次: 微分と幾何
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以下ではとし,平面の部分集合で定義された関数を考える.
これを次元に一般化することは難しいことではないが,ときには次の線型代数を必要とする.
の従属変数をとにとりのように表す.が連続な場合,
によってを座標系とする三次元空間に置かれた曲面が定まる.
定義領域の点をとる.
をに固定しの関数としてのにおける微分係数が存在するときそれをと書き,
におけるについての偏微分係数という.
をに固定しの関数としてのにおける微分係数が存在するときそれをと書き,
におけるについての偏微分係数という.
である.
がの各点でについての偏微分係数をもつとき,にその偏微分係数値を対応させる関数を
と書き,をについての偏導関数という.
などと書く.がの各点でについての偏微分係数をもつとき,にその偏微分係数値を対応させる関数を
と書き,をについての偏導関数という.
などと書く.
偏微分は,で定まる曲面を平面に平行な平面
で切った断面上の曲線上の点
での接線の傾きを表す.
についても同様である.
これはまだの微分可能性を特徴づけたものではない.
一変数の場合の微分係数を顧みる.
の区間で定義された関数のにおける微分係数とは,
のグラフである曲線の点における接線の傾きであり,
が接線の方程式であった.における微分可能性とは,
点における接線の存在に他ならなかった.
いいかえるとのにおける微分可能性とは
となる(のみによる)定数の存在と同値である.
これを二変数の場合に拡張する.
定義 34 (微分可能)
の変数で定義された関数
と
の点
に対し,
となる(
のみによる)定数
が存在
するとき,
は点
で
微分可能であるという.
関数
が
の各点で微分可能なとき
は
において微分可能であるという.
■
定義34の条件は次の表現と同値である.
の変数を
,
定点をとする.
となるベクトル
が存在する.ただし,
は内積を表す.
■
注意 6.2
本定義における「微分可能」を全微分可能ということも多い.
ここは『解析概論』の用語に従った.
が点で微分可能であるとする.
とおくと
なので,
は点で連続である.さらに,
なので,同様にである.一次式
を全微分,平面
を曲面の点における接平面という.
定理 74
で定義された関数
が偏導関数
をもち,
が
で連続ならば,
は
において微分可能である.
■
証明
の点をとり
とおく.一変数の平均値の定理によって
と表される.よって
となる.
は連続なので,正数に対し
となる正数が存在する.よって
つまり
ゆえにはで微分可能.
はの任意の点であるから,はで微分可能である.
□
注意 6.3
本定理は
の存在と,いずれか一方の連続性のみを仮定すれば成立する.
これについては『解析概論』
定理26を参照のこと.
系 74.1
領域
で関数
が微分可能であるとする.
内の微分可能な曲線
がある.
関数
に関して
が成り立つ.
■
証明
記号は定理74を用いる.
区間内の点をとる.
と表せる.ここでのとき
となる.よって
である.
これが任意ので成立するので命題が示された.
□
平面の開集合で定義された連続関数がある.
の点でであるとする.
このとき,
を含む実数のある開区間で定義された連続関数
で
を満たすものを,
方程式が定める陰関数という.
陰関数の存在に関して,次の定理が成り立つ.
定理 75 (陰関数定理)
平面の開集合
で定義された連続関数
がある.
の点
で
であり,かつ
である.このとき,
を含むある開区間
で連続で,
かつ
となる関数
がただ一つ存在する.
さらに,が連続ならは微分可能で
となる.
■
証明
とし,
とおく.は次の条件を満たしている.
をとる.
が開集合であり,がで連続でなので,
をとり,に対して
となる,が存在する.
さらにが連続でなので,を十分小さく,
のとき
となるように,とることができる.
平均値の定理から
に対し
である.よってに対し
となる.
次に閉区間での連続関数空間において,
に対して,
距離を
で定める.そして部分空間を
にとると,距離空間はに関して完備である.
に対して
とおく.
であるから,はからへの写像である.
さらに,
に対して,
である.よって
が成り立ち,は縮小写像である.
不動点定理72によって,はただ一つの不動点をもつ.
それをとすると,
が成り立つ.つまり
である.
条件を満たすはの関数としてただ一つである.
つまり,でであるとするとき,
が成り立つ.次のように示される.
よりなので,
が成り立つ.
より
.つまりが成り立つ.
とくに,でなのでである.
さらに,も連続なら定理74によっては全微分可能である.
よって
について,
区間で平均値の定理を用いることにより,
その系74.1から
である.を
にとると,
なので,
をとって
を得る.
□
系 75.1
関数
が開区間で微分可能で,
その区間内の
で
であり,
なら,
は
を含む開区間で定義された逆関数
をもつ.
そして,
となる.
■
証明
とおく.
であるから,のとき陰関数が存在し,
である.
さらに
なので,
である.
□
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2014-05-23