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二論は同等

二つの実数の構成法はずいぶん異なっている.

カントールによって基本数列を用いる構成では,数の大小関係(順序)を一切使わず,二つの数の間の距離のみを用いている.つまり距離による完備化である.逆に順序は改めて定義しなければならなかった.そのうえで埋め込まれた有理数体の大小関係を用いてアルキメデスの原則が成り立つことを示し,それを用いて上限の存在を示した.

これに対して,デデキントの切断は,二つの有理数の間の距離(長さ)のような概念を一切使わず,ただ数の大小関係(順序)しか使わない.順序を用いた有理数の完備化である.したがってただちに上限の存在は示せた.つまりアルキメデスの原則は定義からの帰結である.

二つの理論は同等である.それを証明するために数列に関するいくつかの定理を示そう.

単調有界数列

まず単調で有界な数列の収束定理を証明しよう. このような数列を単調増加有界数列という.

定理 17 (単調増加有界数列)       実数からなる数列$\{a_n\}$は条件
\begin{displaymath}
a_n<a_{n+1},かつすべての\ n\ に対して\ a_n<M\ となる実\ M\ が存在する.
\end{displaymath}

が成り立つ.このとき数列$\{a_n\}$は収束する. ■
証明     実数の集合 $\{a_n\ \vert\ n \in \mathbb{N}\}$は上に有界であるからその上限が存在する.
\begin{displaymath}
\s上\{a_n\ \vert\ n \in \mathbb{N}\}=\alpha
\end{displaymath}

とおく.正数$\epsilon$に対して $\alpha-\epsilon$は集合 $\{a_n\ \vert\ n \in \mathbb{N}\}$の上界ではないから,ある番号$N$
\begin{displaymath}
\alpha-\epsilon<a_N\le \alpha
\end{displaymath}

となるものが存在する.数列$\{a_n\}$は単調増加なので $n> N$ならば
\begin{displaymath}
\alpha-\epsilon<a_N\le a_n\le \alpha<\alpha+\epsilon
\end{displaymath}

つまり
\begin{displaymath}
\left\vert a_n-\alpha\right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

ゆえに $\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n=\alpha$である. □

系 17.1       実数からなる数列$\{a_n\}$は, $a_n>a_{n+1}$, かつすべての$n$に対して,$a_n>M$となる実数$M$があるとする. このとき数列$\{a_n\}$は収束する. ■
証明     $b_n=-a_n$とおくことで定理17より明らかに成り立つ. □


定理と系を一言でいえば,「単調有界数列は収束する」ということである.

例 2.2  
(1)
$0<r<1$のとき,任意の非負整数$k$に対して
\begin{displaymath}
\lim_{n\to \infty}n^kr^n=0
\end{displaymath}

(2)
$a$を正数とする.
\begin{displaymath}
\lim_{n\to \infty}\dfrac{a^n}{n!}=0
\end{displaymath}

(3)
$a>1$とする.
\begin{displaymath}
\lim_{n\to \infty}\sqrt[n]{a}=1
\end{displaymath}

証明    
(1)
$a_n=n^kr^n$とおく.
\begin{displaymath}
\dfrac{a_{n+1}}{a_n}=
\dfrac{(n+1)^kr^{n+1}}{n^kr^n}=\left(\dfrac{n+1}{n} \right)^kr
\end{displaymath}

$n$が十分大きければこれは1以下である.実際
\begin{displaymath}
\left(\dfrac{n+1}{n} \right)^kr\le 1\ \iff\
\dfrac{n+1}...
... \iff\
r^{\frac{1}{k}}\le n\left(1-r^{\frac{1}{k}}\right)
\end{displaymath}

アルキメデスの原則によって
\begin{displaymath}
r^{\frac{1}{k}}\le n_0\left(1-r^{\frac{1}{k}}\right)
\end{displaymath}

となる$n_0$がある.
\begin{displaymath}
n_0\le n\ \Rightarrow
r^{\frac{1}{k}}\le n\left(1-r^{\frac{1}{k}}\right)\ \iff
\ a_n\ge a_{n+1}
\end{displaymath}

数列$\{a_n\}$$n_0$から先が単調減少で$a_n\ge 0$なので下に有界. 極限 $\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n=\alpha$が存在する.
\begin{displaymath}
a_{n+1}=
\left(\dfrac{n+1}{n} \right)^kra_n
\end{displaymath}

であり, $\displaystyle \lim_{n \to \infty}\left(\dfrac{n+1}{n}\right)^k=1$ なので
\begin{displaymath}
\alpha=r\alpha
\end{displaymath}

$r\ne 1$より$\alpha=0$である. つまり $\displaystyle \lim_{n\to \infty}n^kr^n=0$である.
(2)
$a_n=\dfrac{a^n}{n!}$とおく.
\begin{displaymath}
\dfrac{a_{n+1}}{a_n}=\dfrac{a}{n+1}
\end{displaymath}

そこで $N(\in\mathbb{N})$$N> a-1$にとる. $n> N$なら$n+1\ge a$となり, $a_{n+1}\le a_n$. 数列$\{a_n\}$$N$項から単調減少で有界($a_n> 0$)である. よって極限値 $\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n=\alpha$が存在する. 一方 $a_{n+1}=\dfrac{a}{n+1}a_n$なので$n \to \infty$とすると,
\begin{displaymath}
\alpha=0\cdot \alpha=0
\end{displaymath}

すなわち $\displaystyle \lim_{n\to \infty}\dfrac{a^n}{n!}=0$である.
(3)
$a>1$なので
\begin{displaymath}
\sqrt[n]{a}\ge \sqrt[n+1]{a}
\end{displaymath}

すなわち数列 $\{\sqrt[n]{a}\}$は単調減少有界数列である. 極限値 $\displaystyle \lim_{n\to \infty}\sqrt[n]{a}=\alpha$ が存在する. $\alpha>1$と仮定し $\alpha=1+h\ (h>0)$とおく.
\begin{displaymath}
\sqrt[n]{a}\ge \alpha=1+h\quad (n \in \mathbb{N})
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
a\ge (1+h)^n> 1+nh\quad (n \in \mathbb{N})
\end{displaymath}

すべての $n(\in \mathbb{N})$に対して$nh<a-1$となり, $h,\ a-1>0$であるからアルキメデスの原則と矛盾する. よって$\alpha=1$である.


定理 18 (区間縮小法の原理)       閉区間 $I_n=[a_n,\ b_n]\ (n=1,\ 2,\ \cdots)$は条件
(i)
$\displaystyle I_{n+1}\subset I_n\ (n=1,\ 2,\ \cdots)$
(ii)
$\displaystyle \lim_{n \to \infty}\left\vert b_n-a_n \right\vert=0$
を満たす.このときすべての区間に共通な要素がただ一つ存在する. つまり集合 $\displaystyle \bigcap_{n=1}^{\infty}I_n$はただ一つの実数からなる. ■
証明     条件(i)から数列$\{a_n\}$は単調増加で数列$\{b_n\}$は単調減少である. ゆえに
\begin{displaymath}
a_n\le b_n\le b_1
\end{displaymath}

となり数列$\{a_n\}$は上に有界である. したがって定理17から収束する.
\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}a_n=\alpha
\end{displaymath}

とする.
\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}b_n=
\lim_{n \to \infty}(b_n-a_n+a_n)=
...
...n \to \infty}(b_n-a_n)+\lim_{n \to \infty}a_n=0+\alpha=\alpha
\end{displaymath}

つまり
\begin{displaymath}
\bigcap_{n=1}^{\infty}I_n=\{\ \alpha\ \}
\end{displaymath}

である. □


定理 19 (ボルツァノ―ワイエルシュトラスの定理)       有界数列は収束部分列をもつ. ■
証明     数列$\{a_n\}$が有界なので
\begin{displaymath}
b_1\le a_n\le c_1\quad (n\in \mathbb{N})
\end{displaymath}

となる区間 $I_1=[b_1,\ c_1]$が存在する.集合
\begin{displaymath}
\{\ n\ \vert a_n \in [b_1,\ c_1]\ \},\
\end{displaymath}

$\mathbb{N}$自身であり無限集合である.これを区間$I_1$に属する$a_n$は無数にある,という.

区間 $I_k=[b_k,\ c_k]$に属する$a_n$が無数にあるとする. この区間の中点を$m_k$とする. 2つの区間$[b_k,\ m_k]$$[m_k,\ c_k]$のいずれかには無数の$a_n$が属する. つまり2つの集合

\begin{displaymath}
\{\ n\ \vert a_n \in [b_k,\ m_k]\ \},\
\{\ n\ \vert a_n \in [m_k,\ c_k]\ \}
\end{displaymath}

の少なくとも一方は無限集合である. 第1の集合が無限集合なら $b_{k+1}=b_k,\ c_{k+1}=m_k$とし, 第2の集合が無限集合なら $b_{k+1}=m_k,\ c_{k+1}=c_k$とする. このようにして区間 $I_{k+1}=[b_{k+1},\ c_{k+1}]$を定める. 帰納的に縮小区間の列 $I_k\ (k=1,\ 2,\ 3,\ \cdots)$
\begin{displaymath}
\{\ n\ \vert a_n \in I_k\ \}が無限集合,かつ
c_k-b_k=\dfrac{c_1-b_1}{2^{k-1}}
\end{displaymath}

となるように定められた. 定理18によって
\begin{displaymath}
\lim_{k \to \infty}b_k=
\lim_{k \to \infty}c_k=\alpha
\end{displaymath}

が存在する.

数列$\{a_n\}$の部分列 $\{a_{\varphi(k)}\}$$\alpha$に収束するものを次のように定める.


\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\varphi(1)=1,\\
\varphi(1),\ 最小のものを\ \varphi(k+1)\ とする.
\end{array}
\end{displaymath}

数列 $\{a_{\varphi(k)}\}\ (k=1,\ 2,\ 3,\ \cdots)$は数列$\{a_n\}$の部分列であり
\begin{displaymath}
b_k\le a_{\varphi(k)}\le c_k
\end{displaymath}

が満たされるのではさみうちの原理から$\alpha$に収束する. □

この定理にも歴史がある. 区間を順次二等分することで,区間縮小法を適用した. この論法はワイエルシュトラスの逐次二等分法といわれている. 数列$\{a_n\}$の部分列の極限値を数列$\{a_n\}$集積値という. ボルツァノ―ワイエルストラスの定理は集積値という概念を用いると次のようにいえる.

有界数列には集積値が存在する.

公理の構造

ここで少し公理の構造ということを考えておこう.

定理 20       体$K$は順序体であるとする. このとき命題:
1.
$(A\vert B)$$K$の切断であるとき, $A$に最大値が存在するか$B$に最小値が存在するか, いずれかが成り立つ.
2.
$K$における上に有界な空でない集合は, $K$内に上限をもつ.
3.
$K$の要素からなる数列$\{a_n\}$が上に有界で 単調増加なら$K$において収束する.
4.
$K$では距離 $\left\vert x-y \right\vert$が定義され, 順序に関してアルキメデスの原則が成り立つとする. 閉区間の列 $I_n=[a_n,\ b_n]$
\begin{displaymath}
I_0\s上set I_1\s上set \cdots,\ \quad
\lim_{n \to \infty}\left\vert b_n-a_n \right\vert=0
\end{displaymath}

を満たすなら,すべての区間に含まれる$K$の要素がただ一つ定まる.
5.
$K$では距離 $\left\vert x-y \right\vert$が定義され, 順序に関してアルキメデスの原則が成り立つとする. $K$の基本数列は$K$内に収束する.
はすべて同値である. ■
証明     多くの証明はすでになされているのでそれを指摘しつつ不足部分を補う.

こうして,有理数の切断による実数の理論と基本列によるそれとは同等である.同等であるとはつぎの四つの命題が成り立つことを意味する:

  1. 任意の切断に対して,これが定める実数に収束する基本列がある.
  2. 任意の基本列に対して,これと同一の実数を定める切断がある.
  3. 切断の間の大小,相等の関係は,これらの切断に対応する基本列の間の関係とそれぞれ一致する.
  4. $x,\ y$に四則算法を行うとき,基本列に対する算法の定義をあてはめても,切断に対する算法の定義をあてはめても結果はそれぞれ等しい.

この記述は『数学原論』[25]によっている.このようにして定義される順序体は実数体と呼ばれ,これを$\mathbb{R}$と書くのであった.

最後に,『数の概念』における実数体の定義を述べよう.ここにいたる著者高木貞治の思索の跡については『数とは何か そしてまた何であったか』[23]などを参照されたい.

定義 13 (連続体の定義)        空でない全順序集合$\L $において次の公理が成り立つときそれを実数体と言い,$\mathbb{R}$と記す.
1.
無限界性公理:$\L $は上にも下にも有界ではない.
2.
連続性公理:$\L $は連続である.
3.
最小性公理:連続かつ無限界な全順序集合には,$\L $と同型な部分集合が存在する.

連続体とはまた,実直線に他ならない.人間は長い歴史を経て,直線というものをこのようにつかんだといえる.

どのような公理を立てるのかがなぜそんなに問題になるのか.それは公理相互の関係を解明し,可能なかぎり一般的で前提の少ない公理系をうち立て,公理相互の関係を研究すること自体が,実数というものの本質を研究することである.

数学的現象は事実として存在する.それを公理系で捉えようとする.公理は絶対的真理ではなく,数学的な対象を捉えるための方法であり,公理相互の関係の中にその対象の本質的が顕れている.


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2014-05-23