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パップスの定理

南海  では,この問題からいろいろ一般化したりして, 考えを広げてみよう.

伍郎  まず次のように考えました. 平行ということは,『パスカルの定理』で学びましたが, 射影幾何的には無限遠で交わるということです.

無限遠はその意味では特別な点です. これを一般の点にするとどうなるかと考えました.. つまり,$\mathrm{CQ}$$\mathrm{DQ}$$\mathrm{AR}$$\mathrm{BR}$を 辺と平行にとるのは,特殊な場合のように見えるので, 平行でない引き方をしました.

南海  なるほど.それは後で示すが,必ずしも一般化したことにはならないのだが, やってみることは大切だ.

伍郎  図のように, $\mathrm{D}$を通る直線と$\mathrm{OA}$の交点を$\mathrm{E}$$\mathrm{C}$を通る直線と$\mathrm{OB}$の交点を$\mathrm{F}$とし, $\mathrm{CF}$$\mathrm{DE}$の交点を$\mathrm{Q}$$\mathrm{AF}$$\mathrm{BE}$の交点を$\mathrm{R}$とする.

正確に図をかくとやはりこの場合も 3点 $\mathrm{P},\ \mathrm{Q},\ \mathrm{R}$は一直線上にありました.

これも先の証明と同様にできそうです.

南海  その証明は,あとでやってみよう.

さて,これをもう一度定理としてまとめよう. これは,パップスの定理といわれるものだ.

定理 2 (パップスの定理)

$i=1,\ 2$とする. 平面上に2直線$l_i$がある. $l_i$上に点 $\mathrm{A}_i,\ \mathrm{B}_i,\ \mathrm{C}_i$が この順に並んでいる.

直線 $\mathrm{A}_1\mathrm{B}_2$と直線 $\mathrm{A}_2\mathrm{B}_1$ の交点を$\mathrm{P}_1$, 直線 $\mathrm{A}_2\mathrm{B}_3$と直線 $\mathrm{A}_3\mathrm{B}_2$ の交点を$\mathrm{P}_2$, 直線 $\mathrm{A}_3\mathrm{B}_1$と直線 $\mathrm{A}_1\mathrm{B}_3$ の交点を$\mathrm{P}_3$とする.

このとき3点 $\mathrm{P}_1,\ \mathrm{P}_2,\ \mathrm{P}_3$ は一直線上にある.


南海  パップスの定理は点の順番も関係ない.

伍郎  試してみます. 確かに一直線上にあります.

南海  点を同じ順にとった方が,平行で交わらない場合がないことと, 3点の乗っている直線が$l_1,\ l_2$の間に来る方がが場所をとらないので, それを用いるが,以下の論証はすべて,他の順の場合も成り立つ.

もちろんユークリッド平面で考えるときは交点がなければならないが. パップスの定理は,長さや大きさといった量に関する内容は全くなく, ただ点と直線の相互関係のみに関する定理であることをおさえよう.

南海  パップス(Pappus:320年頃)はアレキサンドリアの人だ.

伍郎  確かユークリッドもアレキサンドリアの人.

南海  いちどブログに書いたことがあるが,ユークリッドはアレキサンドリア初期の人,かのアレクサンドロス大王の同時代人だ.

アレキサンダー大王は,紀元前356年7月?〜紀元前323年6月10日,在位前336年〜前323年)の人です.ユークリッド(エウクレイデス)は 紀元前365年?〜紀元前275年?なので,ユークリッドの方が先に生まれて長生きしたのです.ユークリッドは,エジプトのアレクサンドリアの人です.アレクサンドリアは紀元前332年に建設されたまし.アレクサンドロス(アレキサンダー大王)の死後は,その部下だったプトレマイオス1世がエジプトを支配し,アレクサンドリアは古代エジプト最後の王朝であるプトレマイオス朝の都として発展したのです.ユークリッドが活動したのはその時代なので,文化的にはユークリッドの方が後に活躍したのです.

パップスは,ユークリッドから600年以上後の人だ. ちなみに,メネラウスもアレクサンドリア出身の紀元前1世紀の人である. ちょうどユークリッドとパップスの間にいる人だ. パップスの頃,アレキサンドリアの数学はずいぶん衰退していたらしい. パップスはメネラウスら前世代の数学を復興させようと,当時散逸しつつあった文献を集め,注釈を加え,『数学集成』8巻を残した.


Aozora Gakuen