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素数分布の探求

さてその上で$x$を越えない素数の個数$\pi(x)$はどのような性質をもっているのかを考えよう.

このような場合,まず実験して,$x$の一定の範囲にある素数の個数を求めていくことが大切だ. 自分でプログラムを組んで,書き出していくのがいちばんよい.エラトステネスの篩の方法は プログラムを書く練習のいちばん初歩の問題だ.

ただ大きなところまで計算すると結構時間がかかる.そこで今回は次のところに載っている表を参考にしよう. アメリカのテネシー大学の先生が展開している「The Prime Pages」だ. URLは http://primes.utm.edu/ なので見てほしい.

この中に次のような表が載っている. http://www.utm.edu/research/primes/howmany.shtml このページを見るときは,ブラウザソフトの表示文字種「エンコード」を「Unicode(UTF-7)」にするときれいになる.

ここでは多くの結果が証明なしに紹介されている.

拓生 100までだと規則性があるようには見えないけれど,1000になるとなんとなく直線?     いや少し上に凸なようにも見えます.

http://www.utm.edu/research/primes/gifs/pi1000000.gif

1000000では,やや上に凸なきれいな曲線です.

南海   多くの人が$\pi(x)$の性質を研究した.

拓生  $\pi(x)$ $x=10,\ 100,\ 1000,\ 10000$のときの表に次の値を書き加えてみます.


\begin{displaymath}
\begin{array}{rrrr}
x&\pi(x)&\log_{10}x&\pi(x)\log_{10}x\\...
...0&25&2&50\\
1000&168&3&504\\
10000&1229&4&4916
\end{array}\end{displaymath}

ほぼ,$\dfrac{1}{2}x$の値が $\pi(x)\log_{10}x$になります.ということは

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{2}x=\pi(x)\log_{10}x\quad \iff\quad \dfrac{x}{\log x}=\pi(x)\dfrac{2}{\log 10}
\end{displaymath}

なので, $\dfrac{x}{\log x}$の値がほぼ $\pi(x)\dfrac{2}{\log 10}$になるということです.

南海   そう.このようなことを昔の人はいろいろ調べたのだ.計算機のない時代に手計算で調べたのだ. $\log 10$は約$2.30$なのでこの計算では $\dfrac{x}{\log x}$はほぼ ということになる. もっと$x$を大きくとるとどのような値に収束するか,これをいろいろと推測したのだ.

その結果1801年にルジャンドルは

\begin{displaymath}
\pi(x)\sim \dfrac{x}{\log x}
\end{displaymath}

であろうと予想した.ただしここで$x>0$で定義された2つの関数$f(x)$$g(x)$

\begin{displaymath}
f(x)\sim g(x)
\end{displaymath}

であるとは,

\begin{displaymath}
\lim_{x\to \infty}\dfrac{f(x)}{g(x)}=1
\end{displaymath}

となることとする.

さらにこれとは独立にガウスは

\begin{displaymath}
\pi(x)\sim \int_0^x \dfrac{dt}{\log t}
\end{displaymath}

を予想した.このあたりは先のテネシー大学の先生のページにも載っている.

拓生  予想はいろいろあったのでしょうが,実質的な進展はどうだったのでしょうか.

南海   あのチェビシェフが1850年に次のことを示した.これも先のページにある.次のようにかかれている.

Tchebycheff made the first real progress toward a proof of the prime number theorem in 1850, showing there exist positive constants $a<1<b$ such that

\begin{displaymath}
\dfrac{ax}{\log x}<\pi(x)<\dfrac{bx}{\log x}
\end{displaymath}

and that if $\dfrac{\pi(x)}{\dfrac{x}{\log x}}$ had a limit, then its value must be one.

今日はこのチェビシェフの定理の前半を示そう.

定理 8

正の定数$c_1<1<c_2$で,$x\ge 2$ に対して

\begin{displaymath}
c_1\dfrac{x}{\log x}<\pi(x)<c_2\dfrac{x}{\log x}
\end{displaymath}

となるものが存在する.

これを示すためにひとつ補題を証明しておこう.

補題 5

自然数 $n!$ の素因数分解に含まれる素数 $p$ の個数は,

\begin{displaymath}
\sum_{l=1}^{[\log_pn]}\left[\dfrac{n}{p^l}\right]
\end{displaymath}

である.

証明      $[\log_pn]$$p^k\le n$となる最大の$k$の値である.

1から$n$までの自然数のなかでちょうど$p^l$で割り切れるものの個数は

\begin{displaymath}
\left[\dfrac{n}{p^l} \right]-\left[\dfrac{n}{p^{l+1}} \right]
\end{displaymath}

である. $l\ge[\log_pn]+1$に対しては $\dfrac{n}{p^l}<1$となり $\left[\dfrac{n}{p^l} \right]=0$ である.したがって求める個数は

\begin{eqnarray*}
&&\sum_{l=1}^{[\log_pn]}
l\left(\left[\dfrac{n}{p^l} \right]-\...
... \right]\\
&=&\sum_{l=1}^{[\log_pn]}\left[\dfrac{n}{p^l}\right]
\end{eqnarray*}

である.□

定理8の証明

\begin{displaymath}
c_1\dfrac{x}{\log x}<\pi(x)
\end{displaymath}

となる正の定数の存在を示す.

$m$を正整数として,整数

\begin{displaymath}
{}_{2m}\mathrm{C}_m=\dfrac{(2m)!}{m!m!}
\end{displaymath}

の大きさを2通りの方法で評価する.

$p\le 2m$である素数に対して $\dfrac{(2m)!}{m!m!}$の素因数分解に含まれる素数 $p$ の個数は, 補題5より

\begin{displaymath}
\sum_{l=1}^{[\log_p(2m)]}\left(\left[\dfrac{2m}{p^l} \right]-2\left[\dfrac{m}{p^l}\right]\right)
\end{displaymath}

である.$m$$p^l$で割った余りを$r$とするとき

\begin{displaymath}
\left[\dfrac{2m}{p^l} \right]-2\left[\dfrac{m}{p^l}\right]=
...
...1&\biggl( \dfrac{p^l}{2}\le r <p^l \biggr)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

である.したがって

\begin{displaymath}
\sum_{l=1}^{[\log_p(2m)]}\left(\left[\dfrac{2m}{p^l} \right]-2\left[\dfrac{m}{p^l}\right]\right)
\le [\log_p(2m)]
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\dfrac{(2m)!}{m!m!}\le \prod_{p \le 2m}p^{[\log_p(2m)]}
\end{displaymath}

一方 $p^{[\log_p(2m)]}\le 2m$であるから

\begin{displaymath}
\prod_{p \le 2m}p^{[\log_p(2m)]}\le (2m)^{\pi(2m)}
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{(2m)!}{m!m!}\le (2m)^{\pi(2m)}
\end{displaymath}

となる.ところが


なので,上の結果より

\begin{displaymath}
2^m\le (2m)^{\pi(2m)}
\end{displaymath}

対数をとって

\begin{displaymath}
m\log2 \le \pi(2m)\log(2m)
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{\log 2}{2}\cdot\dfrac{2m}{\log(2m)}\le \pi(2m)
\end{displaymath}

次に$m\ge 1$に対して

\begin{displaymath}
\dfrac{2m}{2m+1}\ge\dfrac{2}{3}
\end{displaymath}

であるから

\begin{eqnarray*}
&&\pi(2m+1)\log(2m+1)>\pi(2m)\log(2m)\ge\dfrac{\log 2}{2}(2m)\\
&>&\dfrac{\log 2}{2}\cdot\dfrac{2}{3}(2m+1)
\end{eqnarray*}

つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{\log 2}{3}\cdot\dfrac{2m+1}{\log(2m+1)}\le \pi(2m+1)
\end{displaymath}

したがって整数$[x]$に対して

\begin{displaymath}
\dfrac{\log 2}{3}\cdot\dfrac{[x]}{\log [x]}\le \pi([x])\le\pi(x)
\end{displaymath}

が成り立つ.ここで$[x]>x-1$なので


したがって

\begin{displaymath}
\dfrac{\log 2}{6}\cdot\dfrac{x}{\log x}<\pi(x)
\end{displaymath}

$c_1=\dfrac{\log 2}{6}$とおけばよい.

次に,

\begin{displaymath}
\pi(x)<c_2\dfrac{x}{\log x}
\end{displaymath}

となる$c_2$の存在を示す.

$m<p \le 2m$の範囲の素数は $\dfrac{(2m)!}{m!m!}$の分母を割らない.よって $\dfrac{(2m)!}{m!m!}$ $\displaystyle \prod_{m<p \le 2m}p$で割り切れる.つまり

\begin{displaymath}
m^{\pi(2m)-\pi(m)}<\prod_{m<p\le 2m}p \le \dfrac{(2m)!}{m!m!}
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
(\pi(2m)-\pi(m))\log m <\log \dfrac{(2m)!}{m!m!}
\end{displaymath}

ところが

\begin{displaymath}
{}_{2m}\mathrm{C}_m<\sum_{k=0}^{2m}{}_{2m}\mathrm{C}_k=2^{2m}
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
\log\dfrac{(2m)!}{m!m!}<2m\log 2
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad (\pi(2m)-\pi(m))<2\log 2\dfrac{m}{\log m}
\end{displaymath}

$y\ge 2$に対して

\begin{displaymath}[2y]\le 2y<2[y]+2
\end{displaymath}

なので

\begin{eqnarray*}
\pi(2y)-\pi(y)&=&\pi([2y])-\pi([y])\\
&\le&\pi(2[y]+2)-\pi([y...
...
&<&2\log 2\dfrac{[y]}{\log [y]}+2<(2\log 2+2)\dfrac{y}{\log y}
\end{eqnarray*}

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