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定義に立ちかえる

糸口がわからないとき,まず考えるべきことは,問題文中の言葉および記号の意味ははっきりわかっているか,ということである.そこをおさえることで解決の糸口がつかめることが少なくない. それを「定義に立ちかえる」という.それには二つの側面がある.

第1は,学校で習ったはずの言葉の正確な意味を押さえる,ということである.

例えば,「$\sqrt{2}$が無理数であることを示せ」という問題がある.まず「無理数とは何か」がわからなければ解きようがない.「無理数とは有理数でない実数」のことだ.だから,「$\sqrt{2}$が無理数であることを示せ」ということは「$\sqrt{2}$が有理数でないことを示せ」ということだとわかる.これなら証明は背理法でするのが自然だ.$\sqrt{2}$が有理数であると仮定する.そこで次は有理数とは何か.「有理数とは分数で表される数」だ.分数は必ず既約分数に出来るから「$\sqrt{2}$が有理数である」ということは,互いに素な整数 $p$$q$ $\sqrt{2}=\dfrac{p}{q}$となるものが存在することである.定義からはじめて $\sqrt{2}=\dfrac{p}{q}$という「式」ができた.これが出発点である.

また,「自然数 $n$ に対して$45n+13$$10n+3$ はつねに互いに素であることを示せ.」は 「互いに素」という言葉の意味,つまり定義がわからなければ,どうしようもない. 「1以外に公約数がない」が定義だ.ということは,「最大公約数が1」であることを示せばよい. そこで$45n+13$$10n+3$の最大公約数を $d$ とし,$45n+13=da$$10n+3=db$とおく.

第2は,出題者が定めた記号の意味を, 自分がわかっている言葉で言い換える,ということである.

「負でない整数$x$の10進法で表した下2桁を$C(x)$とする」というのが京大文系問題にあった. 出題者がこの記号を使って$C(x)=C(y)$と用いたとしよう.このとき

\begin{displaymath}
C(x)=C(y)\quad \iff \quad x-y が100の倍数
\end{displaymath}

ととらえられるか,である.

また「実数$x$に対して$x$を超えない最大の整数を$[x]$」と表す.これはガウス記号といわれ,よく使われる記号だが,日本語で定義された$[x]$の定義に立ちかえれば,$[x]$

\begin{displaymath}[x]\le x<[x]+1
\end{displaymath}

を満たす整数であるということになる.

このように定義に立ちかえることは,数学の問題を解く前提であり,逆にここをはっきりさせることで,問題解決の糸口をつかむことができる.


例題 2.10       [07慶應経済]

$N=\{1,\ 2,\ 3,\ \cdots.\}$を自然数全体の集合とする.集合$S$

\begin{displaymath}
S=\{(x,\ y)\ \vert\ x\in N,\ y\in N\ \}
\end{displaymath}

と定める.$S$の2つの票秦 $(a,\ b),\ (c,\ d)$に対して, 次の条件PまたはQが成り立つとき, $(a,\ b)\triangleleft(c,\ d)$と表すことにする.

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\mathrm{P}:a+b<c+d\\
\mathrm{Q}:a+b=c+d\ かつ\ a<c
\end{array}\end{displaymath}

また$S$の要素$(m,\ n)$に対して集合$T(m,\ n)$

\begin{displaymath}
T(m,\ n)=\{(x,\ y)\ \vert\ ,(x,\ y)\in S,\
(x,\ y)\triangleleft(m,\ n)\ \}
\end{displaymath}

と定める.
(1)
$T(2,\ 3)$の要素をすべて書き並べよ.
(2)
$T(1,\ n)$の要素の個数を$n$の式で表せ.
(3)
$T(2,\ n)$の要素の個数を$n$の式で表せ.
(4)
$S$の要素$(x,\ y)$に対して $w(x,\ y)=2^x\cdot2^y$とおく. $T(2,\ n)$のすべての要素$(x,\ y)$に対する$w(x,\ y)$の和を$n$の式で表せ.


考え方      出題者の定めた新しい記号を定義にしたがってつかみ直し, 既知の記号で表し直せばよい. また,これは次節の「関係の図示」の方法であるのだが, $T(m,\ n)$を図示しながらつかむとよい. そこまですると条件を満たす格子点の個数を求める問題だ.

解答

(1)      $T(m,\ n)$ $1\le x,\ 1\le y,\ x+y<m+n$または$x+y=m+n,\ x<m$の いずれかを満たす$S$の要素からなる.図の斜線および実線上の格子点である.したがって$T(2,\ 3)$の要素は

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
(1,\ 1),\ (1,\ 2),\ (1,\ 3),\ (1,\ 4)\\
(2,\ 1),\ (2,\ 2),\ (3,\ 1)
\end{array}\end{displaymath}
 (2)     同様に考え$T(1,\ n)$の要素は

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
(1,\ 1),\ \cdots,\ (1,\ n-2),\ (1,\ n-1)\\ ...
...dots,\ (2,\ n-2)\\
\quad \ \cdots \\
(n-1,\ 1)
\end{array}\end{displaymath}

なので,その個数は

\begin{displaymath}
1+2+\cdots+n-1=\dfrac{(n-1)n}{2}.
\end{displaymath}

(3)     同様に考え$T(2,\ n)$の要素は

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
(1,\ 1),\ \cdots,\ (1,\ n)\ \ ,\quad (1,\...
...dots,\ (k,\ n-k+1)\\
\quad \ \cdots \\
(n,\ 1)
\end{array}\end{displaymath}

なので,その個数は

\begin{displaymath}
1+2+\cdots+n+1=\dfrac{n^2+n+2}{2}.
\end{displaymath}

(4)     $T(2,\ n)$の要素に対する$w(x,\ y)$

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
2^1\cdot2^1,\ \cdots,\ 2^1\cdot2^n\ ,\qu...
...\cdot2^{n-k+1}\\
\quad \ \cdots \\
2^n\cdot2^1
\end{array}\end{displaymath}

なので,$x=k\ (k\ge 2)$に対する和は

\begin{displaymath}
2^k(2^1+\cdots+2^{n-k+1}=2^k\cdot2\cdot(2^{n-k+1}-1)
=2^{n+2}-2^{k+1}
\end{displaymath}

である.したがって総和は

\begin{eqnarray*}
&&\sum_{k=1}^n\left(2^{n+2}-2^{k+1}\right)+2^1\cdot2^{n+1}\\
&=&n\cdot 2^{n+2}-2^2(2^n-1)+2^{n+2}=n\cdot2^{n+2}+4
\end{eqnarray*}


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