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2次方程式の不変式

南海  さて, 今は定理6を満たす不変な整式をすべて求めることが目的だ.

耕介  定理6の条件(i)を満たすもののなかで, $D$の作用で0になるのもを考えればいいのですね. つまり$a$$c$の次数が等しいもののなかで考えればよい.

南海  $D$がどのような作用であるかを見るために 次数が$e$の単項式

\begin{displaymath}
f=a^kb^lc^m\quad (e=k+l+m,\ 0\le k,\ l,\ m)
\end{displaymath}

$D$を作用させてみてほしい.

耕介 

\begin{eqnarray*}
Df&=&a\dfrac{\partial}{\partial b}a^kb^lc^m
+2b\dfrac{\partial...
...rtial c}a^kb^lc^m\\
&=&la^{k+1}b^{l-1}lc^m
+2ma^kb^{l+1}c^{m-1}
\end{eqnarray*}

となります.

南海  いずれの項も$a$の指数と$c$の指数との差が1増え, それに応じて, $\left(
\begin{array}{ccc}
\alpha^2&0&0\\
0&1&0\\
0&0&\alpha^{-2}
\end{array}\right)$の作用によって$\alpha$の指数は2増加する. そこで,$K[a,\ b,\ c]$の整式で,それを構成する各単項式が 指数が$e$で,$a$の指数と$c$の指数との差の2倍を$w$とし, $S_{e,\ w}$とおこう. これらはこの条件を満たす単項式を基底とする$K$上のベクトル空間だ.

$S_{4,\ 0}$$S_{4,\ 2}$に属する単項式をあげてみてほしい

耕介 

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
S_{4,\ 0}:&b^4,\ ab^2c,\ a^2c^2\\
S_{4,\ 2}:&a^2bc,\ ab^3
\end{array}\end{displaymath}

です. $S_{4,\ 0}$の3つの単項式に$D$を作用させると次のようになります.

\begin{eqnarray*}
D(b^4)&=&4ab^3\\
D(ab^2c)&=&2a^2bc+2ab^3\\
D(a^2c^2)&=&4a^2bc
\end{eqnarray*}

$K$上のベクトル空間としては $S_{4,\ 0}$は3次元,$S_{4,\ 2}$は2次元です.

$D$$\Delta$はこのようなベクトル空間の線型写像になっているのですね.

南海  そうだ.しかも上の基底の変換からわかるように, $D$$S_{4,\ 0}$から$S_{4,\ 2}$の上への線型写像だ.

すると,$S_{4,\ 0}$の部分空間で$D$の作用によって0になるものの 作る空間の次元はいくらか.

耕介  3次元から2次元に射影するのだから, それで0になる部分空間は1次元です.

ということは$a,\ b,\ c$の整式で,今考えている変換で不変で, 4次であるものは,基底が1個,つまりひとつの整式で表される.

ということはその基底は$(b^2-ac)^2$の定数倍のみ.

同様にして, 2次方程式の不変式は判別式とそのべきしかないことが示せそうです.

南海  問題を整理しよう.

$K[a,\ b,\ c]$の要素が不変式であるということは, 定理6の2つの条件を満たすということである. 条件(i)を満たすことはある$e$に関する$S_{e,\ 0}$ の要素であるということだ.

次に微分作用素$D$$S_{e,\ 0}$から$S_{e,\ 2}$での線型写像である.

\begin{displaymath}
D:S_{e,\ 0}\to S_{e,\ 2}
\end{displaymath}

$D$で0になる$S_{e,\ 0}$の要素が不変式である. そしてそれらの集合は$S_{e,\ 0}$の部分空間をなす. 線型写像で0になる要素からなる部分空間をという. 不変式を調べることは, この写像$D$の核の基底を調べることである.

そこで, $S_{e,\ 0}$$S_{e,\ 2}$の次元を調べ, さらに$D$上への写像であることとを確認して, $D$の次元を確定させよう.

耕介  $S_{e,\ 0}$の次元は, $e=k+l+k$となる0以上の整数の組$(k,\ l)$の個数です. また,$S_{e,\ 2}$の次元は, $e=(k+1)+l+k$となる0以上の整数の組$(k,\ l)$の個数です.

\begin{displaymath}
\begin{array}{llr}
S_{e,\ 0}の基底の個数& \\
e=2mのとき...
... 0),\ \cdots,\ (0,\ 2m-2)
&m=\dfrac{e+1}{2}\ (個)
\end{array}\end{displaymath}

です.

次に,$D$を調べます.

$e=2m$のとき. $S_{e,\ 0}$の要素$f$

\begin{displaymath}
f=\sum_{j=0}^{m}p_ja^{m-j}b^{2j}c^{m-j}
\end{displaymath}

とおく.このとき

\begin{eqnarray*}
Df&=&2p_0ma^mbc^{m-1}\\
&&+\sum_{j=1}^{m-1}p_j
\left\{2ja^{m-...
...}2\left\{(m-j)p_j+(j+1)p_{j+1} \right\}
a^{m-j}b^{2j+1}c^{m-j-1}
\end{eqnarray*}

したがって,任意の$S_{e,\ 2}$の要素に対し, その要素になるように $p_j\ (0 \le j \le m)$を定めることができる.

$e=2m-1$のとき. $S_{e,\ 0}$の要素$f$

\begin{displaymath}
f=\sum_{j=1}^{m}p_ja^{m-j}b^{2j-1}c^{m-j}
\end{displaymath}

とおく.このとき

\begin{eqnarray*}
Df&=&\sum_{j=1}^{m-1}p_j
\left\{(2j-1)a^{m-j+1}b^{2j-2}c^{m-j}...
...}\left\{(2(m-j)p_j+(2j+1)p_{j+1} \right\}
a^{m-j}b^{2j}c^{m-j-1}
\end{eqnarray*}

この場合も任意の$S_{e,\ 2}$の要素に対し, その要素になるように $p_j\ (1 \le j \le m)$を定めることができる.

したがって, いずれの場合も$D$$S_{e,\ 0}$から$S_{e,\ 2}$上への準同型写像となる. その核の次元は$S_{e,\ 2}$の次元から$S_{e,\ 0}$の次元を引いた差なので,

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{ll}
1&(e\ :偶数)\\
0&(e\ :奇数)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

である. これでわかりました. 2次方程式の不変式は, 偶数次数のものはひとつの不変式の定数倍, 奇数次数のものは存在しない,となりました.

$S_{2m,\ 0}$次の場合の基底は

\begin{displaymath}
(b^2-ac)^m
\end{displaymath}

がとれます.つまり本質的に2次方程式の不変式は判別式しかない.

南海  とりあえずひとつの結論を得ることができた.



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