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九点円の一般化

拓生  三角形では九点円というのものがありました.
三角形ABCにおいて,各辺の中点の3点, 各頂点から対辺への垂線の足3点, 各頂点と垂心の中点3点のあわせて9点を通る円が存在する. これを九点円という. 外接円の半径を$R$とすると, 九点円の半径は$\dfrac{1}{2}R$であり,中心は外心と垂心の中点である.
これは入試問題にもあります. それは『九点円の不思議』にあります.

この『九点円の不思議』に書かれていることは, 垂心のある四面体,直辺四面体に拡張されるのでしょうか.

南海  フォイエルバッハの定理に相等するものについては知らない.今後の課題としておこう. その前にそもそも九点円に対応するものがあるのか,が問題だ. これについては次のことが知られている. 『幾何学大辞典』第二巻(岩田至康編,182ページ)に載っている.

定理 3
直辺四面体ABCDにおいて
(i)
各辺の中点6点と,各頂点からの共通垂線の足6点の12点は同一球面上にある. これを第1種の十二点球という. (1881年,Lewis,Temperley)
(ii)
各面の重心4点,各頂点から対面への垂線の足4点, 頂点と垂心を$2:1$に内分する点4点の12点は同一球面上にある. これを第2種の十二点球という. (1863年,Prouhet)
が成り立つ. ■

南海  第1種の十二点球を各面で切ったものは,その面の九点円そのものであるから, それぞれの面の垂心と頂点の中点3点,合計12点も通り,24点球ともいわれることもある. 『幾何学大辞典』には図形の論証とベクトルを用いた証明の概略が載っている.

拓生  直辺四面体の定理ですね.

南海  そうだ. その証明で論証上必要なところだけを取り出せば, 一般の四面体の定理にすることが出来る. 滋賀県彦根東高校の高校生四人がそれを考えた. それが雑誌『初等数学』2012年1月号に載っている. 『幾何学大辞典』にも,「(ii)はそのまま$n$次元の場合に拡張される」と書いてある.

『九点円の不思議』の最初の部分,九点円の存在証明を踏まえ, (i),(ii)を証明しよう. その上で,$n$次元の一般の四面体の場合で定理を記述し, 証明しよう.

拓生  まず(i)をやってみます. この場合,12点を通る球があるとし, 四面体の外心,その球の中心,垂心の3点を $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$に 正射影すれば,その球の中心の射影が $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の 九点円の中心であるはずで,それは三角形の外心と垂心の中点です.

ですから12点球の中心も四面体の外心と垂心の中点, つまり四面体の重心であろうと推測されます. そこで,重心と辺の中点との距離を調べました.

定理3(i)証明      外接球の半径を$R$,外心をOとし,垂心をHとする. $\overrightarrow{\mathrm{OH}}
=\dfrac{1}{2}\left(
\overrightarrow{\mathrm{OA}}...
...hrm{OB}}+
\overrightarrow{\mathrm{OC}}+
\overrightarrow{\mathrm{OD}}\right)
$であった.さらにOとHの中点は四面体ABCDの重心Gである. 辺ABの中点とGの距離は

\begin{eqnarray*}
&&\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OG}}
-\dfrac{1}{2}\left(...
...ightarrow{\mathrm{OD}}\cdot\overrightarrow{\mathrm{OB}}\right)}
\end{eqnarray*}

式の対称性からこれは辺CDの中点とGの距離に等しく, 系2によって,他の辺の中点との距離に等しい.

よってこの6点はGを中心とする球面上にある. この球面と $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$で定まる平面との共通部分は $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$の各辺の中点を通る円である. つまり $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$の九点円である. 九点円はその三角形の各頂点から対辺への垂線の足を通る. 系1によって共通垂線の足は三角形の各頂点から対辺への垂線の足 であるから,この球はこれら6個の共通垂線の足も通る. □

南海  この球の半径が

\begin{displaymath}
\sqrt{\dfrac{1}{6}(\mathrm{OH}^2+2R^2)}
\end{displaymath}

で与えられることは,演習問題としておこう.

拓生  次に(ii)に進みます. 九点円の場合からの推測で, 頂点Aと垂心Hを$2:1$に内分する点と $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$の重心との中点が球の中心ではないかと考えました. つまり次のように九点円の証明を真似ました.

定理3(ii)証明      頂点Aと垂心Hを$2:1$に内分する点$\mathrm{L}_1$ $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$の重心$\mathrm{G}_1$との中点をEとする.

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OE}}=
\dfrac{1}{2}\left\{
\dfrac{...
...rrightarrow{\mathrm{OC}}+\overrightarrow{\mathrm{OD}} \right)
\end{displaymath}

である.EはA,B,C,Dに関して対称なので, 対応する他の2点の組に関しても中点である. そしてEと4面の重心との距離はいずれも $\dfrac{1}{3}R$で相等しいので, これら8点はEを中心とし,半径$\dfrac{1}{3}R$の球面上にある.

Aから $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$への垂線の足を$\mathrm{H}_1$ とすると,球の直径が $\mathrm{L}_1\mathrm{G}_1$であり, 垂心の定義から $\mathrm{L}_1\mathrm{H}_1\bot\mathrm{G}_1\mathrm{H}_1$ なので,$\mathrm{H}_1$もこの球面上にある. 以上から,各4点ずつ12個の点はEを中心とする半径$\dfrac{1}{2}R$の球面上にある. □

南海  平面三角形の場合の九点円からの自然な拡張になっているのは どちらか.

拓生  証明の方法からも(ii)の方です.


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