next up previous 次: 一般の場合の証明 上: デカルトの円定理と一般化 前: 一般化と線型代数の準備

ヘロンの公式再考

太郎 ということは,定理2$n=1$でも成り立つのですね.

$n=1$のときは次のようになります.

1次元,つまり直線上の三つの円がある. 互いに接しているとき,半径を $r_1,\ r_2,\ r_3$とすると

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}\pm \dfrac{1}{r_3}\right)^2
=\dfrac{1}{{r_1}^2}+\dfrac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}
\end{displaymath}

これを計算すると,

\begin{displaymath}
r_3=\mp(r_1+r_2)
\end{displaymath}

です.半径は正なのでもとの式では$-$の方,つまり外接する二円が他の円に内接しているときのみが起こり, そのとき$r_3=r_1+r_2$が成り立つ.

これが定理の内容です.

$n=1$のときの等式はこのようになります.

ところで一次元の円とは何ですか?

南海 円の定義ではどうなるか.

太郎 定点からの距離が一定な点の集合です. ということは直線上では二点です.二点の組が一次元の円ですね. すると接するというのは,そのいずれかの点を共有し,中心間の距離が半径の和か差になるということです. 結局,三つの円の関係が図のようになるときのみ可能です.よって$r_3=r_1+r_2$.が成り立ちます.

南海 これらの円の中心となる三点が同一直線上にあるということそのものだ. そしてそれらの点の間の距離が,対応する半径の和や差に他ならない.

一次元の場合のこの定理をどのように導くか? 一般化の可能な方法はないのか? それを考えてみよう.

つまり中心となる三点が一直線上にあるということと,点の間の距離が半径の和や差であるということから,その関係を半径の間の関係で表せば,一次元の公式が出るのではないか.

平面上に置かれた三点は,一般には三角形を形成する. 中心となる三点を $\mathrm{A}(x_1,\ y_1)$ $\mathrm{B}(x_2,\ y_2)$ $\mathrm{C}(x_3,\ y_3)$とする. このとき $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の面積$S$はどのようになるか?

太郎 $\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(x_2-x_1,\ y_2-y_1)$ $\overrightarrow{\mathrm{AC}}=(x_3-x_1,\ y_3-y_1)$なので

\begin{displaymath}
S=\dfrac{1}{2}\left\vert(x_2-x_1)(y_3-y_1)-(x_3-x_1)(y_2-y_1) \right\vert
\end{displaymath}

です.

南海 行列式で書くと?

太郎

\begin{displaymath}
S=\dfrac{1}{2}\left\vert\left\vert
\begin{array}{cc}
x_...
...\
x_3-x_1&y_3-y_1
\end{array}
\right\vert
\right\vert
\end{displaymath}

です.外側の縦線は絶対値記号です.

南海 面積も向きをつけて考えるのだが,今はその必要がないので, このように絶対値で考えていくことにしよう.

行列式の性質から

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
x_2-x_1&y_2-y_1\\
x_3-x...
..._1&1\\
x_2&y_2&1\\
x_3&y_3&1
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

太郎 確かに. 第三列に$x_1$をかけて第一列から引き, 第三列に$y_1$をかけて第二列から引くと
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_1&y_1&1\\
x_2&y_2&1\...
...2-x_1&y_2-y_1\\
x_3-x_1&y_3-y_1
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

です.

南海 $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の面積といえばもう一つは何か?

太郎 ヘロンの公式です.三辺の長さで面積を表すものです.

\begin{eqnarray*}
&&a=\mathrm{BC}=\sqrt{(x_3-x_2)^2+(y_3-y_2)^2}\\
&&b=\mathr...
...y_1-y_3)^2}\\
&&c=\mathrm{AB}=\sqrt{(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2}
\end{eqnarray*}

とすると面積$S^2$
\begin{displaymath}
S^2=
\dfrac{a+b+c}{2}\cdot
\dfrac{-a+b+c}{2}\cdot
\dfrac{a-b+c}{2}\cdot
\dfrac{a+b-c}{2}
\end{displaymath}

となります.

南海 これを展開すると

\begin{eqnarray*}
16S^2&=&\{-a^2+(b+c)^2\}\{a^2-(b-c)^2\}\\
&=&-\{(a^2-b^2-c^...
...-c^2)^2-4b^2c^2\}\\
&=&-(a^4+b^4+c^2-2a^2b^2-2b^2c^2-2c^2a^2)
\end{eqnarray*}

となる.

この先の一般化のために,ヘロン公式を三点の座標の方から作って見よう.

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_1&y_1&1\\
x_2&y_2&1\...
...
x_3&y_3&1&0\\
0&0&0&1
\end{array}
\right\vert=\alpha
\end{displaymath}

とおこう.$\alpha$は行列式の値としての実数値だ.$\vert\alpha\vert=2S$であることに注意しよう.
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-2x_1&-2x_2&-2x_3&0\\
...
...\
1&1&1&0\\
0&0&0&1
\end{array}
\right\vert=-4\alpha
\end{displaymath}

となる.この二つの行列の積を計算してほしい.

太郎 行列式の積は,行列の積の行列式なので

\begin{eqnarray*}
-4\alpha^2&=&\left\vert
\begin{array}{cccc}
x_1&y_1&1&0\\...
...)&-2({x_3}^2+{y_3}^2)&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{eqnarray*}

南海 ここで, 第四列に${x_1}^2$${x_2}^2$${x_3}^2$をかけて それぞれ第一列,第二列,第三列に加える. また 第四行に${x_1}^2$${x_2}^2$${x_3}^2$をかけて それぞれ第一行,第二行,第三行に加える.

\begin{displaymath}
-4\alpha^2=\left\vert
\begin{array}{cccc}
-2{y_1}^2&(x_...
...2-2y_3y_2&-2{y_3}^2&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

$y$についても同様にすることで
\begin{displaymath}
-4\alpha^2=\left\vert
\begin{array}{cccc}
0&(x_1-x_2)^2...
..._3)^2+(y_2-y_3)^2&0&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
-4\alpha^2=\left\vert
\begin{array}{cccc}
0&c^2&b^2&1\\...
...^2&1\\
b^2&a^2&0&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

となる.最後の行列を展開してほしい.

太郎

\begin{eqnarray*}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
0&c^2&b^2&1\\
c^2&0&a^2...
...2+c^2a^2-c^4)\\
&=&a^4+b^4+c^2-2a^2b^2-2b^2c^2-2c^2a^2=-16S^2
\end{eqnarray*}

ヘロンの公式ができた.$\alpha^2=4S^2$もわかりました.

南海 考えてみれば, 面積公式もヘロンの公式も同じ $\dfrac{1}{2}\mathrm{AB}\cdot \mathrm{AC}\sin\angle \mathrm{BAC}$から作っているのだから, 一方から他方が出ても不思議ではない. まとめると

\begin{displaymath}
S=\dfrac{1}{2}\left\vert
\left\vert
\begin{array}{ccc}
...
...1\\
b^2&a^2&0&1\\
1&1&1&0\\
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

となる. そこで1次元の場合の円定理を考えよう. 三点 $\mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}$が一直線上にあるときが,一次元の場合の円定理を導く.

太郎 そうなのですか. 三点が一直線上にあるための必要十分条件はでます. 三点 $\mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}$が同一直線上にあるのは, ベクトル $\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(x_2-x_1,\ y_2-y_1)$ $\overrightarrow{\mathrm{AC}}=(x_3-x_1,\ y_3-y_1)$ が一次従属であることですから,その行列式 $\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_1&y_1&1\\
x_2&y_2&1\\
x_3&y_3&1
\end{array}
\right\vert=0$となるときです.つまり $\left\vert
\begin{array}{cccc}
0&c^2&b^2&1\\
c^2&0&a^2&1\\
b^2&a^2&0&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert=0$です. これが三点が同一直線上にあるための必要十分条件です.

南海 円が接するとき,中心間の距離は半径の和か差である. 点 $\mathrm{A},\ \mathrm{B}$を中心とする円が互いに外接し, 点$\mathrm{C}$を中心とする円に内接しているとしよう.

三点を中心とする円の半径をそれぞれ $r_1,\ r_2,\ r_3$とすると,

\begin{displaymath}
a=r_3-r_2,\
b=r_3-r_1,\
c=r_1+r_2
\end{displaymath}

である.これを上の式に代入して
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
0&(r_1+r_2)^2&(r_3-r_1)^...
...)^2&(r_3-r_2)^2&0&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

太郎 これから円定理の$n=1$の場合を導くのですね. しかし式変形の方向がわかりません.

南海 第四行に${r_j}^2$をかけ第$j$行から引く. 第四列に${r_j}^2$をかけ第$j$列から引く. この結果

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-2{r_1}^2&2r_1r_2&-2r_1r...
...2r_2r_3&-2{r_3}^2&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

第四行,第四列に2をかけ,そのうえで各列を2で割っても$行列式=0$は変わらない.
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-{r_1}^2&r_1r_2&-r_1r_3&...
...&-r_2r_3&-{r_3}^2&1\\
1&1&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

そのうえで 第$j$行を$\pm r_j$で割り, 第$j$列を$\pm r_j$で割る.ただし符号は$j=1,\ 2$のとき正,$j=3$のとき負とする.この結果
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-1&1&1&\frac{1}{r_1}\\ 
...
...}&\frac{1}{r_2}&-\frac{1}{r_3}&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

これを展開してみてほしい.

太郎

\begin{eqnarray*}
&&
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-1&1&1&\frac{1}{r_1}\\...
... \begin{array}{cc}
1&1\\
1&-1
\end{array}
\right\vert=0
\end{eqnarray*}

これから
\begin{displaymath}
\dfrac{2}{r_1r_2}-\dfrac{2}{r_2r_3}-\dfrac{2}{r_3r_1}=0
\end{displaymath}

となり, 両辺に $\dfrac{1}{{r_1}^2}+\dfrac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}$を加えて
\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}-\dfrac{1}{r_3} \right)^2
=\dfrac{1}{{r_1}^2}+\dfrac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}
\end{displaymath}

を得ます.$n=1$のときの円定理です.

南海 そういうことだ.


next up previous 次: 一般の場合の証明 上: デカルトの円定理と一般化 前: 一般化と線型代数の準備

2014-07-06