next up previous 次: 解答 上: 存在と構成 前: 同型定理と演算

整数と有理数の構成

ではこのような整数は,自然数をもとに構成することが出来るのか.それを論じよう.整数と有理数を自然数を用いて構成することが可能であることは重要なことなのであるが,構成された整数の性質の研究にとっては前提であっても論証上必要ということではない.従って本節はとりあえず置いて先に進んでもよい.

自然数の集合$\mathbb{N}$を基礎に,整数の集合$\mathbb{Z}$と有理数の集合$\mathbb{Q}$を構成することができる.その道筋を考えよう.そのために,今後も必要になる集合の同値関係による類別を明確にしておく.これは後に整数の類別においても基礎的な概念となるものである.


整数の構成

自然数$\mathbb{N}$に対し,直積集合 $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$

\begin{displaymath}
\mathbb{N}\times\mathbb{N}=\{(a,\ b)\ \vert\ a,\ b \in \mathbb{N}\}
\end{displaymath}

とする.ここに関係〜を

\begin{displaymath}
(a,\ b)〜(c,\ d)\quad \iff\quad a+d=b+c
\end{displaymath}

で定める.これは $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$の同値関係である.実際(i),(ii)は明らかである. $(a,\ b)〜(c,\ d)$ $(c,\ d)〜(e,\ f)$とする.それぞれの関係より

\begin{displaymath}
a+d=b+c,\ c+f=d+e
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
a+d+c+f=b+c+d+e\quad よってa+f=b+e
\end{displaymath}

つまり $(a,\ b)〜(e,\ f)$となり(iii)も成立する.

この同値関係による商集合 $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$に和「+」と積「$\cdot$」という二つの演算を定義する. $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$の二つの要素 $\overline{\mathstrut (a,\ b)},\ \overline{\mathstrut (c,\ d)}$をとる.

\begin{eqnarray*}
\overline{\mathstrut (a,\ b)}+\overline{\mathstrut (c,\ d)}&=...
...ine{\mathstrut (c,\ d)}&=&\overline{\mathstrut (ac+bd,\ ad+bc)}
\end{eqnarray*}

$\overline{\mathstrut (a,\ b)}$をとったがこの類が $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$の他の要素$(a_1,\ b_1)$を用いて表されていたとする.このとき $(a,\ b)〜(a_1,\ b_1)$であるが,こちらを用いて, $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$の和を作ると $\overline{\mathstrut (a_1+c,\ b_1+d)}$となる.このとき,$(a+c,\ b+d)$ $(a_1+c,\ b_1+d)$は同値である.実際$a+b_1=b+a_1$であるので $a+c+b_1+d=b+d+a_1+c$が成り立つ.従って和は同じ類に属するいずれの要素を用いても同じ類を定める.このことを和は適切に定義されるという.積についても同様に確かめられる.さらに, $\overline{\mathstrut (a,\ a)}$が和の単位元, $\overline{\mathstrut (a+1,\ a)}$が積の単位元, $\overline{\mathstrut (a,\ x+a)}$ $\overline{\mathstrut (a+x,\ a)}$和に関する逆元であることが確認でき,これによって $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$が環をなすことが確認できる.

この環を整数の集合(整数環)$\mathbb{Z}$いう.

$\mathbb{N}$から $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$への写像を自然数$a$を用いて

\begin{displaymath}
\mathbb{N}\to \mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜:x\mapsto \overline{\mathstrut (x+a,\ a)}
\end{displaymath}

で定める. これは$a$によらず定義され,単射でありこれによって自然数は $\mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$に埋め込まれる. これを同一視し, $x=\overline{\mathstrut (x+a,\ a)}$のように書く. 自然数$x,\ a$で定まる $\mathbb{N}\to \mathbb{N}\times\mathbb{N}/〜$の要素 $\overline{\mathstrut (a,\ x+a)}$$-x$ $\overline{\mathstrut (a,\ a)}$$0$と書くことにする.いいかえると


自然数だけを用いて整数を構成しようとした.そのために自然数の組に $(5,\ 2)〜(6,\ 3)$のような 同値関係を入れ,同値なものを同一視したのである.$(2,\ 5)$が整数の$-3$に,$(2,\ 2)$が整数の$0$になるわけである.

有理数の構成

このように構成された整数環$\mathbb{Z}$を用いて有理数体$\mathbb{Q}$を構成しよう.

$\mathbb{Z}$を整数の集合とする.次のような整数の組の集合を考える.

\begin{displaymath}
\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}=\{\ (a,\ b)\ \vert\ a,b \in \mathbb{Z},\ b \ne 0\}
\end{displaymath}

この集合の二つの要素$(p,q)$$(a,\ b)$に対し,同値関係を,

\begin{displaymath}
(p,\ q)〜(a,\ b)\quad \iff\quad p\cdot b=q\cdot a
\end{displaymath}

で定める. このとき

\begin{displaymath}
(p,\ q)〜(a,\ b)\ かつ\ (a,\ b)〜(s,\ t)\quad \Rightarrow\quad
(p,\ q)〜(s,\ t)
\end{displaymath}

が成り立つ.実際

\begin{displaymath}
p\cdot b=q\cdot a\ かつ\ a\cdot t=b\cdot s\quad \Rightarrow\quad
p\cdot t\cdot a\cdot b=q\cdot s\cdot a\cdot b
\end{displaymath}

$a\cdot b\ne 0$なので $p\cdot t=q\cdot a$である. また,$a\ne 0$に対して

\begin{displaymath}
(a\cdot p,\ a\cdot q)=(p,\ q)
\end{displaymath}

も成り立つ. 従って「〜」は同値関係である.

集合 $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$のこの関係での商集合 $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/〜$ に和「+」と積「$\cdot$」を定める.

\begin{eqnarray*}
\overline{\mathstrut (a,\ b)}+\overline{\mathstrut (c,\ d)}&=...
...thstrut (c,\ d)}&=&\overline{\mathstrut (a\cdot c,\ b\cdot d)}
\end{eqnarray*}

これは適切に定義される.例えば和についていえば

\begin{eqnarray*}
&&(a,\ b)〜(a',\ b')かつ(c,\ d)〜(c',\ d')\\
\Rightarro...
...d+b\cdot c,\ b\cdot d)
〜(a'\cdot d'+b'\cdot c',\ b'\cdot d')
\end{eqnarray*}

を示さなければならない,ところが

\begin{displaymath}
(a\cdot d+b\cdot c)\cdot b'\cdot d'-(a'\cdot d'+b'\cdot c')b\cdot d
=(a\cdot b'-a'\cdot b)\cdot d\cdot d'=0
\end{displaymath}

なので成立する.積についても確認される. 加法と乗法の単位元は

\begin{eqnarray*}
(a,\ b)+(0,\ 1)&=&(a+0\cdot b,\ b)=(a,\ b)\\
(a,\ b)\cdot(1,\ 1)&=&(a,\ b)
\end{eqnarray*}

から, $\overline{\mathstrut (0,\ 1)}$ $\overline{\mathstrut (1,\ 1)}$である. 加法と乗法の逆元は

\begin{eqnarray*}
(a,\ b)+(-a,\ b)&=&(ab-ab,\ b^2)=0\\
(a,\ b)\cdot(b,\ a)&=&(ab,\ ab)=(1,\ 1)=1
\end{eqnarray*}

などから

\begin{displaymath}
-\overline{\mathstrut (a,\ b)}=\overline{\mathstrut (-a,\ b...
...erline{\mathstrut (a,\ b)}^{-1}=\overline{\mathstrut (b,\ a)}
\end{displaymath}

である.分配法則も同様に示される. これらの演算で $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/〜$が体であることが確認される.

この体をを有理数体$\mathbb{Q}$という.

さらに

\begin{displaymath}
\mathbb{Z}\to \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/〜:x\mapsto \overline{\mathstrut (x,\ 1)}
\end{displaymath}

によって整数$\mathbb{Z}$$\mathbb{Q}$に埋め込まれる. そして $\overline{\mathstrut (a,\ b)}$のことを$\dfrac{a}{b}$と記すのである.

以下,有理数体の積で文字の場合,積の記号$\cdot$は約すか または紛らわしくなるときは$\cdot$で書こう.

こうして自然数の集合$\mathbb{N}$,整数環$\mathbb{Z}$,有理数体$\mathbb{Q}$が順次構成されるのである.


next up previous 次: 解答 上: 存在と構成 前: 同型定理と演算
Aozora Gakuen