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スツルムの定理

南海  ふたたび実根がいくつあるかの問題に戻ろう.

$f(x)$ を実係数をもつ $n$ 次多項式

\begin{displaymath}
f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0
\end{displaymath}

とする. 方程式

\begin{displaymath}
f(x)=0
\end{displaymath}

が与えられた区間 $[a,\ b]$ の中にいくつの実根をもつかを決定することを スツルムの問題という. 1826年にスツルム ( Strum,Jacques Charles François ; 1803-1855 ) によって完全に解かれた.

以下, $f(x)$ の零点 $\alpha$ とは $f(\alpha)=0$ となる実数 $\alpha$ のこととする.

$f_0(x)=f(x)$$f_1(x)=f'(x)$に対してユークリッドの互除法を行う. そのとき余りを次の定理のなかで述べられているように,通常の場合と符号を逆にとる.

定理 3 (スツルム の定理)
     実数係数の多項式 $f(x)$ が与えられている.このとき次の規則で多項式の列

\begin{displaymath}
f_0(x),\ f_1(x),\ f_2(x),\ \cdots,\ f_r(x)
\end{displaymath}

を作る.

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
f_0(x)=f(x),\ f_1(x)=f'(x)\\
f_...
....
\quad つまり\ f_{r-1}(x)=f_r(x)Q_r(x)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

$f(x)$ の零点でない実数 $a$ に対して,数の列

\begin{displaymath}
f_0(a),\ f_1(a),\ f_2(a),\ \cdots,\ f_r(a)
\end{displaymath}

における正負の符号変化の回数を $w(a)$ と書く.ただしこの列の中に 0 が現れるときはそれをとばして数える.

$a,\ b\ (a<b)$$f(x)$ の零点でないとする.このとき区間 $[a,\ b]$ 内の 相異なる零点の個数(したがって重根も1つと数える)は

\begin{displaymath}
w(a)-w(b)
\end{displaymath}

に等しい.

南海  ユークリッドの互除法により, $f_r(x)$$f_0(x)=f(x)$$f_1(x)=f'(x)$の最大公約数である. これが互いに素,つまり $f(x)=0$ が重根をもたなければ, $f_r(x)$ は定数である.

耕一  この種の問題を考えるのに $f(x)$$f'(x)$は必要だとわかります. しかしそのあと,順に $f''(x),\ f'''(x),\ $と作っていってそれを調べるのかな,と 思っていたのですが,互除法で次々に決めていくのですね.

南海  スツルムの時代,いろんな試行錯誤があったのだろう. 当然,高次微分との関係も調べられたに違いない.

高次微分の列

\begin{displaymath}
f(x),\ f'(x),\ f''(x),\ f^{(3)}(x),\ \cdots
\end{displaymath}

の符号変化に関する定理もある.これらは『代数学講義』(高木貞治著,共立出版株式会社)を 見てほしい.それらの定理は意味深いが,任意の区間内の実根の個数を確定することはできない.

高次微分は $f^{(j-1)}(x),\ f^j(x),\ f^{(j+1)}(x)$ の3項の間の関係を 数式で表わしにくい.が,互除法ならはっきりしている. さらに互除法で余りの符号を逆にとるなどということは,ほんとにいろんな工夫の後に, スツルムにひらめいたのだ.こうして任意の区間内の実根の個数を確定するという問題を スツルムが最初に解決した.

証明

$f(x)=0$ が重根をもたない場合.

この場合, $f(x)$$f'(x)$ は互いに素なので, $f_r(x)$ は0でない定数で, 隣りあう2項の零点に同じものはない.

区間 $[a,\ b]$$a$ を固定し $b$ を動かすことを考える.

区間内の実数$\alpha$$f(x)$の零点ではないものをとる. この$\alpha$に対し,$\alpha$を零点にもつ$f_{j_0}(x)$で,$0<j_0<r$ にあるものをとる. $x_1,\ x_2$ $x_1<\alpha<x_2$ で区間 $[x_1,\ x_2]$$\alpha$以外の$f_j(x)$の零点が存在しないようにとる.

このとき $w(x_1)=w(\alpha)=w(x_2)$ である.

このような$f_{j_0}(x)$が存在しなければ,すべて符号が一定なので明らかである.

存在するときを考える. $f_{j_0}(x)$ の前後の $f_{j_0-1}(x),\ f_{j_0+1}(x)$$\alpha$を零点にはしないので $x=x_1,\ \alpha,\ x_2$ で同じ符号をとる.

$f_{j_0}(x)$$x=\alpha$ の前後で負から正に変わるとする.

\begin{displaymath}
f_{j_0-1}(\alpha)=f_{j_0}(\alpha)Q_k(x)-f_{j_0+1}(\alpha)=-f_{j_0+1}(\alpha)
\end{displaymath}

より, $x=\alpha$ の近くで $f_{j_0-1}(x)$$f_{j_0+1}(x)$ は異符号である. これをもとに, $x=\alpha$ の前後の値での符号変化の回数を調べる. すると

\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
x&...
...
\alpha&\pm &0&\mp&1\\
\hline
x_2&\pm &+&\mp&1
\end{array}\end{displaymath}

正から負に変わるときも同様である. したがって符号変化の回数は変わらない.

$\alpha$を零点にもつ各$f_{j_0}(x)$についていえるので, $w(x_1)=w(\alpha)=w(x_2)$ である.

次に $\alpha$$f(x)$ の零点とし,同様の考察を行う. $x=\alpha$ の前後で $f(x)$ が負から正に変わるとすると $f'(x)>0$ なので

\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
x&f(x)&f'...
...変化数\\
\hline
x_1&-&+&1\\
\hline
x_2&+&+&0
\end{array}\end{displaymath}

$x=\alpha$ の前後で $f(x)$ が正から負に変わるとすると $f'(x)<0$ なので

\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
x&f(x)&f'...
...変化数\\
\hline
x_1&+&-&1\\
\hline
x_2&-&-&0
\end{array}\end{displaymath}

$\alpha$を零点にもつ,$0<j_0<r$ の範囲の$f_{j_0}(x)$については,先の考察と同様に$\alpha$の 前後での符号変化の回数は変わらない.

よってこの場合 $w(x_1)-1=w(x_2)$である.

したがって $w(a)-w(b)$$b$$a$ から増加して $f(x)$ の零点を一つ超えるごとに1増加する.

つまり $w(a)-w(b)$ は区間 $[a,\ b]$ における $f(x)$ の零点の個数そのものである.

$f(x)=0$ が実数の重根 $\beta$ をもつ場合. $f(x)=(x-\beta)^pg(x)$ とおく.

\begin{displaymath}
f'(x)=p(x-\beta)^{p-1}g(x)+(x-\beta)^pg'(x)
\end{displaymath}

$(x-\beta)^{p-1}$$f(x)$$f'(x)$ の公約数なので, $(x-\beta)^{p-1}$$f_r(x)$ の約数でもある.

$f_0(x)$ から $f_r(x)$ のすべてを $(x-\beta)^{p-1}$ で割る.

それをあらためて

\begin{displaymath}
f_0(x),\ \cdots,\ f_r(x)
\end{displaymath}

とする.

この新たな $f_0(x),\ \cdots,\ f_r(x)$$x=b$ での符号は, もとの $f_0(x),\ \cdots,\ f_r(x)$$x=b$ での符号と, $(b-\beta)^{p-1}$ の正負に よってすべて同符号かすべて異符号かのいずれかであるから,符号変化の回数は変わらない.

新たな $f_0(x),\ \cdots,\ f_r(x)$は隣りあう2項の間に共通の零点をもたないので $0<j_0<r$に対する$f_{j_0}(x)$ の零点$\alpha$ の前後で $w(b)$ の値が変わらないことは 同様である.

$\alpha$$f(x)$ の零点とする. $\alpha\ne \beta$ なら $\alpha$ の前後で $w(b)$ の値が1減ることも同様である.

最後に $x=\beta$ の前後でも $w(b)$ の値が1減ることを確認する.

$f_0(x)=(x-\beta)g(x)$$g(\beta)\ne 0$ である.


\begin{displaymath}
f_1(\beta)=g(\beta)+(\beta-\beta)g'(\beta)=g(\beta)
\end{displaymath}

$x=\beta$ の前後で $g(\beta)>0$ とし,上と同様の考察をする.

\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
x&f_0(x)&...
...変化数\\
\hline
x_1&-&+&1\\
\hline
x_2&+&+&0
\end{array}\end{displaymath}

つまり符号変化の回数は1減る. $g(\beta)<0$ のときも同様.

したがってこの場合も $w(x_1)-1=w(x_2)$である.

よって重根をもつ場合も $w(a)-w(b)$$b$$a$ から増加して $f(x)$ の零点を一つ超えるごとに1増加する.

つまり $w(a)-w(b)$ は区間 $[a,\ b]$ における $f(x)$ の零点の個数そのものである. ただし,重根も1つに数えている.

以上で題意が示された.□

南海  ここで大切な注意がある.区間 $[a,\ b]$ での符号変化回数の差 $w(a)-w(b)$ を求めようとするとき,ある $f_{j_0}(x)$が区間 $[a,\ b]$ で符号が一定になったとする.

すると $j_0<j\le r$ の間の$f_j(x)$ に対し,各$f_j(x)$が途中で符号を変えても, すでに見たようにその前後の $x_1$$x_2$$w(x)$ の値が変わらず, したがって区間 $[a,\ b]$ に属する任意の $x$ に対し数列

\begin{displaymath}
f_{j_0}(x),\ f_{j_0+1}(x),\ \cdots,\ f_r(x)
\end{displaymath}

の間で起こる符号変化の回数は一定である..

したがって $w(a)-w(b)$を求めようとすれば

\begin{eqnarray*}
&&f(a),\ f'(a),\ \cdots,\ f_{j_0}(a)\\
&&f(b),\ f'(b),\ \cdots,\ f_{j_0}(b)
\end{eqnarray*}

の間の符号変化を調べその差をとれば十分である.

さて,$n$ 次方程式 $f(x)=0$ がいくつ実数解をもつかを知りたければ, まず先に見たように,根の限界を何らかの方法で見つけそれを $M$ とする. すべての実根は区間 $[-M,\ M]$ にあるので が実根の個数である.

このようにスツルムの定理と根の限界の定理を組み合わせれば,すべての実根の 個数がわかる.

そこで最初の阪大の問題だが,スツルムの定理の簡単な応用になっていることは わかるだろうか.

耕一  $f(x)=x^3+ax^2+bx+c$とすれば $f'(x)=3x^2+2ax+b$ .十分大きい $M$ をとり 区間 $[0,\ M]$ をとる.この区間で$f'(x)$の符号は一定(つねに正)なので, 先の注意により $f(x)$$f'(x)$ の符号変化のみを調べればよい.

$f(0)>0$ なら $f(0)<0$ なら

$f(0)=0$ のとき….

南海  $f(0)=0$ のとき,つまり $c=0$ のときは, 任意の正の $e<M$ に対して $f(e)>0$だから .ゆえにやはり正の解はない.

演習 1   解答1      次の方程式の実根の個数を求めよ.またそれぞれの実根は隣りあうどのような整数の間にあるか.

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
&(出典)\\
x^3+3x-1=0&『スツルムの解法`..
....11x^3-7.25x^2+1.88x-7.84=0&『代数学講義』高木貞治
\end{array}\end{displaymath}

南海  区間の中に1つあることがわかれば,区間を中点で区切り調べれば,そのいずれにあるか わかる.同様にくり返せばいくらでも根の近似値を求めることができる.

演習 2   解答2

\begin{displaymath}
x^3+3x-1=0
\end{displaymath}

の根を小数第1位まで求めよ.

演習 3   [00香川大改題] 解答3     

3次関数 $f(x)=x^3-3a^2x+a^2-a$ について,次の問いに答えよ.

  1. 方程式 $f(x)=0$ が異なる3つの実数の解をもつような $a$ の値の範囲を 求めよ.
  2. (1)のとき,3つの解は $-2a$$2a$ の間にあることを示せ.


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