次: 切断の方法
上: 実数の構成
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整数,自然数,あるいは自然数と0の集合などから他の数学的対象への写像を数列という.ここでは,自然数の集合,あるいは自然数と0の集合から実数への写像を考える.自然数に対する値をのように表し一般項という.を初項という.
数列が数に収束することは,高校数学では
「がかぎりなく大きくなるとき,はにかぎりなく近づく」と理解し,
と書き表す.だが「かぎりなく」というのはどういうことだろうか.これは必ずしも明確ではない.また,「」は「がいくらでも大きくなる」と理解する.しかし「いくらでも大きくなる」もまた必ずしも明確ではない.
収束や極限値という概念の定義のなかの言葉にはこのような「無限」が潜んでいる.無限という概念は,人間にとって魅力あるものだが,集合論で見たように危険も伴う.収束や極限値を定義する言葉のなかに「無限」が現れることを避けることはできないのか.
で定まる数列を考えよう.これは1に収束する.収束するということは,を大きくすればがいくらでも1に近くなるということだ.「いくらでも」ということは,どんな小さい正の実数が指定されても,
がより小さくなるようにを大きくできるということではないか.1とを
よりもっと近づけよ,といわれればを100より大きくとればよい.
より小さくしたければ10000より大きくとればよい.「どんなに小さい」というが「小さい」ことは関係ない.「何が指定されても」ということだ.
任意の正の実数対し,
なら
となるが存在する.
この命題のなかには「かぎりなく」や「いくらでも」という言葉はない.これをもって収束の定義としてはどうだろうか.
定義 10 (数列の収束)
数列
と数
がある.
任意の正の実数
に対し,番号
で
となるものが存在するとき,数列
は
に収束するという.
■
のことを極限値といい.
と書く.
「任意の正の実数に対して,番号で…となるものが存在」というところは「どのような小さい」正の実数が指定されても,それに対して「つねに」番号が存在する,ということを意味している.だが数学ではそのような副詞は必要ない.
数列の極限に関し今後必要なことをいくつか示していこう.上記の論法を用いると.これを厳密に論証することができる.
定理 9
数列
および数列
が収束して,
,
のとき,
が成り立つ.
■
証明
- (1)
-
に対し自然数が存在して,
なら
となる.このとき
なので,
- (2)
-
に対し自然数が存在して,
なら
,
となる.このとき
なので,
- (3)
- 数列は収束するので,
なら
となる
正定数と自然数が存在する.
に対し自然数が存在して,
なら
,
となる.
とすると,のとき
- (4)
-
を示せば,(3)と併せて(4)は成立する.
なのでなら
となると正定数が存在する.
つまり
である.
に対してなら
となるが存在する.
にとる.
なら
□
定理 10 (はさみうちの原理)
三つの数列
の各項の間に
がなり立ち,かつ数列
および数列
が同じ値
に収束するとする.
このとき,数列
も収束し,極限値は
である.
■
証明
任意の正の実数に対してならば
となるが存在する.このとき
よって数列収束し,極限はである.
□
カントールは,以上の準備の下,基本数列を定義し,そのある同値類の集合として実数を定義した.
定義 11 (基本数列)
数列
が性質
をもつとき,これを
基本数列または
コーシー数列という.
■
集合を有理数からなる基本数列の集合とする.
に属する二つの基本数列
において
が成り立つとき,二つの基本数列
には関係〜が成り立つとする.
関係〜は同値関係である.
-
より,
.
-
より
なら
.
-
より
なら
.
したがってこの関係〜による商集合が定義される.数列の属する同値類を
のように表そう.
この商集合はまだ単に数列の同値類の集合でしかない.まずこれを順序体にしなければならない.次の手順でなされる.以下方針のみとし証明は略する.
- 和と積を
で定義する.
類の代表のとり方によらず定まる(これを"well-defined"という).
のような定数数列をのように表すことにする.
加法の単位元は
,
乗法の単位元は
であり,このときそれぞれ逆元は
となる.ただし
を考えるときは,
数列は0には収束しないときであり,
においては0の項を除いた
部分列を改めて数列とすることにする.
これによって四則演算が定義され,商集合は体となること,
つまり実数の公理のI)が満たされる.
有理数を数列の
属する類と同一視することで
とできる.
- 順序を次のように定義する.
この定義がwell-definedであることも示される.
このように定義された順序は順序の公理を満たす.
実数の公理II)が成り立つことがわかった.
つまり商集合は順序体である.
以下はこの順序体をで表し,
の要素をのように一文字で表す.
証明
アルキメデスの原則を満たさないということは,に埋め込まれた自然数の集合が上に有界であることを意味する.したがって,任意の
に対してとなる自然数が存在すること,いいかえればのなかでが有界でないことを示せばよい.
そこでを定義する基本数列をとる.これは有界であるから
となる有理数が存在する.ところが有理数体はアルキメデスの原則を満たすので,となる自然数が存在する.つまり
これはのなかに埋め込まれたについてとなることを意味しており,のなかでが有界でないこと示された.
□
最後にが実数の公理を満たすことを示す.
定理 12
は連続性の公理を満たす.つまり,
を
の空でない部分集合とする.集合
が上に有界ならば
の上限
が存在する.
■
証明
上限の存在を示すために,を適当にとり,
としてに上限が存在することを示せばよい.したがってはじめからは下にも有界であるとする.がアルキメデスの原則を満たすことは示されているので,
となる有理数とが存在する.
ここでの上限を構成する.閉区間の列で次の性質をもつものを定める.
- (i)
-
.
- (ii)
- はの上界.
- (iii)
- はの上界ではない.
これを次のように帰納的に定める.
- 1.
-
.これは条件を満たす.
- 2.
- は条件を満たすとする.
がの上界なら
,
がの上界ではないなら
と定義する.
この
は(i)〜(iii)を満たしている.
数列は基本数列である. 実際,であるから
任意の正整数に対して
がアルキメデスの原則を満たすので
である.
したがって数列は基本数列である.
数列の属する類,つまりの要素をとする.
であるから,
数列も同じ類に入る.
はの上限である.
なのでである.一方,任意の
に対して
,つまり
となるが存在する.
は上界ではないので
は上界ではない.
これはがの上限であることを意味している.
□
このようにして実数の公理をすべて満たす集合が構成できたのである.したがって,この実数を用いて自然現象や社会現象を連続なものとして近似的につかみ,その解析をすることが保障されたのである.
この構成法によって,次の完備性が示される.
実数においてはこの逆もなり立つのである.
定理 13
実数からなる数列が収束するための必要十分条件は,
数列が基本数列であることである.
■
証明
まず収束数列は基本数列であることを確認しよう.
数列がに収束するとする.任意の正の実数に対して
なら
となるがある.のとき
となる.よって数列は基本数列である.
逆を示す.数列が基本数列であるとする.
実数1に対し, なら
となるが存在する.とする.
なら
がなり立つので
となり,すべてのについて
がなり立つ.つまり数列は有界である.
集合を
とする.実数の部分集合は有界なので上限と下限が存在する.
とおく.集合の要素はが増加すれば減少するので,
数列は単調増加,数列は単調減少である.
よって数列は単調減少である.
一方,数列は基本数列なので,任意のに対して,
なら
となる.これからとは集合の下界と上界である.
したがって
よってなら
つまり
区間縮小法の原理(定理18)によって
数列と数列は同じ値に収束する.
なので,数列もに収束する.
□
実数の集合においては,収束数列であることと,それが基本数列であることが同値である.有理数の集合においては同値ではない.これが同値であるという実数の集合の性質を完備性という.
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2014-05-23