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複素数の構成(その他)

南海  複素数の集合 $C$ のモデルの構成法は一つではない.

$R$ を今までどおり実数体とする. 実数係数の文字 $x$ の多項式の全体を

\begin{displaymath}
R[x]=\{\ f(x)\ \vert\ f(x) は実数係数の多項式\}
\end{displaymath}

とする.

明らかに$R[x]$は体の定義のうち,「乗法の逆元の存在」以外のすべてを満たす.

「乗法の逆元の存在」以外のすべてを満たすものをという. $R[x]$を「実数体上の多項式環」という.

そこで多項式 $f(x)$ を多項式 $x^2+1$ で割った余りを $r(f(x))$ と書くことにし, 集合 $A$$x^2+1$ で割った余りの集合

\begin{displaymath}
A=\{\ r\left(f(x)\right)\ \vert\ f(x) \in R[x]\ \}
\end{displaymath}

とする.


\begin{displaymath}
r(x^2+3x-1),\ r(ax+b),\ r(x^2)
\end{displaymath}

はいくらになるかな.

史織 

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
x^2+3x-1=(x^2+1)+3x-2&∴ \quad r(x^2+3x-1)...
...ad r(ax+b)=ax+b\\
x^2=(x^2+1)-1&∴ \quad r(x^2)=-1
\end{array}\end{displaymath}

南海  割り算の余りなので

\begin{displaymath}
r(f(x)+g(x))=r(f(x))+r(g(x)),\ r(f(x)g(x))=r\{r(f(x))r(g(x))\}
\end{displaymath}

が成り立つ.

だから集合 $A$の四則演算を,多項式の四則演算そのもので定めれば, 体の条件のうち除法の逆元の存在を除いてその他が成立することは ほとんど自明である.

そこで気になる人は実際に確かめてもらうことにして,逆元の存在証明に進もう.

例 1.4.1   任意の一次式 $a+bx$ に対して

\begin{displaymath}
r((a+bx)g(x))=1
\end{displaymath}

となる一次式 $g(x)$ が存在することを示せ.

史織  求める $g(x)$$g(x)=c+dx$ と置きます.まず$r((a+bx)g(x))$を求めます.

\begin{displaymath}
(a+bx)(c+dx)=ac+(ad+bc)x+bdx^2=ac-bd+(ad+bc)x+bd(x^2+1)
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴ \quad r((a+bx)(c+dx))=ac-bd+(ad+bc)x
\end{displaymath}

なんだかこれって,複素数の積

\begin{displaymath}
(a+bi)\times(c+di)=(ac-bd)+(ad+bc)i
\end{displaymath}

と似ているな.

で,

\begin{displaymath}
r((a+bx)(c+dx))=(ac-bd)+(ad+bc)x=1
\end{displaymath}

より,

\begin{displaymath}
ad+bc=0,\ ac-bd=1
\end{displaymath}

これから $c$$d$$a$$b$ で表すと

\begin{displaymath}
c=\dfrac{a}{a^2+b^2},\ d=\dfrac{-b}{a^2+b^2}
\end{displaymath}

つまり $g(x)=\dfrac{a}{a^2+b^2}+\dfrac{-b}{a^2+b^2}x$

南海  かくして $A$ には乗法に関する逆元が存在した. $A$ も体である.

実数 $a$ に対して $r(af(x))=ar(f(x))$ である.だから $x^2+1$ で割った余りとしての $x$ や1を $r(x)$$r(1)$ と書くと

\begin{displaymath}
r(a+bx)=ar(1)+br(x)
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
A=\{ar(1)+br(x)\ \vert\ a,\ b \in R \ \}
\end{displaymath}

となる.そしてこれが体である.

史織 

\begin{displaymath}
r(x)^2=r(x^2)=-1
\end{displaymath}

だから, $A$$C$ と同じ型なのですね.

南海  さよう.正確にいうと,$A$ から $C$ への写像

\begin{displaymath}
g\ :\ A\ \to \ C
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
g(ar(1)+br(x))=a+bi
\end{displaymath}

でさだめると,これが一対一写像でしかも演算の結果も対応する. つまり同型を定める写像である. $A$ も複素数体と同型でそのモデルであるといえる.

先に作った $V$ と今回の $A$ ももちろん体として同型である.つまり

$V$ から $A$ への写像

\begin{displaymath}
h\ :\ V\ \to \ A
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
h((a,\ b))=ar(1)+br(x)
\end{displaymath}

で定めればよい. この対応で, $V$の要素と $A$ の要素は1対1に対応し,演算の結果も対応しているから, 同じ型である.

結局教科書の複素数の定義と同型である2つのモデルが構成できたわけだ. このモデルは2つとも,確かに存在している.

複素数体 $C$ は,このようなモデルから平面の点であるとか多項式の余りであるとかの 他の要素を捨象し,体としての構造を抽出したものといえるのだ.

「みかん1個」と,「スプーン1本」などから数「1」が抽出されたように, $i$$(0,\ 1)$$r(x)$ から抽出されたものを表す記号である.

それは勝手に作ったものではない.つまり$i$ は 「平方すると $-1$ になる新しい数を一つ考え」たのではなく, 抽出されたものとして確かに存在しているのだ.

史織  「みかん1個やスプーン1本の〈1個〉や〈1本〉は存在するが〈1〉は存在しない」などとは 思いません.確かに 1 はあるものとして計算しています. それと同じように $i$ も存在するのですね.

南海  その通りだ.

さてもう一つ行列を用いる構成方法がある.それは演習にする.

演習 4       解答4

2次行列の部分集合 $M$ を次のように定める.

\begin{displaymath}
M= \left\{\matrix{a}{-b}{b}{a} \biggl\vert\ a,\ b \in R \right\}
\end{displaymath}

$M$ において加法,乗法は2次行列の加法,乗法をそのまま用いるとする.

このとき次の問に答えよ.

  1. $M$ が可換体であることを示せ.
  2. $M$$C$ が同型であることを示せ.

これに関係する入試問題を一つ .

演習 5       [00東京理科大]    解答5

行列 $\matrix{1}{0}{0}{1}$$E$ で表し,行列 $\matrix{0}{-1}{1}{0}$$J$ で表す. 複素数 $a+bi\ (a,\ b\ は実数)$ に行列 $aE+bJ$ を対応させる.例えば,複素数 $1+i$ には行列 $\matrix{1}{-1}{1}{1}$ が対応する.

  1. 次の複素数に対応する行列を $\matrix{s}{t}{u}{v}$ の形に表せ.

    \begin{displaymath}
(ア)\ \sqrt{3}+i \quad \quad (イ)\ (1+i)(\sqrt{3}+i)
\quad \quad (ウ)\ (\sqrt{3}+i)^{-1}
\end{displaymath}

  2. 複素数 $\alpha$ に対応する行列が $A$ であり, 複素数 $\beta$ に対応する行列が $B$ ならば, 複素数 $\alpha,\ \beta$ の積 $\alpha\beta$ に対応する行列は 行列 $A,\ B$ の積 $AB$ であることを証明せよ.
  3. 次の複素数を極形式 $(r(\cos \theta+i\sin \theta)\ (r>0)の形)$ で表せ.

    \begin{displaymath}
(ア)\ 1+i \quad \quad (イ)\ \sqrt{3}+i \quad \quad
\quad \quad (ウ)\ \dfrac{1+i}{\sqrt{3}+i}
\end{displaymath}

  4. $\dfrac{1+i}{\sqrt{3}+i}$に対応する行列を $D$ とするとき, $D^{18}$ を 求めよ.


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