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ユニタリー群の場合

南海  ゴルダン問題1.6.1は1890年,ヒルベルトによって, 基底定理を土台に解決された. その後,ヘルマン・ワイルによって別の方法が示された. それは,先の有限群のときの考え方を生かすものであった. ここではワイルの方法を$m=1$$n$次の場合について話そう. リー群論という分野を勉強すれば, 一般の$
m$の場合に展開することが出来る. とはいえ,高校範囲からいえば, いくつかのことは証明なしに進まなければならない.

耕介  有限群の場合は,総和を群の元の個数で割った平均$E(f)$をつかうことで, 数学的帰納法がうまく使えました. 無限群では,加えたものを元の個数で割るということは出来ません.

南海  しかし,総和に代わるものがあるだろう.

耕介  積分ですか.

南海  そうだ.全体にわたる積分が有限確定なら, 平均を考えることも不可能ではない. そのことを話してみよう. そこで,ここからは多項式環の係数は複素数$C$とする. よって$SL(2)$も成分は複素数値である.

耕介  複素数$p,\ q,\ r,\ s$$ps-qr=1$であるようなものによって $\left(
\begin{array}{cc}
p&q\\
r&s
\end{array}\right)$と表される行列の全体です. しかしそうすると,$SL(2)$が作用するベクトル空間も 複素数成分ですか.

南海  そうだ. $(z_1,\ z_2)\ ,\ (z_1,\ z_2\in C)$であるような空間を考える. これを$C^2$と書こう.

耕介  複素2次元ということは,実数から見れば4次元ですか.

南海  そうだ.そして,ベクトル ${\bf x}=(z_1,\ z_2)$の大きさを

\begin{displaymath}
\left\vert{\bf x}\right\vert^2=\left\vert z_1 \right\vert^2+\left\vert z_2 \right\vert^2
=z_1\overline{z_1}+z_2\overline{z_2}
\end{displaymath}

で定める.

耕介  これって2つのベクトル ${\bf x}=(z_1,\ z_2)$ $(\overline{z_1},\ \overline{z_2})$ の内積です.

南海  普通これを「エルミート積」という. 内積の記号を使うと ${\bf x}\cdot\overline{{\bf x}}$と書ける. $SL(2)$の元であって,$C^2$のベクトルの大きさ, つまりエルミート積を変えないものの集合を$SU(2)$と書く. これは$SL(2)$の部分群でユニタリ群といわれる. この群は有限群とは違うが,全体を積分した値が有限である. それを考える. そこでまず,$SU(2)$の元はどんな形をしているか.

耕介  $\sigma=
\left(
\begin{array}{cc}
p&q\\
r&s
\end{array}\right)$とします.また任意の ${\bf x}=(z_1,\ z_2)$をとります. 内積を1行2列,あるいは2行1列の行列の積と見れば

\begin{displaymath}
z_1\overline{z_1}+z_2\overline{z_2}
=(z_1,\ z_2)\left(
\beg...
...ray}{c}
\overline{z_1}\\
\overline{z_2}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

なので,$\sigma{\bf x}$のエルミート積は

\begin{displaymath}
\sigma{\bf x}\cdot\overline{\sigma{\bf x}}=
(z_1,\ z_2)
\lef...
...ray}{c}
\overline{z_1}\\
\overline{z_2}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

となります.これがつねに $z_1\overline{z_1}+z_2\overline{z_2}$ と等しいので,

\begin{displaymath}
\left(
\begin{array}{cc}
p&r\\
q&s
\end{array}\right)\l...
...\overline{q}\\
\overline{r}&\overline{s}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

が単位行列です.かつ$SL(2)$の元でもあるので, 成分で書くと

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
p\overline{p}+r\overline{r}=1\\
...
... p\overline{q}+r\overline{s}=0\\
ps-qr=1
\end{array}\right.
\end{displaymath}

これをもとに,$r$$s$を求めると, $r=-\overline{q}$ $s=\overline{p}$になります.結局

\begin{displaymath}
SU(2)=\left\{
\left(
\begin{array}{cc}
p&q\\
-\overline{...
...\vert^2+\left\vert q \right\vert^2=1,\
p,\ q\ \in C
\right\}
\end{displaymath}

です.

これは,実成分で $z_1=s+it,\ z_2=u+iv$とおくと

\begin{displaymath}
s^2+t^2+u^2+v^2=1
\end{displaymath}

です.球面の方程式のようです.

南海  4次元空間の中の3次元球面だ. そこで,

\begin{displaymath}
s^2+t^2+u^2+v^2=r^2
\end{displaymath}

を考える.これは半径$r$の3次元球面だ. この体積$V(r)$と表面積$S(r)$,実際は4次元立体と3次元立体のなのだが, これは求まるか.

耕介  そんな積分はわかりません.

南海  では,円の面積と円周, 球の体積と表面積はどのような関係であったか.

耕介 

\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
2次元&3次元&4次元\\
面積:\pi r^2&体..
...{3}r^3&V(r)\\
ア゜シ・\pi r&表面積:4\pi r^2&S(r)
\end{array}\end{displaymath}

です.

南海  上段を$r$で微分すると下段になる. 球の体積は円の面積から回転体の体積計算で求まる.

耕介  3次元の体積を回転させて$V(r)$を求め,それを微分すれば$S(r)$になるのですね. $v$を固定すると

\begin{displaymath}
s^2+t^2+u^2=r^2-v^2
\end{displaymath}

は3次元球体なのでその体積は

\begin{displaymath}
\dfrac{4\pi}{3}(r^2-v^2)^{\frac{3}{2}}
\end{displaymath}

です.だから $v=r\sin \theta$で置換すれば計算できます.

\begin{eqnarray*}
V(r)&=&2\int_0^r\dfrac{4\pi}{3}(r^2-v^2)^{\frac{3}{2}}\,dv
=\d...
...heta+\dfrac{1+\cos4\theta}{2}}{4} \,d\theta
=\dfrac{\pi^2r^4}{2}
\end{eqnarray*}

したがって

\begin{displaymath}
S(r)=V'(r)=2\pi^2r^3
\end{displaymath}

です.

南海  とにかく有限群ではないが,$SU(2)$はその3次元球面としての総面積が $S(1)=2\pi^2$であることがわかった.

南海  これで次の場合に不変式が有限個でかけることが示せる. そのために$SL(2)$の不変式について もうういちどふり返っておこう.

$SL(2)$の元$\sigma$に対して2の方法で $x$$n$次式が変換され,その結果$n+1$個の係数の間の変換が定まる. 今は,不変式の伝統に従い $f(x)$を(5)において係数の変換定めている.

この過程を通して$SL(2)$$n+1$変数の整式に作用するのだった. そこで$f$をこのような$n+1$変数の整式とし, この作用による$f$の変換を$f^{\sigma}$と書こう.

今は,$SL(2)$の部分群$SU(2)$の不変式を考えるのだ.

耕介  有限群の場合に平均$E(f)$をとった作用に関して, ユニタリー群$SU(2)$の場合は, 形式的には$x$の整式$f$に対して

\begin{displaymath}
E(f)=\dfrac{1}{2\pi^2}\int_{SU(2)} f^{\sigma}\,d\sigma
\end{displaymath}

とするのですね.

南海  有限群のときは単なる和であったが, この場合は積分なので, $\sigma \in SU(2)$の元を $\sigma \in SU(2)$にかけると, これは球面$H$をそれ自身に写す変換であるが, この変換で$d\sigma$が変わらないことをおさえなければならない. ところが$SU(2)$はエルミート積を一定に保ち, 図形的には球面$S$の長さとなす角,したがってその面積要素を変えない. この結果$E(f)$$SU(2)$の作用による不変式となる. $f$$SU(2)$不変なら$E(f)=f$も成り立つ.

耕介  まだ$SL(2)$不変ではないですね.

南海  そう.それはこれから考える.

今わかったことは,次のことだ.

定理 9
$GL(2)$の部分群$G$$SU(2)$にとる. 方程式の係数変換を通して$SU(2)$$n+1$変数の整式$f$に作用させる. この作用による不変式の集合を$H$とする. 有限個の$G$不変式 $s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N$ が存在し, $H$の各要素$f$を適当な$K$多項式$F$を用いて,

\begin{displaymath}
f=F(s_1,\ s_2,\ \cdots,\ s_N)
\end{displaymath}

と表すことができる.

耕介  証明は有限群の場合とまったく同じですね.


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