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有限性の証明への道

南海  $SU(2)$に関する不変式の有限性は示せた.

これをもとに$SL(2)$に関する不変性がどのように示されるのか 話そう.$f$はいま$n+1$次式としている. この場合に一般化することは難しくないので, 計算は$n=2$,つまりこれまでやってきた場合にしたい.

まず,$SL(2)$

\begin{displaymath}
T=\left\{\left(
\begin{array}{cc}
\alpha&0\\ 0&\alpha^{-1}...
...eft(
\begin{array}{cc}
1&0\\ u&1
\end{array}\right)\right\}
\end{displaymath}

という3つの部分群で生成されることは示した.ところが

\begin{displaymath}
\left(
\begin{array}{cc}
\alpha&0\\ 0&\alpha^{-1}
\end{ar...
...left(
\begin{array}{cc}
1&0\\ 1-\alpha&1
\end{array}\right)
\end{displaymath}

のように,$T$の元が$U_+$$U_-$で書けるので, $SL(2)$$U_+$$U_-$で生成される.

耕介  ということは$f$$SL(2)$であるための必要十分条件は

\begin{displaymath}
Df=0,\ \Delta f=0
\end{displaymath}

なわけですね.

南海  さて$SL(2)$不変ならもちろん$SU(2)$不変である. ところが方程式の不変式に関してはこの逆も成り立つ.

$SU(2)$には $\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta
\end{array}\right)$ $\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&i\sin\theta\\ i\sin\theta&\cos\theta
\end{array}\right)$ が含まれる.

耕介  最初のものは$\theta$の回転ですね.

南海  まず, $\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta
\end{array}\right)$ に対応する3次行列(6)を書いてほしい.

耕介 

\begin{eqnarray*}
&&\left(
\begin{array}{ccc}
\cos^2\theta&2\cos\theta\sin\the...
...}{2}&-\sin2\theta
&\dfrac{1+\cos2\theta}{2}
\end{array}\right)
\end{eqnarray*}

南海  $f(a,\ b,\ c)$が角$\theta$を変化させたときに不変であることは, 変換を行った式を$\theta$で 微分したとき恒等的に0になるということだった. 計算してみてほしい.

耕介 

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{d}{d\theta}f\left(
a\dfrac{1+\cos2\theta}{2}+b\sin2\t...
...uad +\left.a\sin2\theta-2b\cos2\theta-c\sin2\theta\right)f_c(〃)
\end{eqnarray*}

南海  この結果を次のように変形する.

\begin{eqnarray*}
&&2\left(\dfrac{-a\sin2\theta}{2}+b\cos2\theta+\dfrac{c\sin2\t...
...in2\theta}{2}+b\cos2\theta+\dfrac{c\sin2\theta}{2}\right)f_c(〃)
\end{eqnarray*}

耕介  これが恒等的に0になることは,

\begin{displaymath}
\left(
2b\dfrac{\partial }{\partial a}+
c\dfrac{\partial }{\...
...tial b}-
2b\dfrac{\partial }{\partial c}\right)f=(\Delta-D)f=0
\end{displaymath}

と同値です.

南海  次に $\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&i\sin\theta\\ i\sin\theta&\cos\theta
\end{array}\right)$ に対応する3次行列(6)を書いて 同様に続けてほしい.

耕介 

\begin{eqnarray*}
&&\left(
\begin{array}{ccc}
\cos^2\theta&2i\cos\theta\sin\th...
...}{2}&i\sin2\theta
&\dfrac{1+\cos2\theta}{2}
\end{array}\right)
\end{eqnarray*}

これを用いて同じように計算する.

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{d}{d\theta}f\left(
a\dfrac{1+\cos2\theta}{2}+bi\sin2\...
...d +\left(-a\sin2\theta+2bi\cos2\theta-c\sin2\theta\right)f_c(〃)
\end{eqnarray*}

この結果を次のように変形する.

\begin{eqnarray*}
&&2i\left(\dfrac{ai\sin2\theta}{2}+b\cos2\theta+\dfrac{ci\sin2...
...n2\theta}{2}+b\cos2\theta+\dfrac{ci\sin2\theta}{2}\right)f_c(〃)
\end{eqnarray*}

これが恒等的に0になることは,

\begin{displaymath}
\left(
2bi\dfrac{\partial }{\partial a}+
ci\dfrac{\partial }...
...al b}+
2bi\dfrac{\partial }{\partial c}\right)f=i(\Delta+D)f=0
\end{displaymath}

と同値です.

南海  $SU(2)$不変であれば,その中の特定の形で不変であり, その結果

\begin{displaymath}
(\Delta-D)f=0,\ (\Delta+D)f=0
\end{displaymath}

となる.これから

\begin{displaymath}
Df=0,\ \Delta f=0
\end{displaymath}

が得られ,$SL(2)$で不変になる. 方程式の不変式については $SL(2)$不変であることと $SU(2)$不変であることとが同値になり, かくして定理9によって $SL(2)$の作用による不変式が有限個の不変式で表されることが示された.

$SL(2)$$n$次式への作用による $n+1$変数整式の場合に拡張することは難しくない. $SL(m+1)$の作用に一般化するには, 具体的に計算で確かめることは出来ないので, いくつかの基礎理論が必要である.

これはヘルマン・ワイルによる方法である.

19世紀末から20世紀にかけて,このような問題が大きく発展し, 現代の数学につながっていった. 関心をもった人は,さらに勉強を進めてほしい. 今回の話しは,一応このあたりで終えるとしよう.



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