
となる正の定数の存在を示す.
を正整数として,整数
の大きさを2通りの方法で評価する.
である素数に対して
の素因数分解に含まれる素数 の個数は,
補題13より
である.をで割った余りをとするとき
である.したがって
これから
一方,
であるから
つまり
となる.ところが
なので,上の結果より
対数をとって
つまり
次にに対して
であるから
つまり
したがって整数に対して
が成り立つ.ここでなので
したがって
とおけばよい.
次に,
となるの存在を示す.
の範囲の素数は
の分母を割らない.よって
は
で割り切れる.つまり
これから
ところが
より
に対して
なので
定理65は定理64の(2)の別証明になっている.
実際,
なのでのとき,はさみうちの原理によって
である.
チェビシェフはさらにこのを調べ,
まで示した.またもし
が収束するならば,
それは1であることも示した.
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