next up previous
次: ユニタリー群の場合 上: 存在と構成 前: ヒルベルトの基底定理

有限群の場合

南海 

この基底定理を根拠にすると,$G$が有限群の場合, ヒルベルトの問題が肯定的に示される. 多項式環$K[{\bf x}]$の元$f$に対し

\begin{displaymath}
E(f)=\dfrac{1}{\vert G\vert}\sum_{\sigma \in G}f^{\sigma}(\mathrm{\bf x})
\end{displaymath}

とおく.ただし,$\vert G\vert$$G$の要素の個数を表す.

耕介  これって$G$が作用していった多項式の平均ではありませんか.

南海  そうだ.

補題 1
  1. $E(f)$$G$不変である.
  2. $f$$G$不変なら$E(f)=f$
  3. $f,\ g\in K[{\bf x}]$に対し $E(f+g)=E(f)+E(g)$
  4. $f$$G$不変なら $g\in K[{\bf x}]$に対し$E(fg)=fE(g)$

証明
  1. $G$の要素を

    \begin{displaymath}
\sigma_1,\
\sigma_2,\ \cdots
\sigma_t
\end{displaymath}

    とし,$\tau$$G$の任意の要素とすると,$G$が群なので

    \begin{displaymath}
\{\tau\sigma_1,\
\tau\sigma_2,\ \cdots
\tau\sigma_t
\}=
\{\sigma_1,\
\sigma_2,\ \cdots
\sigma_t
\}=G
\end{displaymath}

    である.だから

    \begin{displaymath}
E(f)^{\tau}=
\dfrac{1}{\vert G\vert}\sum_{\sigma \in G}f^{...
...t G\vert}\sum_{\sigma \in G}f^{\sigma}(\mathrm{\bf x})
=E(f)
\end{displaymath}

    $f$が何であっても$E(f)$$G$不変である.
  2. 明らかである.
  3. 明らかである.
  4. \begin{eqnarray*}
E(fg)
&=&\dfrac{1}{\vert G\vert}
\sum_{\sigma \in G}(fg)^{\...
... G\vert}
\sum_{\sigma \in G}g^{\sigma}(\mathrm{\bf x})
=fE(g)
\end{eqnarray*}

さらに一点注意として, $f\in K[{\bf x}]$への$GL(n)$の作用は次数を変えないので, $f$$G$不変式なら,$f$

\begin{displaymath}
f=f_0+f_1+\cdots+f_d\quad (f_j は f の次数 j の部分)
\end{displaymath}

と分割すると,各$f_j$$G$不変式である. $f_j$を斉次不変式という.

定理 8
$G$$GL(n)$の有限部分群とし,$G$不変式の集合を$H$とする. 有限個の$G$不変式 $s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N$ が存在し, $H$の各要素$f$を適当な$K$多項式$F$を用いて,

\begin{displaymath}
f=F(s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N)
\end{displaymath}

と表すことができる.

証明

次数が正の斉次不変式が生成する$K[{\bf x}]$のイデアルを$I$とする. ヒルベルトの基底定理により, $I$は有限個の次数正の$G$不変斉次式 $s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N$で生成される. $K$係数の $s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N$の多項式の集合を $R$とする.

\begin{displaymath}
R=K[s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N]=H
\end{displaymath}

を示せばよい.

\begin{displaymath}
R\subset H
\end{displaymath}

は明らかである.そこでこれが一致しないとする. $H$の元であって$R$には属さない不変式が存在する. そのような不変式の斉次部分全体のなかで, 次数が最小のものを$f$とする. $f$は次数最小の$G$不変斉次式である. $f\in I$なので,斉次式 $p_1,\ \cdots,\ p_N$が存在して

\begin{displaymath}
f=p_1s_1+p_2s_2+\ \cdots\ +p_Ns_N
\end{displaymath}

とかける.このとき

\begin{eqnarray*}
E(f)&=&E(p_1s_1+p_2s_2+\ \cdots\ +p_Ns_N)\\
&=&E(p_1)E(s_1)+E...
...ts\ +E(p_N)E(s_N)\\
&=&E(p_1)s_1+E(p_2)s_2+\ \cdots\ +E(p_N)s_N
\end{eqnarray*}

$E(p_i)$がすべて$R$の元なら結局$f$$R$の元になる. したがって$E(p_i)$の中に$R$の元ではないものが存在する. それを$E(p_a)$とする.

一方,$E(p_a)$はそれ自身$G$不変斉次式なので $E(p_a)\in H$である.そして

\begin{displaymath}
\deg E(p_a)<\deg f
\end{displaymath}

なので,これは$\deg f$の最小性に反する. よって$R=H$が示された.□



Aozora Gakuen