入試問題の中には「図示せよ」などもあるがこれは領域を求めることであるから,基本的にいって入試問題は,なんらかの数学的結果を求めよというものと,示せ,つまり証明せよというものに大別されることがわかる.その過程にヒントを与えるために小問に分かれていることが多いのだが,最後は「求めよ」か「示せ」である.
「求めよ」というのはどういうことか.これはいいかえると「未知なるものを決定せよ」ということである.解を決定せよ,解の個数を決定せよ,体積を決定せよ,そして条件(単に条件といえば必要十分条件のことである)を決定せよ等である.このように入試問題の一つの形は決定問題であるといえる.
「示せ」といわれるもう一つの形はいうまでもなく証明問題である.だがこの二つの形式はその内容においては互いに入り組んでいる.決定問題が証明問題でもあり,証明問題が決定問題でもある.
もしこの問題の「すべて求めよ」が単に「求めよ」であったなら,問題は変わるのだろうか.「求めよ」だけなら少なくとも一つ求めればいいのか.そんなことはない.「求めよ」だけであっても条件を満たすものすべてを決定しなければならないし,それですべてであること,その他にはないことの証明がなされていなければならない.だからまず必要条件で範囲を絞り,その範囲の一つ一つを調べて条件を満たすものを決定しなければならない.
未知なるものを求める決定問題は,正しい決定内容ととりうる値がそれだけであることの証明の両方が必要である.そのように解答をつくってみよう.
解答
を満たす整数が存在するために,
2次方程式が相異なる2実解をもつことが必要である.
判別式をとする.
この2次方程式の二つの解を
とする.
なら少なくとも2個存在するので,
のとき. となり,条件を満たすはない.
のとき.
となり,
のとき. となり 同様に条件を満たす.
ゆえに条件を満たすのはである. □
を1以上の整数とするとき,次の2つの命題はそれぞれ正しいか. 正しいときは証明し,正しくないときはその理由を述べよ.
命題: あるに対して,とは共に有理数である.
命題: すべてのに対して, は無理数である.
これは分類としては論証問題に入るのだろう.が,それぞれ根拠を示して真か偽かを決定せよといっている.つまり問題の形式は真偽の決定である.一般にある命題とその否定について
命題およびその否定のいずれか一方が真であり他方は偽である. それは確定する.が成り立つ.命題とその否定のいずれかが成り立ち「いずれでもない」や第三の結論はない.このことを排中律というのだが,現代数学はこの排中律を公理として認めて建設されている.だから背理法が可能なのだ.いずれにしても真か偽以外はない.したがって真であることを示すか,反例をあげて偽であることを示すか,いずれかを行う.
解答 命題は正しくない. それを示す.
とが共に有理数であるような
自然数が存在したとする.
命題は正しい. それを示す.
あるで
が有理数になったとする.
命題は偽なので,
のいずれもが有理数ということはない.
が無理数のときが有理数なら
で左辺有理数なのでが無理数であることに矛盾.
逆のときも同様に矛盾する.
したがって
はともに無理数である.
とおく.
すると
となる.である.
このとき
命題が正しいことの証明は次のようにすることもできる.
別解
あるで
が有理数になったとする.
明らかにである.そこで
多くの証明問題は「真であること(成立すること)を証明せよ」と「真」という結論を先に示し,そのうえで証明だけを問うものになることが多い.しかし本来はこの京大の問題のように,真か偽かわからないところから探求するのが問題である.この意味で,命題を証明する証明問題は,より一般的にいえば,命題が真か偽かのいずれであるかを決定する問題なのである.だからこの意味では証明問題も決定問題なのだ.
いずれにせよ数学の問題は,未知なるものの値を決定しその根拠を明示することを要求する.ここでいう「値」とは,単に数値という意味ではない.最大値や最小値のような値であることが多いのだが,実数の区間であったり,一定の不等式で定まる領域であったり,さらにまた命題の属性としての「真」か「偽」(それを真理値ということもある)であることもある.