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一般の場合の証明

南海 以上の考察はそのまま$n$次元に一般化される. 面積公式から考察をはじめたが, 面積公式そのものは必要ない. 一次独立性を判定する行列式が0であることのみを用いる.

太郎 ここまでのことをまとめると

  1. まず$n+1$次元空間におかれた$n+2$個の点が, $n$次元空間上にある条件を座標の行列式で表す.
  2. その条件を,点間の距離の行列式で表す.
  3. 点間の距離の行列式に半径の和か差を代入する.
  4. その結果得られる半径の間の関係式が$n$次元の場合の球定理である.
となります.

南海 そのとおりだ.

さて$n+1$次元空間で同様のことを行う. そのために,$n+1$次元空間の座標を $(x,\ y,\ \cdots,\ z)$として, $\cdots$の部分にも座標変数があり合計で$n+1$個であるとしよう.

太郎 $n+1$元空間におかれた$n+2$個の点を

\begin{displaymath}
\mathrm{A}_i(x_i,\ y_i,\ \cdots,\ z_i)\quad (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n+2)
\end{displaymath}

とする.これらの点が$n$次元空間上にあるための必要十分条件は
\begin{displaymath}
\alpha=\left\vert
\begin{array}{cccccc}
x_1&y_1&\cdots&...
...n+2}&1&0\\
0&0&\cdots&0&0&1
\end{array}
\right\vert
=0
\end{displaymath}

です.
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
-2x_1&-2x_2&\cdots&-2x_...
...
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert=-(-2)^{n+1}\alpha
\end{displaymath}

である.$n=1$の場合と同様に計算する. ${x_1}^2+{y_1}^2+\cdots+{z_1}^2$ $x_1x_2+y_1y_2+\cdots+z_1z_2$などをそれぞれ $\sum {x_1}^2$$\sum x_1x_2$のように表す. $n+1$個の座標にわたる和である. $n=1$の場合と同様に
\begin{displaymath}
-(-2)^{n+1}\alpha^2=\left\vert
\begin{array}{ccccc}
-2\...
... {x_{n+2}}^2&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

となる. ここで, 第$n+3$列に${x_1}^2$${x_2}^2$,…,${x_{n+2}}^2$をかけて それぞれ第一列,第二列,…,第$n+2$列に加える. また 第$n+3$行に${x_1}^2$${x_2}^2$,…,${x_{n+2}}^2$をかけて それぞれ第一行,第二行,…,第$n+2$行に加える. 各座標成分についてこれを行うことで

\begin{displaymath}
-(-2)^{n+1}\alpha^2=\left\vert
\begin{array}{cccccc}
0&...
...)^2&\cdots&0&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

を得る. ここで ${d_{ij}}^2=\sum (x_i-x_j)^2$とおく. $n+1$次元空間におかれた$n+2$個の点が$n$次元空間上にある必要十分条件 は$\alpha=0$であったので,等式
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccccc}
0&{d_{12}}^2&\cdots&{d...
...2&\cdots&0&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

$n+1$次元空間におかれた$n+2$個の点が$n$次元空間上にある条件を, 点間の距離の関係式で表したものである.

南海 ここに ${d_{ij}}^2=(r_i+r_j)^2$を代入する. ただし$n+2$番目の球に他の球が内接する場合 ${d_{i(n+2)}}^2=(r_i-r_{n+2})^2$を代入する. この場合は$r_{n+2}$を負にとることにすれば, 場合に分ける必要がない.

太郎

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccccc}
0&(r_1+r_2)^2&\cdots&(...
...2&\cdots&0&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

$n+3$行に${r_j}^2$をかけ第$j$行から引く. 第$n+3$列に${r_j}^2$をかけ第$j$列から引く. この結果

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccccc}
-2{r_1}^2&2r_1r_2&\cdo...
...r_{n+2}}^2&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

$n+3$行,第$n+3$列に2をかけ, そのうえで各列を2で割っても$行列式=0$は変わらない.
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccccc}
-{r_1}^2&r_1r_2&\cdots...
...r_{n+2}}^2&1\\
1&1&\cdots&1&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

そのうえで 第$j$行を$r_j$で割り, 第$j$列を$r_j$で割る.この結果
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
-1&1&\cdots&1&\frac{1}{...
...{r_2}&\cdots&\frac{1}{r_{n+2}}&0
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

これを展開することにより$n=1$の場合と同様に
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cccc}
-1&1&\cdots&1\\
1&-1...
...ts&-1
\end{array}
\right\vert\sum_{i<j}\dfrac{2}{r_ir_j}=0
\end{displaymath} (1)

が得られるはずです.

南海 結論はその通りである.実際,次のようになる.

\begin{eqnarray*}
&&(-1)^{n+4}\left\vert
\begin{array}{ccccc}
-1&1&\cdots&1...
...&1\\
&\cdots&&\\
1&1&\cdots&-1
\end{array}
\right\vert
\end{eqnarray*}

この結果,等式(1)が得られる.

ここで$n+1$次行列式$D_{n+1}$$F_{n+1}$

\begin{displaymath}
D_{n+1}=\left\vert
\begin{array}{cccc}
-1&1&\cdots&1\\ ...
...\\
&\cdots&&\\
1&1&\cdots&-1
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

とおく.等式(1)は
\begin{displaymath}
D_{n+1}\sum_{i=1}^{n+2}\dfrac{1}{{r_i}^2}
-F_{n+1}\sum_{i<j}\dfrac{2}{r_ir_j}=0
\end{displaymath} (2)

となる.
\begin{eqnarray*}
F_{n+1}&=&\left\vert
\begin{array}{cccc}
1&1&\cdots&1\\ 
...
... 1&1&\cdots&-1
\end{array}
\right\vert=D_{n+1}+2D_n=D_n-nF_n
\end{eqnarray*}

これから
\begin{displaymath}
(-2)^n=D_n-n(-2)^{n-1}\quad つまり\quad D_n=(-2)^{n-1}(n-2)
\end{displaymath}

よってすべての$n$
\begin{displaymath}
\dfrac{D_{n+1}}{F_{n+1}}=\dfrac{(-2)^n(n-1)}{(-2)^n}=n-1
\end{displaymath}

等式(2)より
\begin{displaymath}
(n-1)\sum_{i=1}^{n+2}\dfrac{1}{{r_i}^2}
=\sum_{i<j}\dfrac{2}{r_ir_j}
\end{displaymath}

両辺に $\displaystyle \sum_{i=1}^{n+2}\frac{1}{{r_i}^2}$を加えて
\begin{displaymath}
n\sum_{i=1}^{n+2}\dfrac{1}{{r_i}^2}
=\left(\sum_{i}^{n+2}\dfrac{1}{r_i}\right)^2
\end{displaymath}

を得る. すでに指摘したように,$n+1$この球が$n+2$番の球に内接しているときは, $r_{n+2}$を負とすることによって示される. 以上で定理2が示された. □


和算では$n=3$のときの公式を用いて, 六球連鎖の問題を解いたのだ. 互いに接する3個の球 $O_0,\ O_1,\ O_2$のどれにも接する球の連鎖$C_i$ について,まず$C_1,\ C_2$で球定理をつかえば$C_2$の半径が決まる. これから $C_3,\ C_4,\ \cdots$と順に決定してゆけば$C_6$で終わることが示せる. これは膨大な計算になるはずだ.


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2014-07-06