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有理数が二つの集合との和集合で,の任意の要素との任意の要素の間につねにが成り立っているとき,これをと書いて「切断」と呼ぶ.をの下組,を上組という.
とする.この切断は有理数3を定める.
とする.としたときも切断は有理数3を定める.
これは理解できる.
とすると,となる有理数は存在しないのだから,この境目になる有理数はない.実数ならいわゆるが対応するが,有理数のなかではこの切断の境目となる数は存在しない.しかし逆に見ると,有理数だけを用いてが指示できている.有理数を用いて実数を指示できる.それなら有理数から実数を構成する方法として,切断の集合
を考えればよいのではないか.からか,からかへ1つの要素を動かしてそれをとするときも切断になるなら
とする.上の例では
である.となる有理数はないのだから,はと同値なものは他にない.
切断の集合の同値関係による商集合を
とおく.
定理 14
集合
には四則演算,大小関係が定義でき,
実数の公理を満たす.
■
以下方針のみとし証明は一部を除き略する.
まず,には有理数が自然に埋め込まれる.
また,の順序と整合する自然な順序が定義できる.
つまり,切断に対して異なる実数が定まるとする.
したがってとは一方の要素を動かして他方になるということも,
等しいこともない,とする.
なら,
ならとすればよい.
これによってに順序が入る.
加法は次のように定めればよい.
とがそれぞれ切断
,
で定義されているとする.
とし,の補集合をとするとき,は切断であることが示される.
この切断で定まるの要素をと定める.
これをもとに加法の逆元,0などを構成する.
この加法と順序は順序の公理を満たす.
ここでは積を定義し,それが定義になっていることを示そう.
以下の定義は青空学園数学科の『解析概論』読書会における Kanneyさんの定義であり,
証明は南海によるものである.
定義 12 (切断の集合での積の定義)
の切断で0を含まない組を
,
のそれを
とし,
,
の積
の集合を
とする.
それはある切断の0を含まないほうの組である.この切断をもって積
を定義する.
■
これで積が定義できていることを示す.
切断が有理数のときはとの切断を同一視し,
具体的に考えるときは境界は上の集合に入れることにする.
,とする.
以下集合はすべての部分集合である.
- 1)
-
のとき.
,
.
(順序は定義できているので有理数と無理数でも不等式は意味がある).
に対し,
とおく.
の補集合をとする.
に対しを示せばよい.
なので,を否定してとなったとする.
,
として とする.
において,より.
よって
となる.
つまり
.
がとの要素の積で表せたので,
と矛盾.よって.つまりは切断である.
- 2)
-
のとき.
,
.
そこで
とおく.の補集合をとする.
に対して
とすれば
.
よってはすべての負の有理数を含む.
明らかに0と正の有理数は含まない.
よっては切断であり0に一致する.
- 3)
-
のとき.
,
.
そこで
とおく.の補集合をとする.
に対して
とすれば
.
よってはすべての正の有理数を含む.
明らかに0と負の有理数は含まない.
よっては切断であり0に一致する.
(こうして構成されたものは0が下に含まれる切断になる.
これと0のみを上に移した切断は同じものである).
- 4)
-
のとき.
.
とおく.の補集合をとする.
に対しを示せばよい.
となったとする.とおく.である.
とするとより
.
よって
.
したがってがとの要素の積で表せたので,
と矛盾.よって.つまりは切断である.
- 5)
-
のとき.
.
とおく.の補集合をとする.
に対しを示せばよい.
となったとする.とおく.
である.
とするとより
.
よって
.
したがってがとの要素の積で表せたので,
と矛盾.よって.つまりは切断である.
よって積が定義された.
□
この積に関して結合法則が成り立ち,和との間で分配法則が成り立つ.
定理 15
は連続のを満たす.
つまり
を
の空でない部分集合とする.
集合
が上に有界ならば
の上限
が存在する.
■
証明
は上に有界なので
となるが存在する.
を定める切断をとする.
である.集合に属する切断
の下組の和集合をとる.
とおく.であり,の補集合をとすると
となる.は切断である.この切断の定める実数をとする.
なので,はの上界である.
一方,
より.つまり
となる.つまりはの上界の最小値である.
□
このようにして,も実数の公理をすべて満たすことが示された.
定理 16
の順序で
自身に切断が定義される.
この切断も同様に
のように表す.
が
の切断であるとは
このとき,
の切断では,
に最大値が存在するか
に最小値が存在するか,
いずれかが成り立つ.
■
証明
は上に有界であるから上限が存在する.がに属せばの最大値であり,
に属せばの最小値である.□
このようにしてもまた実数の公理をすべて満たすことが示された.
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2014-05-23