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そこで聞きたいのだが,とは何か.

史織  「数」ですか.

南海  「数」と名のつくものはどんなものがあるか.

史織  まず,自然数,それから負の数,自然数と0と負の数をあわせて整数.

有理数,無理数,それから有理数と無理数をあわせて実数.

南海  これはいずれも集合である.それら「数」の集合の特徴は.

史織  足し算,かけ算ができる.引き算は,自然数だと $2-5$ はもう自然数ではない. 自然数の集合には属さない. 逆にこれらの引き算でできる数まであわせた集合が整数といえる.

割り算,整数を整数で割ると整数の集合には属さないものが出る.それらをあわせた集合が有理数.

南海  先にあげてくれたような具体的な数の集合の特徴として,四則演算が定義されるということがある. その演算の結果が再びもとの集合に属したりしなかったりする.

有理数と実数は四則演算の結果が再び有理数か実数である.ある集合である演算ができ, さらにその演算の結果がその集合に属するとき,その集合はその演算に関して「閉じている」 という.

そこで,四則演算で閉じている集合 $K$ を考え,これをと呼ぼう. 実際には次のように体であるための条件が整理される.

以下集合 $K$ を考え, $a$$b$$K$ の任意の要素を表す. 集合 $K$ が次の条件を満たすとき,「体」という.

  1. 2つの演算,加法$+$と乗法$\times$が定義されている. つまり,$K$ の要素 $a+b,\ a\times b$がそれぞれ確定する.
  2. 2つの演算は結合法則を満たす.

    \begin{displaymath}
(a+b)+c=a+(b+c)\ ,\ \ (a\times b)\times c=a\times(b\times c)
\end{displaymath}

  3. 加法は可換である.$a+b=b+a$が成り立つ.
  4. $a+e=a$ $a\times f=f\times a=a$ となる要素 $e$$f$ が存在する. $e$ を加法の単位元といい,通常0と書く.$f$ を乗法の単位元といい,通常1と書く.
  5. $a+x=0$となる$x$ が存在する. これを $a$ の加法の逆元といい,$-a$ と書く.
  6. 0でない要素$a$に対して$a\times x=1$となる$x$ が存在する. これを $a$ の乗法の逆元といい,$a^{-1}$ と書く.
  7. 加法と乗法について分配法則が成り立つ.

    \begin{displaymath}
a\times(b+c)=a\times b+a\times c\ ,\ \ (b+c)\times a=b \times a+c \times a
\end{displaymath}

乗法についても可換 $a\times b=b \times a$ が成り立つものを「可換体」と呼ぶ. 実際には可換体しか考えないのだが,行列の積のように「積」には可換でないものも 高校数学で出てくるので,体の定義も一般的にしておいた.

史織  えーっと,体とは,要するに加法と乗法があって,加法も乗法も逆元がなければならないのだから 自然数や整数はだめで,体になっているのは上にいわれた有理数の集合.それから実数の集合…, でもこれだけしか思い浮かびません.他にないのですか.

南海  いっぱいある.その例を練習問題にしよう. その前に今後よく使うので有理数の集合を $Q$ ,実数の集合を $R$ と書くことにする.

史織  四則について閉じているといいますが, 体の定義には引き算や割り算の定義はありません.それはどうなるのですか.

南海  可換体でないと複雜になるので,体は可換体,つまり乗法が交換可能であるとする. このとき

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
a-b=a+(-b)\\
a\div b=a\times b^{-1}
\end{array}\end{displaymath}

で,減法,除法を定める.

逆元との和や積なので,減法,除法の結果も $K$ に属する.

史織  そうか,わかりました.加法と乗法での逆元の存在が,四則演算で閉じていることを 示しているのですね.

南海  さて,有理数を含み,実数に含まれる体の例として

\begin{displaymath}
A=\{a+b\sqrt{2}\ \vert\ a,\ b \in Q \ \}
\end{displaymath}

がある.その確認などを練習問題とする.

史織  $\dfrac{2}{3}+\dfrac{4\sqrt{2}}{7}$ のような形をした数の集合ですね.

演習 1       解答1

次の集合が体であることを示せ.ただし,実数が体であることは用いてよい.


  1. \begin{displaymath}
A=\{a+b\sqrt{2}\ \vert\ a,\ b \in Q \ \}
\end{displaymath}


  2. \begin{displaymath}
B=\{a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6}\ \vert\ a,\ b,\ c,\ d \in Q \ \}
\end{displaymath}

南海  体の例としてはその他に $x$ を変数とする有理式全体の集合がある.これを普通は $R(x)$ と書く.

\begin{displaymath}
R(x)=\left\{\dfrac{f(x)}{g(x)}\biggl\vert f(x),\ g(x) は x の多項式 \right\}
\end{displaymath}



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