をある与えられた集合とし, をからへの写像とする. の要素でとなるものをの不動点という.
証明 である. ならが,ならが不動点である. とする. なので 連続関数に関する中間値の定理によって, となるが存在する. がの不動点である. □
次の例は大学入試(92神戸大)で出題された.
証明 である. なら として をとればよい. なら として をとればよい.そこで とする.
このとき,かつ なので となる の中の最大のものが存在する.それを とする. である.
は を満たさないので
.
ところが ならば,つねになので
縮小写像の条件から,縮小写像は連続である.
となる点があるとする.
から
この定理は単純であるが,大変有用である. 積分方程式や微分方程式の解の存在, およびその解に収束する関数列の構成に応用することができる.
縮小写像より一般的な連続写像に関する不動点定理は位相幾何学の分野である. 例えば次のような定理が成り立つ.
のときが例6.2である. 一般的な証明は位相幾何学の準備がいる. 例えば文献『位相幾何学』[25]のような位相幾何学の入門書を見てほしい. ここでは文献『直観幾何学』[25]によって,つまり円板の場合にこれを証明しよう.
のときの証明
円板上にの不動点が存在しないと仮定し矛盾が起こることを示す.
を中心を原点にして平面に置く.は不等式で表される. に対し円をとする. の任意の点に対し なので, ベクトル をとることができる. が連続なのでこのベクトルの大きさも向きも連続的に変化する.
ベクトル が軸の正の方向となす角を とし, 点を上反時計回りに一周させたときの 変化量をとする. とおく. 一周すれば元に戻るのだからはの整数倍である.
を求める. 点での円の接線ベクトルのうち, ベクトル を 左側に見るものが軸の正の方向となす角をとする. 最初点を上のにとる. このとき である. を反時計回りに一周する. は0からまで変化する.
仮にの変化量がでないと仮定する. すると1周まわったとき角は以上か0以下である. 2つの角の差は,最初 にあり, 一周して点がに戻ったとき, である. は連続的に変化するので,途中で となるか となるときがある. 一方,がの周か内部にあり にあるので である.矛盾が起こる. つまりである.
の変化に対して角は連続的に変化するのでも連続的に変化する. ところがはの整数倍しかとり得ないので,すべてのに対して である.
しかしのとき であり, の連続性から角の変化量も0に収束する. これは矛盾である. 従っては不動点をもつ. □
位相幾何,あるいは函数解析といわれる広大な分野に近づいてきているが, ここで踵を返し,多次元の微積に戻らなければならない.