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不変式の定義

南海  これまで考えてきた方程式の不変式を整理し,一般的に不変式を定義しよう.

$ps-qr=1$であるような2次行列の全体を $SL(2)$と書こう. $\sigma \in SL(2)$ $\sigma=
\left(
\begin{array}{cc}
p&q\\
r&s
\end{array}\right)$のとき, $\sigma(x)=\dfrac{px+q}{rx+s}$と書こう.

判別式の$SL(2)$に対する不変性の確認は,$\sigma$で考えても $\sigma^{-1}=
\left(
\begin{array}{cc}
s&-q\\
-r&p
\end{array}\right)$で考えても同じことだった. ここはもういちど最初の変換に立ちかえって考えよう.

\begin{displaymath}
f(x)=a_0x^n+a_1x^{n-1}+a_2x^{n-2}+\cdots+a_{n-1}x+a_n
\end{displaymath}

に対して整式$f^{\sigma}(x)$

\begin{displaymath}
f^{\sigma}(x)=(-rx+p)^nf\{\sigma^{-1}(x)\}
\end{displaymath}

で定め,この係数を

\begin{displaymath}
f^{\sigma}(x)
={a_0}'x^n+{a_1}'x^{n-1}+{a_2}'x^{n-2}+\cdots+{a_{n-1}}'x+{a_n}'
\end{displaymath}

とする.このとき,

\begin{displaymath}
\left(
\begin{array}{c}
{a_0}'\\ {a_1}'\\ {a_2}'\\ \cdots\...
...array}{c}
a_0\\ a_1\\ a_2\\ \cdots\\ a_n
\end{array}\right)
\end{displaymath}

で定まる$n+1$次の行列$A$が定まった. $n+1$次の行列で逆行列のあるものの全体を$GL(n+1)$と書く. $\sigma$$SL(2)$を動くとき,これによって $GL(n+1)$の部分集合$G$が定まる.

この対応で, $\sigma,\ \tau \in SL(2)$ $A,\ B\in GL(n+1)$に対応しているとし, $\sigma=\left(
\begin{array}{cc}
p&q\\
r&s
\end{array}\right),
\tau=\left(
\begin{array}{cc}
t&u\\
v&w
\end{array}\right)$とする. $f(x)$$\sigma$で変換し,続いてそれを$\tau$で変換して得られる 係数はどのようになるか.

耕介  まず$f^{\sigma}(x)$ $f^{\sigma}(x)=(-rx+p)^nf\{\sigma^{-1}(x)\}$で定めます.

これを$\tau$で変換すると $\tau^{-1}=\left(
\begin{array}{cc}
w&-u\\
-v&t
\end{array}\right)$なので

\begin{eqnarray*}
(-vx+t)^nf^{\sigma}\{\tau^{-1}(x)\}&=&
(-vx+t)^n\{-r(\tau^{-1}...
...\
&=&(-vx+t)^n\{-r(\tau^{-1}(x))+p\}^nf\{(\tau\sigma)^{-1}(x)\}
\end{eqnarray*}

です.

\begin{eqnarray*}
(-vx+t)\{-r(\tau^{-1}(x))+p\}&=&
(-vx+t)\left\{-r\left(\dfrac{wx-u}{-vx+t}\right)+p\right\}\\
&=&-(vp+wr)x+(tp+ur)
\end{eqnarray*}

なので,これはちょうど$\tau\sigma$による変換になります. そうか $\sigma^{-1}(x)$と逆元を作用させるようにした方が, 積同じ順の積に対応するのですね.

南海  不変性を確認するときはどちらでもよいのだが, 順序を保とうとすると注意しなければならない.

耕介  これに対して係数の変換は

\begin{displaymath}
B\left\{A
\left(
\begin{array}{c}
{a_0}\\ {a_1}\\ \cdots\\...
...{array}{c}
{a_0}\\ {a_1}\\ \cdots\\ {a_n}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

となり,積$\tau\sigma$$BA$に対応します.

南海  このようにして定まる写像

\begin{displaymath}
SL(2)\ \to \ GL(n+1)
\end{displaymath}

は積と逆元をそのまま積と像の逆元に写す. この写像の像を$G$とする.$G$は積に関して閉じているだけではなく, 行列$A$$G$の要素なら$A^{-1}$$G$の要素となる. つまり$G$$GL(n+1)$の部分群である. この写像は,群の準同型写像であるという.

$f(x)$の判別式は係数 ${a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n}$の整式であった. つまり

\begin{displaymath}
D({a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n})
\end{displaymath}

と表せる. $G$の任意の要素$A$をとり, ${a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n}$ を関係式(3)で変換して,判別式を

\begin{displaymath}
D({a_0}',\ {a_1}',\ \cdots,\ {a_n}')
\end{displaymath}

に代えたとき, ${a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n}$ の整式として

\begin{displaymath}
D({a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n})
=D({a_0}',\ {a_1}',\ \cdots,\ {a_n}')
\end{displaymath}

が成り立つ. これがこれまでに調べたことのまとめだ.

耕介  なるほど.

南海  これは$SL(2)$$GL(n+1)$への表現を通した判別式への作用なのだが, 要するに$SL(2)$の像である$GL(n+1)$の部分群$G$$n+1$個の文字 ${a_0},\ {a_1},\ \cdots,\ {a_n}$に作用し, その変換で判別式を変換すると,判別式が不変になった. そこで,次のように不変式を定義しよう. ただしここでも積が保たれるように,作用させ方を工夫しておく.

一般に$n$変数の多項式

\begin{displaymath}
f(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)
\end{displaymath}

を考える.変数の書き方を工夫して,ベクトル

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf x}=
\left(
\begin{array}{c}
x_1\\ x_2\\ \cdots \\ x_n
\end{array}\right)
\end{displaymath}

をもちいて $f(\mathrm{\bf x})$と書こう.

逆行列をもつ$n$次行列の集合$GL(n)$を考え,その部分群$G$をとる. $G$の要素$\sigma$に対してこれを右からかけた $\sigma\mathrm{\bf x}$は各要素が $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$の1次結合でできたベクトルだ.

$\sigma\mathrm{\bf x}$の各成分をもとの $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$に代入して得られる 多項式 $f(\sigma\mathrm{\bf x})$ $f^{\sigma}(\mathrm{\bf x})$と書こう.

まず$\sigma$を作用させ $f^{\sigma}(\mathrm{\bf x})$を作り, この多項式に$\tau$を作用させる. すると

\begin{displaymath}
(f^{\sigma})^{\tau}(\mathrm{\bf x})=
f^{\sigma}(\tau\mathrm{...
...}=
f(\tau\sigma\mathrm{\bf x})=
f^{\tau\sigma}(\mathrm{\bf x})
\end{displaymath}

が作られる.

定義 2 (不変式)
$G$の任意の要素$\sigma$の作用に関して不変な多項式,つまり $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$の整式として

\begin{displaymath}
f(\mathrm{\bf x})=
f^{\sigma}(\mathrm{\bf x})
\end{displaymath}

が成り立つ多項式を $f(\mathrm{\bf x})$$G$不変式という.

作用のさせ方はいろんな方式があるのだが, 不変であるということに関しては,いずれでも変わらない. だから不変性を考えるかぎり混乱は起こらない.


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