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同型定理と演算

自然数の和・積

この自然数の集合には,和と積という演算が定義される.

定理 68 (自然数の和・積)
$x,\ y\in N$ に対して, $x+y$ を次のように帰納的に定める.
  1. $y=1$ なら $x+y=x+1$とする.
  2. $y>1$のとき.$x+(y-1)$まで定まったとすると

    \begin{displaymath}
x+y=(x+(y-1))+1
\end{displaymath}

    とする.
このとき $x+y$ がただ一通りに決まり次の性質を持つ.
(i)
結合法則: $(x+y)+z=x+(y+z)$
(ii)
交換法則:$x+y=y+x$
(iii)
$x<y$なら$x+z<y+z$
$x\cdot y$ を次のように帰納的に定める.
  1. $y=1$ なら $x\cdot y=x$
  2. $y>1$のとき.$x\cdot (y-1)$まで定まったとすると

    \begin{displaymath}
x\cdot y=(x\cdot (y-1))+x
\end{displaymath}

    とする.
このとき $x\cdot y$ がただ一通りに決まり次の性質を持つ.
(i)
結合法則: $(x\cdot y)\cdot z=x\cdot (y\cdot z)$
(ii)
交換法則: $x\cdot y=y\cdot x$
(iii)
$x<y$なら $x\cdot z<y\cdot z$
(iv)
分配法則: $x\cdot(y+z)=x\cdot y+x\cdot z$
(v)
$a<b$である任意の自然数に対し, $b<na$ となる自然数$n$が存在する.■

証明      これらの証明は,難しくはないが煩雑ではある. 例えば和の結合法則: $(x+y)+z=x+(y+z)$を証明してみよう.

数学的帰納法にもとづく和の定義より

\begin{displaymath}
x+y-1=x+(y-1)
\end{displaymath}

である.そこで $(x+y)+z=x+(y+z)$$z$に関する数学的帰納法で示す.

$z=1$のとき. $(x+y)+1=x+(y+1)$$x$$y+1$の和の定義より成立する.

$z-1$で成立するとする.

\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
(x+y)+z&=\{(x+y)+z-1\}+1&:\ 和の...
... 和の定義 \\
&=x+(y+z)&:\ 和の定義
\end{array}
\end{displaymath}

$z$でも成立し,すべての$z$で成立する.

以下順次自然数と自然数の和・積が厳密に定義される.

また

\begin{displaymath}
a+x=b+x\quad \Rightarrow \quad a=b,\
a\cdot x=b\cdot x\quad \Rightarrow \quad a=b
\end{displaymath}

なども成立する. これらの証明は省略する.

大小と差

$x,\ y\in \mathbb{N}$にに対して,

\begin{displaymath}
x=y+z\quad z\in \mathbb{N}
\end{displaymath}

のとき,$x>y$と定める.

$x>1$のとき,

\begin{displaymath}
y+1=x
\end{displaymath}

となる$y$がある.この$y$$x-1$と記し,$x$の直前の要素という. 以下帰納的に $x-j\ (j=1,\ 2,\ \cdots,\ x-1)$が定まる.これらを差という.

一意性

自然数の公理を満たすものがいくつもあっては困る. しかし実は一つしかないことが示される.

定理 69
自然数の集合$\mathbb{N}$ はすべて同型である. つまり二つの自然数の集合 $\mathbb{N}$$\mathbb{N}'$ があるとする. $\mathbb{N}$$\mathbb{N}'$ のあいだの一対一対応 $f(x)$
  1. $f(1)=1$
  2. $f(x+1)=f(x)+1$
となるものがある.■

証明      $\mathbb{N}_n=\{1,\ 2,\ \cdots ,\ n\}$$\mathbb{N}'$ への写像$f_n(x)$$n$についての数学的帰納法で定める.

(i)
$n=1$ のとき $f_1(1)=1$ とする.
(ii)
$f_k(x)$ が定まったとき

\begin{displaymath}
f_{k+1}(x)=f_k(x) \ ( x=1,\ 2,\ \cdots ,\ k),\ f_{k+1}(k+1)=f_k(k)+1
\end{displaymath}

とする.

この $f_n(x)\ (n=1,\ 2,\ 3,\cdots)$ を用いて

\begin{displaymath}
f(x)=f_x(x)\ \ x \in \mathbb{N}
\end{displaymath}

と定める.作り方から $f(\mathbb{N})$$\mathbb{N}'$ における $1$ を含む昇列である.

\begin{displaymath}
∴ \quad f(\mathbb{N})=\mathbb{N}'
\end{displaymath}

このとき

\begin{displaymath}
f(x+1)=f_{x+1}(x+1)=f_x(x)+1=f(x)+1
\end{displaymath}

は成立する.

$i,\ j>1$$f(i)=f(j)$となるとする.

\begin{displaymath}
f(i-1)+1=f(j-1)+1
\end{displaymath}

より$f(i-1)=f(j-1)$.ここに$i-1,\ j-1$$i$$j$の直前の要素である. もし$i>j$ならこれを繰りかえして $f(i-j+1)=f(1)=1$$f$の作り方から$i-j+1=1$.よって$i=j$となり,これが一対一写像であることもわかる. □

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